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ナルコレプシー 暴走するレム睡眠

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ナルコレプシー 暴走するレム睡眠

ナルコレプシーと睡眠発作

「睡眠発作」、すなわち日中に襲ってくる耐えがたい眠気。それは睡眠時無呼吸症候群だけの症状ではない。
睡眠発作は、むしろナルコレプシーにおいて、じつに極端なかたちをとって現れる。
「ナルコレプシー」は古くから記録されている睡眠障害である。昔の医学文献をひもとくと、詳細な報告のある睡眠障害といえば、ナルコレプシーをおいてほかにはない(もっとも、睡眠障害に関する論文自体、全体的に見れば数が少なかった)。ナルコンプシーが古くから注目されてきた理由は、その劇的な睡眠発作にある。つまり、日中、とつぜん強烈な眠気に襲われ、そのまま眠りこんでしまうのである。発作は場所と時を選ばない。食事の最中、あるいは電話をしている最中に眠りこんでしまうこともあるし、車を運転しながら眠ってしまうこともある。また、睡眠発作時に体の力が抜け、その場にくずおれたり、とつぜん倒れたりする。これは「カタプレキシー」と呼ばれる脱力発作である。
睡眠発作と、それが引き起こす脱力発作という2大症状から、かつてナルコレプシーは、てんかんの一種と考えられていた。実際、医学の教科書にそうした記述が見られたこともあった。だが、現在この考えは否定されている。
ナルコレプシーにおける脱力発作は、感情のゆれをきっかけとして生じる場合がある。これは、健康な人はもとより、睡眠時無呼吸症患者にも見られない現象である。たとえば、怒りや喜びの感情に突き動かされると発作が起こる。また、笑ったり、泣いたりしている最中に発作が起こることもあるし、何かに驚いた拍子に脱力してしまう場合もある。
睡眠研究所で私たちが初めて診察したナルコレプシー患者は、この「情動性」の脱力発作に困り果てていた。というのも、せっかく孫が遊びに来てくれても、そのたびに発作が起きて、体が「麻痺」してしまうというのである(彼は自分の脱力発作を「麻痺」と呼んでいた)。また、私たちが診たナルコレプシー患者の中に、教師を職業としている女性がいた。だが、彼女はけっして生徒を叱ることができなかった。
というのも、大声を出して怒ったりすれば、かならず睡眠発作と脱力発作に襲われるからである。しかも生徒たちは、先生がおとなしいのをいいことに、教室で好き勝手に振る舞うのだった。彼女にとって、これはじつに不本意なことであった。

「入眠時幻覚」と「睡眠麻痺」

さらにナルコレプシーを特微づける症状として、「入眠時幻覚」と「睡眠麻痺」がある。入眠時幻覚は、ナルコレプシー患者でなくとも生じる現象であり、覚醒状態から睡眠状態への移行期に現れる。ただし、ナルコレプシーにおける入眠時幻覚は、非常に鮮明なイメージをともなうため、ほとんど明確な「夢」として現れる。とくに、その夢には、発作の直前に目にした景色、あるいは耳にした音がまぎれこんでくることが多い。たとえば、私たちの診察したナルコレプシー患者の一人は、パスに乗っている最中に発作が起こると、かならず鮮明な緑色のイメージをふくんだ夢を見るといっていた。彼女はしばらくその理由に思いいたることもなかったのだが、何年か経ったある日、乗っていたバスの座席の色が緑だったことにとつぜん気づいたのである。後述するように、ナルコレプシー患者の強烈な夢体験は、この病気がもつ特異な睡眠構造から説明することができる。
睡眠麻痺は、ナルコレプシー患者でなくとも体験する状態である。具体的には、睡眠から目ざめ、意識がはっきりしているというのに、体が麻痺してまったく動かすことができない〔日本語では俗に「金縛り」とも呼ばれる〕。この状態は比較的短時間で終了するが、場合によっては数分間も持続する。一方、ナルコレプシー患者の場合、起きている状態から、とつぜん睡眠麻痺に移行することがある。つまり、レム睡眠の特徴の一つでもある筋弛緩だけが暴走してしまい、意識の方が取り残されたかたちになる。
