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耐えがたい眠気ー睡眠時無呼吸症候群

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耐えがたい眠気ー睡眠時無呼吸症候群

居眠りと疲労感の原因

テクニオン睡眠研究所が「睡眠ポリグラフィー」一脳波、眼球運動、筋電図など、睡眠を総合的に測定する手法〕
による睡眠障害の診療を開始したのは、1970年代なかぱのことだ。ところが、ふたを開けてみると、不眠症とナルコレプシー患者が大半を占めるのではないかという当初の私の予想ははずれ、驚いたことに患者の訴えのほとんどは、慢性的な疲労感や日中の強い眠気といった症状であった。何もせずにじっとしているとつい居眠りをしてしまう患者も多く、その強烈な眠気は、ときに想像を絶するほどの耐えがたさに達する。
たとえば、その頃こんな患者に出会った。当時、彼は大会社の重役をつとめていたのだが、あまりに強い昼間の眠気に悩み、私たちの研究所へ相談に訪れた。彼の話では、長い会議の途中で睡魔に襲われると、ライターを取り出し、机の下で靴と靴下を説ぎ、自分の足の裏を焼くのだという。彼はその話が嘘でない証拠に、火ぶくれのできた足の指を見せてくれた。だが、そのときの彼の表情はまったく冷静そのもので、足の火傷の痛々しさとは対照的であった。その光景を思い出すと、私は今でも身震いがする。
ところが、その頃の専門文献を調べてみても、日中の疲労感や眠気といった症状をまともにあつかった論文は皆無といってよかった。それというのも、睡眠研究者にとって日中の眠気とか居眠りといった現象は、わざわざ調べるほどの症状ではなかったのである。したがって、どの程度の人々がこうした過度の眠気に悩んでいるのかを知ろうとしても、参考にすべきデータがなかった。そこで私たちは、イスラエル人を対象に、日中の過度の眠気と居眠りについて調査することにした。
とはいえ、「体がだるい」とか「眠たくてしようがない」といった訴えは、ややもすると軽視されがちな悩みである。では、どのようなデータを参考にすれば、信頼できる統計分析が可能になるだろうか? じつのところ、慢性的な疲労感や眠気といった症状は、イスラエルの中高年男性なら誰もが訴える悩みである。だからといって、すべての男性はみな慢性的な過眠状態、すなわち昼間に強烈な眠気に襲われる「過眠症」だと判断してよいのだろうか?
私たちが調査の対象としたいのは、一時的な体の状態ではなく、正式な「病気」としての症状である。しかも、研究に利用するためには、客観的なデータが必要である。そこで私たちは、社会人の定期健康診断を受け持っている大規模な医療施設に連絡をとり、そのデータを利用することにした。ここで健康診断を受診する人間は、医師との面談に先だって問診票を提出することになっているので、その回答をデータとして集計したのである。
問診票は100の質問から構成されており、毎日の睡眠に直接関係する問いが5つふくまれていた。「①夜、眠れなくて困ったことがありますか? ②夜中に頻繁に目が覚めることがありますか? ③睡眠薬を使用していますか? ④よく体がだるいと感じることがありますか? ⑤眠くてしかたがないと感じることがありますか?」。そして回答は、「aまったくない、bときどき、cかなり頻繁に、dいつも」という4つの選択肢の中から一つを選ぶ形式になっていた。医師との面談はこの問診票にもとづいて細かく行なわれることになっているので、受診者の回答は額面どおりに受け取ってよいと思われる。つまり、「眠くてしかたがないと感じることがありますか?」という質問に対して「かなり頻繁に」とか「いつも」という回答を選んだ受診者は、何らかの理由で答えをわざと誇張しているわけではなく、実際、かなりひどい眠気に悩んでいると考えてよいだろう。
私たちは、この医療施設における1978年度の健康診断データをすべてチェックした。受診者総数は約1万5000人にもおよぶ。統計分析の結果、受診者の4パーセントが強い眠気を訴えていた。「寝つきが悪い」あるいは「夜中に何度も目が覚める」という受診者の数は、両者合わせて18パーセントだったので、それに比べれば、4パーセントという数値はかなり低いといってよい。しかし、4パーセントとはいえ、これまでの文献を見るかぎり、それほど高いパーセンテージで「強い眠気」を報告した調査研究は皆無であった。
また、強い眠気を訴える受診者は女性よりも男性に多く、しかも年齢とはかかわりなく、各年齢層に平均して認められた。一方、「寝つきが悪い」、「夜中に何度も目が覚める」と答えた受診者は女性の方が多かった。しかもその割合は、年齢とともに増える傾向にあったのである。
過度の眠気や慢性的な疲労感に悩む人々の数はけっして少なくない–私たちはそのように予想していたし、調査の結果はその予想を裏づけるものだった。だが、調査当時、こうした悩みを抱える人々の訴えは他人の理解をあまり得られないのが普通であった。たしかに、「眠たくてしようがない」などという悩みは、どんな人でも体験するありふれた状態である。親身になって問いてくれる相談相手を探す方がむずかしい。 たとえば、かかりつけの医者のところへ行って相談するとする。ところが、「昼間も眠たくてしようがないんです」と打ち明けても、あまり相手にされない。果ては、慰めているのか、それとも、はなから診察に値しないと思っているのか、「眠れるなんていいじやないですか。うらやましいくらいですよ」などと冷たい返事が返ってくる。中には、「疲れがたまっているんでしょう。しばらく休みをとったらどうです」と勧めてくれたりする医者もいる。眠気の原因はすべて疲労にある、という考えなのだ。実際は、むしろ休日の方が日中の眠気が強くなったりするのだが、そこまで理解してくれる医者はほとんどいない。–かつては、これが「眠気」というものに対する一般的な態度であった。
では、いったい何がこうした疲労と眠気を引き起こしているのか。もしかして、イスラエル人の平均睡眠時間そのものが短いために、慢性的な睡眠不足が広まっているのだろうか。この点を明らかにするために、私たちは1980年から1982年にかけて、ブルーカラー労働者約1500人を対象として、さらに詳細な調査を行なった。調査項目は、毎日の睡眠習慣、睡眠障害の有無、日々の健康状態、薬剤使用歴、仕事に対する満足度など、多岐にわたる。このアンケート調査を先ほどのデータに照らし合わせてみると、ほとんど差は認められなかった。つまり、不眠、慢性疲労、過度の眠気といった項目について、ほぼ同じ傾向が確認されたのである。
たとえば、日中眠たくてしようがない、何もせずにじっとしているとつい居眠りをしてしまう。そう答えた人の割合は、やはり約5パーセントに達した。中には、会社の休憩時間に居眠りをしてしまう人もいたし、ひどい例になると、働いている最中に睡眠こんでしまうと答えた人もいた。こうなると、事態は深刻である。
また、データをまとめてみると、不眠や眠気に悩む回答者は、仕事に関してさまざまな悩みを抱えていることが非常に多か’った。つまり、眠れないと訴える人は、仕事に対する満足度が相対的に低く、同時に、仕事をとりまく環境についても不満を感じている。とくに、職場の人間関係にストレスを感じていることが多いようであった。また、仕事による心理的プレッシャーも不眠の引き金となる。だが、ここで注目すべき点は、眠気と事故の関係だ。つまり、日中に強い眠気を感じると答えたグループは、睡眠に関してとくに問題のないグループにくらべ、事故発生率がはるかに高かったのである。
私たちは、実験を通じてさらにくわしい調査を続けた。つまり、アンケート調査の回答者の中から100人を選び、研究所まで来てもらってくわしく睡眠検査を行なうことにしたのである。幸いなことに、依頼に対して全員の積極的な協力を得ることができた。しかも、実験の結果は明確であった。すなわち、過度の眠気と疲労感は、睡眠時の「呼吸障害」によって引き起こされているケースがもっとも多かったのである。具体的には、日中の過度の眠気を訴える被験者のうち、睡眠時に呼吸障害が認められた人々の割合はおよそ50パーセントにもおよんだ。彼らは呼吸障害以外に、高血圧、起床時の頭痛、家人を悩ませるほど大きないびき、過度の肥満、などの症状を見せた。これは、睡眠時の呼吸障害をもつ人間が併発しやすい身体的徴候である。のちに明らかになったことだが、これらの徴候は、「睡眠時無呼吸症候群」の患者が示す、もっとも典型的な症状でもあった。
私たちは調査結果と実験データを統計的に処理し、次のように結論した。すなわち、イスラエルでは、21歳以上の男性のうち、少なくともその1パーセントは睡眠時の呼吸障害をもつ。年齢層を40〜60代とすると、その割合は3〜5パーセントほどに上昇する。おそらく、睡眠時の呼吸障害について統計的数値を算出したのは、私たちのこの調査が初めてである。この実験調査を追うようにして、数年後、イタリア、アメリカ、スカンジナヴィア諸国、イギリスでも、同様の調査結果が報告された。これらの発見によって、睡眠医学はまったく新しい局面を迎えることになる。

生と死のはざまで

私が初めて睡眠時無呼吸症候群の患者に接したのは、博士課程修了後、カリフォルニア大学サン・ディエゴ校にあるダニエル・クリプケ教授のもとで研究を続けていたときのことだ。そのときの体験は、非常に印象深く私の記憶に残っている。
奇妙なことだが、この患者の診察をクリプケ教授に依頼してきたのは、大学病院の内科担当看護スタッフだった。つまり、患者は最初、内科の施設に入院していたのである。クリプケ教授に診察依頼がまわってきたのには、2つ理由があった。まず、その過眠状態である。看護婦の証言によると、患者はいつでも眠たくてたまらないらしく、横になったり、座ったりしているときに眠ってしまうだけでなく、立っていても眠ってしまうのだという。第2の理由は、彼のいびきである。いびきが異常にうるさく、他の入院患者の安眠を妨害してしまうため、病院は彼を個室に移さざるをえなかった。
クリプケ教授は、喜んでこの男性の睡眠検査を引き受けた。というのも、当時、彼のまわりの医師たちは夜間の睡眠検査に対してまったく興味を示さず、患者が起きているときの診察や検査だけを重視していたからである。中には、睡眠検査に対して頭から否定的な態度を見せる医師さえいた。こうした状況は、サン・ディエゴ校だけのことではない。多くの医師たちは、夜間の睡眠検査などというものは、不都合な時間に行なわざるをえない、半端な研究の一種としてしかとらえていなかった。クリプケ教授は、こうした医師たちに対して、夜間の睡眠検査の重要性を示そうとしたのである。
患者は過度の肥満症で、高血圧症を原因とする合併症のために入院治療を受けていた。医学文献をひもとくと、肥満症の患者について、睡眠時の呼吸障害、激しいいびき、昼間の強い眠気といった合併症が報告されている。そこで、私たちは詳細な睡眠検査を実施した。脳波・筋緊張・眼球運動といった標準の検査項目に加え、
呼吸筋の活動、および鼻腔における呼吸気の動きを記録した。その結果はじつに驚くべきものであった!