それと同時に、患者は強い恐怖や無力感・不安に襲われる。こうした睡眠麻痺はナルコレプシー患者の多くが体験するものである。
すでに述べたように、ナルコレプシーという病は古くから知られていた。その臨床例は19世紀の医学文献にも登場するし、文芸作品に取り上げられた例もある。また、「怖くて膝ががくがくする」とか「恐怖で腰が抜けてしまった」などというように、健康な人であっても、感情的な興奮が麻痺を引き起こすことはある。ナルコレプシーではそれが過大に引き起こされるのである。
「ナルコレプシー」という病名をつくったのは、フランスの医師、ジャン・バティスト・エドウワール・ジェリノーである〔ナルコは「麻痺」「睡眠」、レプシーは「発作」を意味するギリシャ語起源の言葉〕。1880年2月15日、強烈な睡眠発作に悩む患者がジェリノーのもとを訪れた。患者はパリに住むワイン樽商で、たえず
眠気に悩まされており、一日の発作の回数は200回にもおよぶという。激しい運動をしている最中や、感情的に興奮したときに眠りこんでしまうのみならず、性的に興奮したときにも発作が起こる。そのせいで、芝居を楽しむことさえできなかった。というのも、この患者はじつに健康的なユーモア感覚の持ち主で、舞台を見て笑うたぴに客席で眠りこむはめになるからである。脱力発作が起こると、彼は自分の体から力が抜けてしまうのを自覚する。はたから眺めていると、酔っぱらいが突然眠りこむようす、あるいは、子どもがとつぜん眠りこんでしまうようすを思わせる。
じつは、ナルコレプシーにおいては睡眠発作が脱力発作を引き起こすのだが、てんかんの場合、患者が眠りこんでしまうとすれば、それは脱力発作後のことである。ジェリノーはこの点を強調し、両者をはっきり区別するよう訴えた。しかし、彼の努力もむなしく、ナルコレプシーとてんかんは、長年にわたって混同
され続けたのである。
ジェリノーによる初めての報告が発表されて以来、ナルコレプシーの原因について数多くの仮説が提出された。20世紀初頭の段階では、ナルコレプシーは「心理ストレスや欲求不満を原因とする精神的な反応現象」と広く考えられていた。一部の研究者は、自己の内部にひそむ攻撃性から身を守るために発作が起こるのではないかとも考えた。また、過剰な性欲が引き金となるのではないかと主張する研究者もいた。つまり、自分の性衝動にどう対処してよいかわからず、睡眠に逃げ込むのではないかというのである。ナルコレプシーの発症時期は思春期と重なることが多いので、その点からもこの仮説は裏づけられるように見えた。思春期とは、まさに性に対する意識が変化し、心理的にも不安定な時期だからである。こうした仮説にもとづき、かつてのナルコレプシー治療は精神療法をその中心手段としていた。
だが、ナルコレプシーに関する真の理解が進むのは、脳波などを応用した睡眠記録法が開発されてからの
ことである。この新しい技術によってナルコレプシー患者の眠りを調べたところ、彼らの睡眠構造は、健康な人の睡眠構造とはかけ離れた特徴を示すことが明らかになった。つまり、健康な人の眠りはまずノンレム睡眠から始まり、約90分後にようやくレム睡眠が始まるのだが、ナルコレプシー患者の場合、これらの順序が入れ替わる。要するに、ナルコレプシー患者の眠りはレム睡眠から始まるのである。
この特異な現象は、夜間の眠りであろうと、日中の眠りであろうと、つねに観察される。つまり、ナルコレプシー患者の突然の睡眠発作は、じつは「レム睡眠発作」だったのである。レム睡眠発作という観点から考えると、患者が示す奇妙な症状をうまく説明することができる。つまり、睡眠発作にともなう脱力発作、およびその発作時に生じる鮮明な幻覚は、レム睡眠の特徴である筋弛緩状態と夢見現象によく対応している。