ベッドに入った被験者の脳波を観察していると、やがてアルファ波が消え、シータ波が現れる。つまり、覚醒状態から睡眠状態(第一段階)への移行が起こる。だが、それと同時に、呼吸が50秒間、停止したのである。患者は息をしようとして激しくもがくのだが、のどの部分に何かがつかえているようで、なかなか
呼吸がもとに戻らない。まさに、ベッドの中でJ北岡〃を繰り広げているといったようすである。彼は何とか息をしようとして、さらに全身でもがく。
すると突然、のどの〃つかえ〃が取れ、呼吸運動が再開した。それと同時に、患者は激しいいびきをかき始めたのだが、しばらくすると、ふたたび呼吸が停止してしまった。脳波記録を確認すると、一度停止した呼吸運動が再開するのは、脳が睡眠状態を説し、覚醒状態へ移行してからのことであった。そして、脳が睡眠状態に戻ると、呼吸はまた停止してしまうのである。
こうして、無呼吸→一時的な覚醒→呼吸運動再開→睡眠→無呼吸、というサイクルは何百回となく続いた。患者は息が止まるたぴに短時間目ざめ、そして大きないびきをかく。結局、この患者は一晩に450回以上も無呼吸状態におちいった。また、一回の無呼吸状態の持続時間は、30〜50秒であった。
睡眠検査の結果に驚いた私たちは、この不思議な症状を病院の他のスタッフにも確認してもらうことにした。男性患者は、私たちの指示どおり、第一回の睡眠検査を終えた日から一夜おいた翌日、睡眠研究所をふたたび訪れた。ただし、今度は夜間の睡眠検査ではなく、昼間の検査である。つまり、医局スタッフが起きている普通の時間帯に睡眠記録をとろうというわけだ。
さて、実際に検査が始まると、医師たちは記録装置のまわりに群がった。そして、隣室で眠る患者が何度も無呼吸状態におちいるのを見て、驚きの色を隠すことができないようすであった。中には、患者の死を恐れ、ただちに覚醒させなければ手遅れになると訴える者もいた。彼らにとって、目前の患者の状態は一種の異常事態でしかなく、これが毎晩繰り返される症状だとは思いもよらなかったのである。実際、患者は毎夜無呼吸状態を繰り返しながら長年生きてきたわけだが、医師たちはこの事実をなかなか受け入れようとしなかった。
とはいえ、睡眠時無呼吸症候群が睡眠医学に対してどれほどのインパクトをもつのか、当時の私たちはまったく予想していなかった。この男性患者にしても、その後どのような経過をたどったのか、結局何も知らされないままだ。たしかに、私たちの睡眠検査の結果には誰もが驚き、研究室でも病院のカフェテリアでも、その話題でもちきりになった。しかし、それも一時的なもので、研究室の仕事内容に大きな変化が生じるわけでもなく、私たちはあいかわらず睡眠薬の実験と体内時計の研究に明け暮れていた。実際、その年はもう睡眠時無呼吸症候群の患者を診る機会はなかったのである。ところが、それから15年も経つと、毎週3〜4人の睡眠時無呼吸症患者が私たちのもとにやってくるようになる。当時の私たちは、こうした事態が訪れるとは予想もしていなかった。その頃、誰かが私に向かってそんな予想を口にしていたら、きっと笑い飛ばしていたにちがいない。
睡眠時無呼吸症候群の患者は、眠っているあいだ、驚くほど激しい症状を示すにもかかわらず、朝起きたときには何も憶えていないことが多い。自覚しているのはごく一部の患者だけである。じつに不思議なことといわざるをえない。彼らが実際に訴える主症状としては、激しいいびき、起床時の倦怠感、日中の強い眠気の3つがある。眠気に関しては、とくに何もせずにじっとしていると、すぐ居眠りをしてしまうという。
これらの症状の原因は、すべて夜の睡眠状態にあると考えられる。
まず、日中の眠気だが、夜眠っているあいだ、呼吸が停止するたぴに短期間目ざめ、それを何百回も繰り返していれば、睡眠は細切れになり、睡眠不足になるのは当然である。一晩に無呼吸状態が300〜400回も生じたとすれば、少なくとも同じ回数だけ目ざめているはずであり、そのたびに数十秒の覚醒が生じているとすれば、結局、一晩に2〜3時間しか寝ていないことになる。こんな状態が何年も続けば、当然、ひどい慢性不眠におちいるはずだ。昼間つい居眠りをしてしまうというのも無理はない。
激しいいびきも、睡眠時の呼吸障害が引き起こす現象である。つまり、一時的に気道がふさがり、呼吸が停止していたところへ突然空気が吸いこまれると、気道の壁が振動し、激しいいびきが生じる。ただし、単調ないびきが延々と続くのではなく、大音響のいびきの後に何十秒間かの「死んだような静寂」が訪れ、そしてふたたび激しいいびきが続くというパターンである。いびきが突然止まり、何の音もしなくなってしまうので、近くで寝ている家人は、このまま窒息してしまうのではないかと心配する。彼らが意を決して睡眠クリニックを訪れる必も、たいていはこの無呼吸状態について相談するのが目的である。だが、妻が夫に病院へ行くよう勧めても、夫は症状にまったく自覚がなく、自分が病気だと考えようともしない、という状況はよくあるパターンである。
さらに、睡眠時無呼吸症候群には、起床時の口腔内の乾き、情動や人格の不安定、集中力低下、知的能力の低下などの症状も認められる。たとえば、無呼吸状態の際、息をしようとすると、たいていは口を大きく開けることになり、最終的に鼻と口から空気が吸い込まれることになる。ところが、口は鼻と違って、基本的に空気の出し入れには向’いていない。その結果、睡眠中に口で息をし続けると、口腔内が乾いてしまうのである。また、覚醒時に気分や人格のゆれが生じるのも、過度の睡眠不足と、脳に対する酸素供給量の低下から説明することができる。
睡眠時無呼吸症候群には、中枢型、閉塞型、混合型の3つのタイプがある。中枢型の場合、脳の呼吸中枢に異常が生じ、呼吸運動そのものが停止する。つまり、呼吸筋の運動そのものが止まってしまうのである。
一回の停止時間は、10秒から40秒程度である。これに対し、閉塞型の場合は、空気の通り道である上気道に閉塞が起こるために窒息状態が生じる。ただし、呼吸運動そのものは停止せず、.呼吸筋は激しく運動し、閉塞に打ち勝とうとする。
さらに混合型においては、まず中枢型の無呼吸が生じるのだが、やがて閉塞型に移行するという特徴をもつ。
いずれにせよ、肺に新しい空気が届かなくなると、血液中の酸素濃度が低下し、炭酸ガス濃度が上昇する。
しかし、私たちの体内には血中のガス濃度をたえずモニターするセンサーがそなわっており、酸素濃度の低下と炭酸ガス濃度の上昇を検知すると、その変化が呼吸中枢に伝わり、呼吸の充進をうながす。閉塞型無呼吸の場合、呼吸中枢からの刺激によって、呼吸筋が激しい運動を開始し、上気道の閉塞を打破しようとする。
患者は何とか呼吸しようともがき、全身の筋肉を使って運動する。ときには、ベツドの上で両ひじを突っ張って体をそらし、息をしようと必死にもがくこともある。これだけ激しく運動すれば、朝起きてから体の疲れを訴えるのも無理はない。
閉塞型にくらべると、中枢型無呼吸の患者はごく少数である。中枢型の場合、呼吸の再開は中枢にかかわる問題であり、呼吸筋の激しい運動が無呼吸を打破するという現象は見られない。また、血中酸素濃度についても、閉塞型ほど激しい低下は生じない。
呼吸が再開した直後には、2種類の現象が観察される。一つは、血圧の上昇である。場合によっては、かなり急激な血圧値上昇が認められる。もう一つは、心拍数の変化である。心拍数は、呼吸が止まっているあいだは激減するのに対し、呼吸再開後、突然増大する。ときには、その変化があまりに激しいために、心不全を起こす可能性もある。
呼吸が停止すると血液中の酸素濃度が低下し、脳に対する酸素供給量も少なくなる。その結果、脳の機能に影響を与えることも考えられる。たとえば、行動に変化が生じたり、場合によっては知的能力を低下させたりすることも考えられる。
睡眠時無呼吸症候群は、男性に多く見られる疾患である。とくに肥満体の男性に多い。私たちの睡眠研究室の調査結果では、患者の男女比率は10対1である。この比率は、世界のどの国でも一定している。なぜ睡眠時無呼吸症候群は女性に少ないのか–この問題に対してあまり納得のいく説明はなされていないが、少なくとも、次の2要素が大きくかかわっていると思われる。すなわち、性ホルモンと男女の体形の差である。
まず、女性ホルモンの一種であるプロゲステロンは、呼吸を促進する作用をもつ。したがって、このホルモンが女性を睡眠時無呼吸症候群から「守っている」と考えることもできる。事実、睡眠時無呼吸症候群の女性患者は、すでにプロゲステロン分泌の終了した閉経後であるケースが多い。また、男性の方が上気道が狭いため、睡眠時無呼吸症候群が多いと考える研究者もいる。
いずれにせよ、男女で罹患率に差のある疾患は、すでに少なからぬ数が報告されている。睡眠時無呼吸症候群もその1つにふくめてよいだろう。

古くて新しい病気

睡眠時無呼吸症候群は、けっしてまれな病気ではない。しかも、その症状は、誰が見ても驚くような激しい症状をともなう。ところが、この疾患が「症候群」として認識されるようになったのは、20世紀も後半になってからのことである。いったいなぜ、今まで認識が遅れていたのだろうか? 患者の日中の過眠状態に言及した報告は、それ以前にはなかったのだろうか?