健康な人の場合、レム睡眠の途中で目ざめることがなければ、そのとき見ていた夢は意識されずに忘れ去られる。これに対し、ナルコレプシー患者の発作では突如としてレム睡眠が走り出すため、まだ意識が残っているうちに筋弛緩が生じ(睡眠麻痺)、幻覚が強烈なイメージとして記憶に残らざるをえないのである(入眠時幻覚)。
人間以外の動物にもナルコレプシーは存在する。とくにイヌにはナルコレプシーがよく知られており、研究も進んでいるが、いまだその本態を明らかにするにはいたっていない。現在、ウィリアム・デメントはスタンフォード大学でナルコレプシーに罹患したイヌを多数飼育し、研究を進めている。現時点での研究成果として、脳幹の一部(レム睡眠をコントロールしている部位)の機能異常が主要要因ではないかという仮説が提出されている。
さらに、近年になって、ナルコレプシーに関するあらたな発見が報告され、科学界の大きな話題となっている。古くより、ナルコレプシー患者が一人でもいれば、その家系におけるナルコレプシー罹患率は、患者のいない家系にくらべて、はるかに高いことが知られていた。つまり、以前からナルコレプシーは遺伝性の病気なのではないかと考えられてきた。そして、研究の結果、ナルコレプシー患者のほとんどに共通して見られる遺伝学的な特徴が発見された。それは、HLA遺伝子にふくまれる「DR2」という遺伝子(HLA‐DR2)の存在である〔「HLA遺伝子」とは、HLA(ヒト白血球S1!i human leucocyte antigen)の発現を支配している遺伝子である。HLA遺伝子といくつかの難治性疾患のあいだには、強い相関が認められている〕。
つまり、DR2はナルコレプシー特有の遺伝標識であり、患者の血液を検査することによって、その有無を確認することができる。人口全体に対するDR2陽性率はかなり低いのだが、ナルコレプシー患者のDR2陽性率は非常に高く、発見当初、その割合は約99パーセントにもおよぶと考えられた。この報告にした
がえば、DR2をもつ人間に何らかの条件が加わることによって、ナルコレプシーが発症するという仮説が成り立つ(ただし、その発症条件については研究が進んでいない)。また、一般に遺伝標識は複数の病気の存在を示唆することが多いのだが、DR2がナルコレプシー以外の疾患と関連している可能性は弱いと思われる。
この発見に端を発して、ナルコレプシー研究は非常に興味深い展開を見せるようになった。中には、当初の仮説を修正すべき研究結果も報告されている。たとえば、ここ数年の研究成果なのだが、おそらくナルコレプシーの発症に関与する遺伝子座は、DR領域以外の場所にもあるのではないかという仮説が提唱されるようになった。実際、DR2をもっていても発症しないケースがあるわけだし、逆に、DR2をもたない患者の例も報告されている。一例として、アメリカの黒人と白人を対象としてDR2の有無を調べたところ、DR2をもたないナルコレプシー患者が発見された。この傾向は、とくに黒人に顕著であった。
一卵性双生児の一方にのみナルコレプシーが発症する例もある。そうした双生児を調べた結果、ナルコレプシーの発症には、遺伝的要因だけではなく、環境要因が大きくからんでくることが示唆されている。
ところで、睡眠研究所が開設されて以来、私は睡眠障害に関するさまざまな問題に直面してきたが、イスラエルにおけるナルコレプシー患者の少なさも疑問に思っていた現象の一つであった。
世界各地の睡眠研究施設における診察データから判断すると、日中の過度の眠気について医師に相談をもちかける患者は、たいていナルコレプシー患者である。その正確な罹患率はまだ不明だが、人ロ1万人に対して3〜4人程度ではないかと考えられている。そのまま単純計算すると、イスラエルには1500〜2000人のナルコレプシー患者がいると予想される。ナルコレプシーにかかれば仕事や生活に大きな支障が生じる以上、軍は、入隊時あるいは服務期間中に兵士のナルコレプシー検査を行なうべきではないか、というのが私のかつての意見であった。
ところが驚いたことに、研究所開設以来、私たちはほとんどナルコレプシー患者を診察する機会を得なか
った。何と、ここ20年間のナルコレプシー患者の数は、ほんの12人にすぎない。もしかしたら、かかりつけの医者に診てもらっているので、わざわざ睡眠研究所の世話になる必要などないのかもしれない–だが、この予想は完全に裏切られた。イスラエル国内のあらゆる神経科医に問い合わせてみても、ナルコレプシー患者はまったく見あたらなかったのである。結局、イスラエル国内のナルコレプシー患者数は、12〜15人にすぎないという調査結果となった。これは、単純計算した予想値の約100分の1の人数である。
そこで、さまざまな人間集団ごとに罹患率が異なるのではないかという予想が生じる。たとえば、病気の種類によっては、国によって罹患率が大幅に異なるという事実が知られている。もしかして、「ユダヤ人」にとってナルコレプシーはほとんど縁のない病気なのではないか。
この「ユダヤ人問題」〔もちろん、歴史的な。ュダヤ人問題’のもじりである〕を検討するために、私はアメリカ国内でユダヤ人が多く住む地域を何カ所か対象に選び、そこで働く睡眠研究者に連絡をとった。そして、ナルコレプシー患者の中にユダヤ人がいるかどうかを確認することにした。ところが、私の妙な質問に対して気分を害したのか、初めは「自分の患者の宗教にまで立ち入って診察しているつもりはありませんね」という答えが返ってきたりもした。そんな彼らをなだめ、私の意図をきちんと説明した結果、最終的には協力を得ることができたのだが、結局ユダヤ人のナルコレプシー患者を見つけることはできなかった。ニューヨークのモンテフィオーリ病院睡眠研究所(ニューヨークはアメリカ最大のユダヤ人居住区だが、睡眠研究所といえば当時はここしかなかった)でさえ、ユダヤ人のナルコレプシー患者はきわめて少数だったのである。
私はニューヨーク以外の場所でも調査を続けたが、やはり結果は同じであった。
なぜユダヤ人にナルコレプシーが少ないのか。この問題は、遺伝標識に注目することによって、部分的ながら説明することができる。つまり、ナルコレプシーに関する遺伝標識は、集団によって分布率が異なる。
たとえば、アメリカやヨーロッパでは、人口の20〜22パーセントがナルコレプシーの遺伝標識をもつ。
しかし、イスラエルの場合、その割合は約9パーセントにすぎない。しかも、ナルコレプシーという病気が、単一あるいは複数の遺伝子の影響を受けるだけでなく、生まれ育っていく中で何らかの影響を環境から受けとるのだとすれば、イスラエルにおけるナルコレプシー罹患率が、ただでさえ低い遺伝標識の保有率よりも、さらに低いパーセンテージに抑えこまれる可能性も理解できる。
興味深いことに、ナルコレプシーに関する遺伝標識がもっとも高い割合で見いだされる国は日本である。
事実、3人に1人の割合で血液中に問題となる遺伝標識が見つかるこの国は、ナルコレプシーの罹患率が世界でいちばん高い。そういう意味で、ナルコレプシー患者40人の血液を分析し、そのデータからナルコレプシーの遺伝標識を初めて報告したのが、日本人である十字猛夫・本田裕らだったというのも不思議なことではない(ところで、日本滞在の経験のある方はお気づきのことと思うが、日本では公共の場所でも居眠りをしている人が多い。とくに電車などに乗るとその傾向は顕著で、座席に座った乗客の半分はたいてい眠りこんでいる。もちろん、日本人の驚くべき勤勉さが眠気の原因だとも考えられるが、そこに何らかの遺伝的要素が影響している可能性も否定はできない)。
ナルコレプシーの治療には、睡眠発作をおさえるために覚醒効果のある刺激薬が用いられる。ただし、薬の使用にあたって、患者は医師の指示を正しく守らねばならない。脱力発作の治療に関しては、レム睡眠を抑制するような薬物が処方されている。

「眠り姫症候群」

ギリシャ神話に、エンデュミオーンという羊飼いが登場する。ある日、月の女神セレーネーは、ラトモス山のいただきで眠るこの絶世の美少年を目のあたりにし、たちまち恋に落ちた。この羊飼いに対し、最高神ゼウスは罰として2つの選択肢を与えた。すなわち、死あるいは永遠の眠りのいずれかである。後者を選べば、彼の若さは永遠に保たれる。結局、エンデュミオーンは永遠の眠りを選んだのだった〔この物語に関しては多数の異説がある〕。