睡眠時無呼吸症候群が、初めて「症候群」として報告されたのは、1956年のことである。報告者は、著名な循環器生理学者シドニー・バーウェルであった。彼は当時、ハーヴァード大学医学部の学部長をつとめていた。この論文の中でバーウェルは、日中に観察される呼吸困難と強い眠気とのあいだに何らかの関係があると推論した。
バーウェルらの記述によると、彼らが担当した患者は、日中の眠気があまりにひどく、トランプをしている最中に睡眠こむことがあったという。ゲームの途中、せっかくすぱらしい手がそろっても、眠気には勝てなかったらしい。だが、バーウェルは、この居眠りの原因が、夜の睡眠障害・呼吸障害にあるとは考えていなかった。
その後、フランス、ドイツ、イタリアの睡眠研究者たちが同様の症例を立て続けに報告し、そこから共通の症状があらたに浮かび上がってきた–すなわち、睡眠中に何百回となく繰り返される無呼吸状態である。
こうして、睡眠時無呼吸症候群の病態が明らかになり、日中の耐えがたい眠気についても正確な説明が可能になった。
だが、19世紀の医学文献にも、睡眠時無呼吸症候群と思われる症例が登場する。この病気が示す個々の症状は、近代的な睡眠研究施股がととのうよりもずっと以前から、ある程度報告されてきたのである。つまり、睡眠時無呼吸症候群は、けっして「新しい病気」ではないことがよくわかる。とはいえ、当時のさまざまな理由により、せっかくの報告も医療関係者の関心をひくことはなかった。
興味深いのは、眠気に悩む肥満体の患者を診察した当時の医師が、みな口をそろえて、ある小説の登場人物を連想している点である。つまり、患者の症状が、ディケンズの「ピックウィック・ペーパーズ」に出てくる少年執事のジョーにそっくりだというのだ。太った赤ら顔の少年ジョーは、どこでも居眠りをしてしまうのだが、そのようすを見て、主人公のピックウィック氏は大いに驚き、ジョーの主人である老紳士に向かって、「あんな風にいつも眠っているわけですか?」とたずねる。すると老紳士は次のように答える–「眠るですって!(中略)奴はいつでも寝てますよ。使いに出かけるときもぐっすり眠ったままですしね、食事の給仕のときなど、いびきをかく始末。(中略)私にとってジョーは自慢の種なんです。どんなことがあっても、手放すつもりはありません。自然の生んだ珍品ですよ、奴は」。
1889年、ロンドン臨床医学会で発表を行なったリチャード・ケイトンの脳裏にも、ジョーの姿が浮かんでいたにちがいない。ケイトンがあつかった患者は、37歳の鳥肉屋である。この患者は肥満体で、体重が急激に増え始めたタイミングにほぼ一致して、毎日強烈な眠気に襲われるようになった。ケイトンの報告によれば、「患者は、椅子に座ったとたん眠ってしまったり、ときには立ったまま、あるいは歩きながら眠りこんでしまうこともあったという」。また、「店で客の相手をしていると、睡魔に襲われるのが常であった。
急に眠気が襲ってきて、カウンターのそぱで立ったまま寝てしまうのである。はっと気がつくと、客が頼んだ鴨や鶏を手に持っている。それも15分くらい前の注文である。客はとっくに帰ってしまった」。
ケイトンは、この鳥肉屋の睡眠を次のように記述している。まさに、睡眠時無呼吸症候群の症状そのものである。
睡眠が深くなると、患者の上気道は非常に特殊な状態を示す。すなわち、上気道部の痙摯によって閉塞が生じ、呼吸が完全に停止するのである。この状態を打破しようと吸気筋と呼気筋が激しく収縮し、胸部と腹部は上下運動を繰り返す。だが、呼吸は容易には再開しない。呼吸努力は激しさを増し、皮膚のチアノーゼが徐々に進行する。そして、呼吸が停止してから一分〜一分半後、このままでは窒息死するのではないかと思われる頃、とうとう閉塞が打ち破られ、深い吸気運動と呼気運動が何度か生じる。
また、それと同時にチアノーゼも消える。以上のような激しい発作によって呼吸困難が引き起こされるにもかかわらず、患者の睡眠が中断されることはない。(中略)また、無呼吸時に患者を起こすと、上気道の痙撃は即座におさまる。夜間勤務の看護婦によれば、こうした発作は一晩中続くという。ケイトンは論文タイトルを「ナルコレプシーの一症例」としているが、この引用部は、まちがいなく睡眠時無呼吸症候群について書かれたものと思われる。睡眠時無呼吸症候群についてこれほど詳細な記述がなされたのは、おそらく初めてのことではないだろうか。
症例についての討議の最後に、学会長であるクリストファー・ヒース博士は、睡魔に襲われる鳥肉屋とディケンズの描いたジョーを比較し、その類似点を指摘している。ヒース博士以外にも、論文中で同様の指摘を行なった学者が3人いた。もちろんどの学者も、おたがいの論文を読む機会はなかったはずだ。したがって、日中の強い眠気、そして肥満という症状が、「ピックウィック症候群」という名前で認識されるようになったのも無理はない。今日、ピックウィック症候群は、睡眠時無呼吸症候群にふくまれる症状の一種と考えられている。
睡眠中の呼吸のしかたが、健康にどのような影響を与えるか。アメリカ人、ジョージ・カトリンは早くからこの点に注目し、19世紀中頃、著書「生命の息吹」の中で考察を加えている。カトリンは、画家と弁護士という2つの職業を同時にこなしていたが、ある時、弁護士の仕事に嫌気がさし、フィラデルフィアの事務所を去って、プレーンズ・インディアン〔アメリカの大草原地帯で暮らしていたインディアンの総称〕の研究に着手した。研究の目的はインディアンの慕らしを調査することだったが、カトリンにとっては、インディアンの健康の秘密を探ることも目的の一つであった。
カトリンによれば、プレーンズ・インディアンの体は、都市部に住む白人にくらべると、はるかに健康であり、丈夫だという。そして、インディアンと白人の生活習慣の違いは、唯一、睡眠方にあるのだと主張する。つまり、たいていのインディアンは口を閉じて眠るのが普通で、睡眠中は鼻だけで息をするのだが、白人は口で息をしながら眠ることが多く、口を開けた寝姿が多く見られるというのだ。そして、口で息をしながら眠るせいで、いびきが起こりやすく、起床時の倦怠感、頭痛、病気に対する抵抗力の低下といった症状を招くという。それに対し、鼻で息をしながら眠れば熟睡できるし、起床時も爽快感をともなう、というのがカトリンの主張であった。インディアンは、子どもが眠っているときに、口を開けていれば閉じてやるのが習慣らしい。カトリンによれば、神は人間の鼻腔を通して「生命の息吹」を吹き込んだのだという。
カトリン本人によるすぱらしい挿し絵が添えられた「生命の息吹」は5回も版を重ね、当時の医学界からも大きな賞賛を得た。にもかかわらず、カトリンによる睡眠研究への貢献は、月日とともに忘れ去られてしまった。
鼻で安定した呼吸をしながら眠ることが、質のよい睡眠につながる–そう指摘したのはカトリンだけではなかった。しかし、この主張が当時の人々の関心を集めることはなかった。理由の一つに、ナルコレプシーの発見がある。19世紀末、過眠症の一種であるナルコレプシーが発見されたため、日中に過度の眠気を示すというだけで、すぐナルコレプシーという診断が下されるようになってしまったのだ。これほどはっきりと病名を決定されてしまっては、念入りな診察が行なわれなくなるのも当然であろう。その結果、睡眠時無呼吸症候群がようやく医学校の教科書に登場するのは、結局1980年代に入ってからのことである。40〜60歳の男性は、その3〜5パーセントが睡眠時無呼吸症候群の患者と推定されているが、これほど高い罹患率にもかかわらず、この病気に対する認識が高まったのは、ごく最近のことでしかない。
また、睡眠時無呼吸症候群に対する従来の認識の低さは、その原因を医学界の保守的な態度に見ることもできる。1973年、ウィリアム・デメントは、重度の睡眠時無呼吸症患者、男女2名を診察した。患者は2人とも子どもで、高血圧症に苦しんでいた。デメントは、子どもたちの担当医に向かって、高血圧症の原因とその治療法を教えようとしたのだが、担当医はデメントのアドヴァイスを受け入れようとしなかった。
デメントはこういっている。「自分の知識を絶対のものと信じこみ、人の意見に耳を貸そうとしない–医者もやはり人間だ、ということでしょうか」
ところが担当医らはあらゆる治療法を試みたにもかかわらず、結局、患者の一人が非常に危険な状態におちいってしまった。この時点で、ようやくデメントの意見が受け入れられることになったのである。デメントの提案とは、手術によって気管に小さな開口部をつくるというものであった。これにより、上気道に閉塞が起こっても呼吸が可能になる。この気管開口術は、当時、睡眠時無呼吸症候群の治療法として、もっとも有効な手段と考えられていた。