さまざまな文化が古くから伝える伝承の中に、登場人物が長い眠りにつく話が多数知られている。そうした物語の主人公は何カ月あるいは何年ものあいだ眠り続けるのだが、最終的には目を覚ますのが普通である。
しかも彼らは、ほんの一瞬眠ったようなつもりで目ざめることが多い。たとえば、W・アーヴィングが描く短編小説の主人公リップ・ヴァン・ウィンクルは、目ざめてみると20年間の年月が過ぎ去っていた。また、クレタ島に生まれたギリシャの伝説的詩人エピメニデスは、若い頃、洞窟の中で57年間眠り続け、起きてみると島一番の賢者になっていたという。
また、どの民族文化の中にも、かならず「眠る英雄」が登場する。彼らは長年眠り続けるが、国の運命を左右するような重大な任務を遂行するために目を覚ます。あるいはまた、歴史的運命に立ち向かうために眠りから覚め、起きあがって闘うのである。たとえば、ブリテン王アーサーは、瀕死の傷を負いながら「不思議の島アヴァロン」に運ぱれた。だが民間信仰によれば、今でも彼が生きていて、国が危機におちいれば、長い眠りから目ざめて祖国を救うのだと信じられている。また、デンマーク救国の英雄とされるデーン人ホルガーや、「赤髭王」とも呼ばれる神聖ローマ皇帝フリードリヒー世も、長く眠り続けたことで有名である。
たとえば、フリードリヒー世は大きなテープルの上で眠り続け、その髭がテープルを3周したとき、ようやく目ざめたという。また、ポルトガルの英雄ドン・セバスチャンは、侵入者であるムスリムと闘うために長い眠りから目ざめたと信じられている。
「眠り姫」は、古くから語り継がれてきた物語である。子どもの頃、この物語を聞きながら眠りについた読者も多いと思う。物語の中で、姫はあやまって紡ぎ針で指を刺し、宮中の人々ともども100年の眠りにつく。そこへ王子が現れ、姫の頬に口づけをすると、全員が目を覚まし、幸福な慕らしが訪れるのである。この物語は、17世紀に書かれたシャルル・ペローの童話集におさめられた一編(「眠れる森の美女」)だが、約一世紀後、グリム兄弟の童話集にもほぼ同じかたちで残されている(「いばら姫」)。
さて、以上のような神話や民間伝承には、何かもととなるような事実があったのだろうか? たしかに、19世紀の医学文献をひもとくと、過眠症の症例を見つけることができる。つまり、実際に何カ月あるいは何年にもわたって眠り続け、やがて死にいたるケースが報告されているのである。とくに、その多くが若い女性であったことは注目に値する。しかも、彼女たちには「モントローズの少女」とか「眠るエフィー」などといったニックネームが与えられ、多くの人々の話題になった〔なお、これらの患者たちは、何らかの方法で強制的に食事をとらされたり、運動させられたりしていたため、長期にわたって生き続けることができたという。研究者の中には、この病気と「神経性無食欲症」のあいだに類似性を認める者もいた。神経性無食欲症は1872年に報告・命名された疾患で、食事を拒み、場合によっては死にいたる病である。
また、長期にわたって眠り続ける患者の状態を、寒冷地におけるクマの冬眠になぞらえる研究者もいた。
物語の中で、「眠り姫」は長い間眠り続け、やがて目を覚ました。実際にこうした症例が報告されている病気といえば、嗜眠性脳炎をおいてほかにない。嗜眠性脳炎は、俗に「眠り病」とも呼ばれる疾患で、フォン・エコノモによって発見された。
オリヴァー・サックスは、著書「レナードの朝」の中で、眠り病患者のようすを次のように描写している。