2人の子どもに対する手術は劇的な効果をあげた。睡眠中に呼吸が止まることはまったくなくなり、日中の眠気も完全に消えた。また、血圧も標準値に戻ったのである。
アメリカだけでなく、イスラエルでも事情は変わらない。私たちは、睡眠時無呼吸症候群の罹患率の高さを強調し、医療現場での知識普及を訴えているのだが、医学界の反応はかんぱしいものではない。テクニオン睡眠研究所の研究成果をまったく無視しようとする関係者も少なくないのである。
医学界の関心の低さについては、私にも忘れられない体験がある。以前、ある医学会議の全国大会で、睡眠時無呼吸症候群について講演したときのことだ。質疑応答の際、聴衆の一人が立ちあがって発言を求めた。
「家内が実際に数えたんですが、私は寝ているあいだに200回も無呼吸を繰り返すらしいんですね。となると、私は病気だというわけでしょうか? あなたは現場の医者ではないとのことだけど、私のような人間も病気と診断するわけですか?」。彼はさらに言葉を続け、私に対する反論を展開した。会場の大多数の医師は、200回も繰り返される無呼吸がどれだけのインパクトを人体におよぼすか理解していなかったようだ。しかも、この質問者は日中に耐えがたい眠気に襲われることもないし、夜もよく眠れると主張する。そのため、聴衆のほとんどが彼を完全な健康体だと考えてしまった。つまり、この質問者は、一晩に無呼吸状態を200回も繰り返しているというのに、べつに病気ではないし、何の危険もないと信じていたのである。だが、この質問者の顔には、睡眠時無呼吸症候群の典型的な特徴が認められた。すなわち、下顎が非常に小さい上、顎のかたちがはっきりせず、のどの肉に埋もれるような状態を示していたのである。だが私は相手を立てるつもりで、あえて質問には答えなかった。

睡眠時無呼吸症候群の危険性

睡眠時無呼吸症患者が眠るようすを観察していると、本当に窒息して死んでしまうのではないかという感にとらわれる。呼吸が止まっては、また再開するというサイクルの繰り返しなのだが、息が止まったまま目ざめることがなければ、死んでしまっても不思議はない。だが実際には、脳の働きのおかげで、睡眠中に死亡する可能性は非常に低い。ただし、寝る前にアルコールを飲みすぎたり、大量の睡眠薬を服用したりすれば、呼吸中枢の働きが抑制され、窒息死する可能性はある。
むしろ、睡眠時無呼吸症候群が危険だというのは、窒息死のような直接的な危険ではなく、もっと間接的な理由による。まず、日中の居眠りがさまざまな事故を招きやすい。テクニオン睡眠研究所で睡眠時無呼吸症候群と診断された患者のうち、車を運転しているときにぼうっとしてしまい、ぎりぎりのところで事故を免れたという体験の持ち主は、3分の1の数にものぼる。また、居眠り運転が原因で実際に交通事故を起こしてしまった患者が3パーセントもいた。世界各国の調査結果を見ても、睡眠時無呼吸症候群の患者は、健康な人々にくらべて・交通事故を起こす確率が高いことがわかる。
この病気は男性に多いので、職業運転手の中にも、少なからぬ数の患者が存在するはずだ。私の予想では、近い将来、公共輸送機関の運転手に対する定期健康診断項目の中に、睡眠検査、とくに睡眠時の呼吸機能検査がふくまれるようになるのではないかと思われる。つまり、免許更新にあたって睡眠検査を必須条件とするのである。テクニオン睡眠研究所は、イスラエルの公共輸送機関に対して睡眠検査の必要性を説いているのだが、今のところ、あまり反応はかんばしくない。
しかし、睡眠時無呼吸症候群にともなう危険は、運転中の居眠りだけではない。激しい呼吸努力を毎夜続けていれば、心臓と肺に負担がかかるのは当然である。実際、患者の約半数に高血圧症が確認されている。
また、この病気が高血圧の直接原因となることを裏づけるデータも数多く報告されている。したがって、睡眠時無呼吸症候群の患者は、高血圧症に由来する病気や合併症にかかりやすいといえる。イスラエルにおける最近の調査結果によると、本疾患の患者が心臓発作で死亡する割合は22パーセントであり、総人口における心臓発作死亡率(13パーセント)の2倍弱にも達する。