「(患者たちは長年)ほとんど身動きもせず、言葉を発することもなかった。欲望も、思考能力も、どこかへ消え失せてしまったのではないか–そう思われることもあった。(中略)彼らは、泡に包まれ、外界から隔離された世界に生きる存在であった」。そして、一人の女性患者にエルドーパを投与したときのようすを次のように語っている。「20年間ほとんど動かず、自分だけの世界にひきこもっていた人間が、突如として外の世界に飛び出してきた。それはあたかも、水中から放たれたコルク片が勢いよく空中へ飛び出すさまを思い起こさせた。(中略)冬眠後の春の目ざめ。まさに″眠れる森の美女ご
はっきりとした証拠があるわけではないが、18〜19世紀の医学文献に散見される過眠症の症例報告は、嗜眠性脳炎、あるいはそれに類似した疾患によるものとも考えられる。つまり、昔から、嗜眠性脳炎のような病気がまれに発生していたと推測することもできる。そして、これらの患者の病気が治り、とつぜん目ざめるようなことがあったとすれば、人々によって語り継がれ、民間伝承に何かしらの影響を与えたという可能性も否定できないのではないだろうか。
睡眠研究所では、こうした″眠り姫症候群″7でもいうべき症例を実際に観察したことは1度もないが、周期的に傾眠状態〔強い刺激を与えれば一時的に覚醒するが、すぐに眠ってしまう状態〕が訪れる「クライネ=レヴィン症候群」の患者を何度か診察したことはある。クライネ=レヴィン症候群の症例が初めて報告されたのは1920年代のことだ。報告者はドイツの精神科医ヴィリー・クライネであった。また、同時代のアメリカ人精神科医マックス・レヴィンも同様の報告を行ない、のちにこの疾患は、クライネ=レヴィン症候群と呼ばれるようになった。
彼らが報告した患者の年齢は比較的低く、患者は傾眠状態におちいるとともに、極端な過食症状を示したという。のちに同様の症例が複数報告されるようになり、病像が明らかになってきた。まず、この症候群は若い男性に圧倒的に多く、発症年齢は15〜25歳である。症状としては、周期的に生じる極端な傾眠状態のほかに、通常では考えられない異常な行動が観察される。
これまでに睡眠研究所で診察したクライネ=レヴィン症候群患者の数は、約20人である。この症候群は非常にまれな疾患で、20人もの患者を受け入れた施設はほかにないと思われる。患者はもちろん長時間の傾眠状態におちいるわけだが、その現れ方は人によってまちまちである。たとえば、毎週かならず発作が起こり、その状態が2〜3日続く場合もあれば、一度の発作は一週間も続くが、発作の頻度は年に3〜4回というケースもある。
傾眠期に患者が示す行動障害として、強迫的な大食と異常性行動が多く見られる。場合によっては、常軌を逸した行動が観察されることもある。私の印象に強く残っているのは、14歳の少年の症例である。彼は、他の施設の紹介で、私たちの診察を受けることになった。母親の話によると、この少年は数カ月おきに傾眠状態におちいり、いったん眠り始めると、起こそうとしても3〜4日間は絶対に目ざめないとのことであった。さらに、この母親は私と2人だけで話がしたいという。息子が信じられないほど異常な行動を見せるので、そのことも伝えておきたいというのだ。
彼女の話では、傾眠期が近づくと、息子が奇矯な行動を見せるようになるという。誰からも好かれ、いつも行儀がよく、「学校で生活態度について悪い評価をもらったことはない」–そんな少年がある日豹変し、まるで別人になってしまう。たとえば、裸になって家の中を歩きまわる。しかも、母親の友人が遊びに来たときにそんな異常な振る舞いを見せるという。また、家の中のいろいろな場所で、恥ずかしげもなくマスターベーションにふける。しかも、発作期には家から出ようとしない。「外に出ると敵に殺される」と思いこんでいるのである。いよいよ傾眠状態が始まる頃になると、冷蔵庫の中身をむさぼるように食べ始めたりする。こんな光景に出くわせば、どんな母親でも恐怖の念にかられるのは当然であろう。
クライネ=レヴィン症候群の発作は、とつぜん始まり、とつぜん終わる。これは驚くべき特徴の一つである。私たちが診察した患者の場合も、この点に例外はなかった。発作が始まるとき、まるで見えない手が、少年の脳のスイッチを突然オフにしたような印象を受ける。その瞬間、少年はジキル博士からハイド氏へ変身するのである。その数日後、スイッチがもと通りオンになるとハイド氏は消え、ジキル博士がふたたび戻ってくる。
クライネ=レヴィン症候群の原因は、いまだ明らかではない。しかし、さまざまな証拠をたどっていくと、最終的に視床下部に到達する。視床下部は、これまでにも何度か触れた、脳の中の小さな領域である。この部位によって、さまざまな欲動、自律神経系の働き、睡眠活動などがコントロールされている。ただし、視床下部の領域は非常に狭いので、直接観察したり、検査することはむずかしい。間接的な研究手段としては、ホルモン分泌を調べる方法がある。視床下部はさまざまなホルモンの内分泌をコントロールしているので、血液検査などによって関連するホルモンの分泌に異常が観察されれば、視床下部の異常を疑ってよいはずだ。
私たちは、イスラエル中部のペター・ティクヴァにあるベリンソン病院と共同研究を行ない、23歳のクライネ=レヴィン症候群患者において、プロラクチンなど、性腺刺激ホルモンの分泌に異常が生じていることを発見した。性腺刺激ホルモンは視床下部のコントロール下にある。ということは、やはりこの患者の視床下部全体に異常が生じており、そのために眠りが損なわれ、さらに、食欲・飲水欲・性欲といった欲動に関連する行動に異常が現れるのだと考えられる。視床下部はさまざまな中枢の活動を抑制するために抑制因子を分泌しているが、グライネ=レヴィン症候群においては、何らかの理由によってこの分泌が阻害されていると思われる。つまり、ある種の抑制因子が分泌されないため、患者は社会的な規範や道徳的な規範をまったく気にせず、自分の飲助の満足だけを目指して行動するようになるのではないだろうか。
以上のように、クライネ=レヴィン症候群に関しては、近年、症状の詳細も明らかになってきたし、原因についてもある程度の仮説を立てられるところまで研究が進んでいるのだが、なぜ発作が周期的に生じるのかという点については、いまだ説明がなされていない。また、発作をおさえるための有効な治療法もまだない。さまざまな興奮薬も試されているが、結局失敗に終わっている。今のところ、私たちにできることといえば、心理的にショックを受けている両親に向かって、「発作がおさまりさえすれば、いつもの息子さんに戻りますよ」といって慰める以外にない。また、ナルコレプシーが一生激しい発作とつきあわなければならない病気であるのにくらべ、クライネ=レヴィン症候群は成長とともに症状が徐々に消失する傾向にある。つまり、発作の頻度がだんだん減少し、持続時間も短くなっていく。そして数年も経てば、症状が自然消滅してしまうことも珍しくはない。こうした事実でも、患者の親にとっては一種の慰めにはなるだろう。
さて、いままで述べてきたように、「日中の眠気」も程度によっては私たちの生活に多大な影響を与える。
軽い症状であれば、何もせずにじっとしているとつい居眠りをしてしまうという程度だが、症状が重くなると、ナルコレプシー患者のように、眠るべきでない状況で寝てしまったり、クライネ=レヴィン症候群のように長時間眠り続けたりする。いずれにせよ、睡眠と覚醒の微妙なバランスがくずれた結果、患者は過眠状態におちいるのだと考えられる。こうした過眠症に対して適切な治療を行なうためには、症状を正しく診断し、病気の原因を的確に把握する必要がある。
睡眠科学は若い学問である。だが、ごく短期間にこれほどの進歩をとげた研究分野もめずらしい。振り返れば、この分野の発展の歴史はまさに発見の連続であり、大いに満足すべき業績を積み重ねてきた。もちろん、なぜ人は眠るのか、なぜ夢を見るのかという根本的な疑問に対し、最終的な答えが提出されたわけではない。しかし、研究者たちは睡眠実験室で数え切れないほどの夜を過ごし、実験データを蓄積してきた。その成果が今、徐々に理論としてまとめられつつある。
だが、睡眠科学は今後どのように発展していくのだろうか? 来世紀にはどのような発見が待っているのだろうか?
1960年代以降、睡眠研究者の数は確実に増え続けている。しかし、睡眠研究の「黄金時代」はもう終わったといってよい。重大な発見が立て続けに報告される時代は終わったのだ。かつては、夜間の睡眠実験を行なえば、必ずといってよいほど驚くべき新事実に出会うことができた。研究者は自分の発見を発表する
ために、期待に胸をふくらませながら朝を待ったにちがいない。
だが、現代の睡眠研究者の研究態度はもっと慎重である。たとえば、睡眠中の脳内メカニズムを研究する場合でも、ごく一部の神経伝達物質や神経中枢に狙いをさだめ、実証的な研究を進めていく。
現代の研究者に見られるこうした慎重な態度について、ミシェル・ジュヴェは自分自身の体験を引き合いに出し、印象深い講演を行なっている。それは、1991年に開かれた世界睡眠学会連合の第一回国際大会でのスピーチである。彼は1960年代における自分の仮説、すなわち、神経伝達物質であるセロトニンが睡眠調節に大きくかかわっているという仮説を、「三文小説だった」といって、いともあっさり片づけてしまった。
ジュヴエによれば、セロトニンとの出会いは、いわぱ「情熱にかられた恋」であった。当時、実験という実験はすべて彼の予想どおりの結果をもたらした。セロトニンの分泌が覚醒状態から睡眠状態への移行をうながす–そう彼は結論した。ところが、まもなく反論が続出することになる。たとえば、追試実験の結果、セロトニンについて、あるいはセロトニンをふくむ脳内神経細胞について、ジュヴエの理論とは食い違うデータが報告された。たとえば、セロトニンをふくむ神経細胞は覚醒時でも活動していることが確認された。
また、睡眠時のセロトニンの分泌は結局認められなかった。
それ以降、ジュヴエは、セロトニンと睡眠活動を関連づけるという自分の仮説を捨て、研究を違う方向へ進めることになる。だが、ごく近年になって、彼はふたたび昔の仮説に立ち戻った。セロトニンと睡眠のあいだには、やはり関連があるというのである。ただし、その結びつき方は、彼がかつて想像していた以上に複雑で、入り組んだかたちをとるという。
元アメリカ大統領ジョージ・プツシュによれば、1990年代は「脳の時代」である。この表現はかなり公式な場で発言されたものではあるが、科学者であれば昔から承知していたこと。つまり、人間の脳は全宇宙の中でもっとも複雑かつ精緻な、すぱらしい創造物であるということ–を、政治家がようやく認めようとした発言とみなすこともできる。
睡眠研究という観点からいうと、眠る脳の研究は起きている脳の研究と切り離すことはできない、と私は考える。今後、睡眠時の脳のメカニズムが解明されていくとすれば、それは、覚醒時の脳、つまり意識があるときの脳内メカニズムの研究と並行して進められていくことになるだろう。ただし、睡眠や夢をコントロールする脳内の精緻なメカニズムの研究は、その展開のスピードが比較的遅い。これに対し、臨床的な意味をもつ睡眠医学の具体的な成果は、あらゆる医学領域において、徐々に、しかし確実に受け入れられつつある。
近い将来、睡眠研究所に宿泊して睡眠検査を受けることが日常的な習慣になる、と私は考えている。つまり、夜間の睡眠検査が一般の健康診断と同じ位置づけになるのではないか。また、とくに高い意識レヴェルと注意力を必要とする職業につく人–たとえば、原子力発電所の作業員、航空交通管制官、パイロット、公共輸送機関の運転手など–が、眠たくてしようがないとか、疲れやすいといったようすであれば、定期的な睡眠検査を受診させ、業務に差し障りがあるような睡眠障害の可能性をチェックするべきであろう。
睡眠障害の治療法についても、将来、大きな変化が見込まれる。不眠を訴える患者に対してすぐ睡眠薬を処方するという軽率な態度は改められ、治療に先だって、まず詳細な検査をすることが診断・治療の基本手続きになるだろう。また、実験室では脳内睡眠関連物質についての研究が進んでおり、すでにかなりの数の睡眠関連物質が報告されている。これらは生体が生産する物質であり、将来はその特徴を生かして、より自然な睡眠薬が登場することになるだろう。
来世紀になれば、睡眠記録をとるための家庭用測定器が販売されるようになるかもしれない。また、眠っている人間の睡眠をたえずモニターする装置が開発され、それを利用して、望む睡眠段階で目ざめることができるようになるかもしれない。この「目ざまし時計」をレム睡眠期にセットしておけば、夢を見ている最中に目ざめることになる。「夢日記」をつけたい人には重宝するだろう。
では、将来、私たちは睡眠時間を大幅に短縮することができるようになるのだろうか? あるいはいっそのこと、まったく眠らずに暮らすことが可能になるのだろうか? この点に関して、残念ながら私は否定的に考えている。未来の人間にも、やはり睡眠は必要不可欠の存在だと思う。
バーニー・ウェブ博士は、眠りを「優しき暴君」と形容した。まさにその比喩のとおり、眠りは私たちを、時の終わりまで、そっと優美に支配し続けることだろう。
 

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