さて、睡眠時無呼吸症候群に対して適切な治療をほどこせぱ、合併症の進行もおさえることができるだろうか?–じつは、この問題に対する最終的な結論はまだ出ていない。しかし、少なくとも、患者が若ければ若いほど合併症に対する治療効果も高い。とくに、単純な閉塞型の無呼吸症であれば、若年齢層の患者に対する外科手術の効果は大きい。たとえば、気道の閉塞部を物理的に広げてやれば、たちまち血圧が標準値にもどる。同様に、肥満体の患者についても、外科的方法によって体重を大きく減らしてやれば治療効果が見込まれる。つまり、睡眠時の無呼吸状態が解消されれば、血圧や心機能は劇的に改善されるのである。
この10年間、睡眠時無呼吸症候群に対する医師の態度は大きく変わった。とはいえ、私の印象では、各医療施設や研究施設がこの病気の治療や研究に対して払っている努力は、有形無形を問わず、いまだ十分ではない。アメリカにおける睡眠時無呼吸症患者の数は、ひかえめに見積もっても約2000万人に達するのだが、その中で症状を自覚している人々はごく一部である。この病気にかかれば、日常生活に大きな支障をきたし、健康状態も悪化する。そのことを考えれば、睡眠時無呼吸症候群は社会に対して大きな影響を与えているといえよう。
睡眠時無呼吸症候群に対する認識度の低さや、その治療法についての誤解は、医療現場の安易な態度に見てとることができる。たとえば、私たちの睡眠研究所へ患者の検査依頼が来るとする。診察の結果、睡眠時無呼吸症候群であると判明すれば、私たちはその旨を主治医に伝え、さらに詳細な診察と治療を要請する。
ところが、主治医のところへ戻った患者には、結局睡眠薬しか処方されなかったりするのである。これを不満に思って、ふたたび私たちのところへ連絡してくる患者も少なくない。彼らの話によると、かかりつけの医者でさえ、「よく眠れるように睡眠薬を処方しておきましょう」などという程度の認識らしい。
テクニオン睡眠研究所は最近、睡眠時無呼吸症候群と診断された患者1500人に対して追跡調査を行なった。調査対象期間は、1976年から1988年までである。その結果、睡眠時無呼吸症候群に対するきちんとした治療を受けた患者は、全体の52パーセントにすぎなかった。治療を受けた患者と受けなかった患者をくらべると、前者の方がはるかに予後が良好であり、治療の効果は明白であった。
ただし近年、睡眠時無呼吸症候群に対する認識度がにわかに高まっている。これはイスラエルだけの傾向ではない。その証拠に、世界各国の医学校において、卒業試験の際、学生に対して睡眠時無呼吸症候群の知識を問うことが多くなってきた。

睡眠時無呼吸症候群の治療

睡眠時無呼吸症候群の治療は、1970年代に初めての治療法が試みられ、それ以降も試行錯誤が続いている。気道に閉塞が起こるタイプがもっとも一般的なので、まずは肺に空気が正常に届くようにすることが治療の目標となる。
初期に行なわれた治療のうち、もっとも効果が高かったのは、すでに紹介したとおり、気管開口術である。
つまり、気管に小さな孔を開け、睡眠時に空気が通るようにする。ただし、覚醒時には開口部を使用する必要がないので、起きているあいだは孔をふさいでおく。気管に開口部をもうけることにより、上気道の閉塞が回避され、空気が肺に届くことになる。ただ、気管開口術はたしかに症状を劇的に改善してくれる有効な治療法なのだが、場合によっては予後に問題が生じたり、合併症を引き起こしたりするため、その適用は重症患者にかぎられていた。
さほど重症でない場合には、外科的手術によって気道を広げ、呼吸しやすい状態を作り出す。つまり、気道を広げてやれば、閉塞を打ち破るための力も少なくてすむはずだ、と医師たちは考えたのである。この原理にもとづき、鼻腔を広げるための形成手術、肥大した扁桃腺の摘出、軟組織や口蓋垂〔いわゆる「のどびこ」〕などの切除が行なわれる。こうした形成手術は睡眠時の呼吸をある程度楽にしてくれるのだが、睡眠時無呼吸症候群そのものの完治につながるケースは比較的まれである。
その他の治療法としては、減量法がある。ただし、食事制限による減量はたいてい失敗に終わるので、過度の肥満症に対しては胃のサイズを縮小する手術をほどこす。こうして大幅な減量に成功すれば、症状は改善され、完治につながる。
私たちは、テクニオン睡眠研究所で診察した睡眠時無呼吸症患者のうち、過度の肥満症に悩む患者70人以上を対象に調査を行なった。患者は全員手術を受け、劇的な減量1たとえばI80キログラムから90キログラムヘの減量–に成功した。その結果、睡眠時の無呼吸は完全に消えたのだが、じつは喜ぶのはまだ早かった。というのも、手術後7〜8年経ってから追跡調査を行なったところ、約半数の患者は体重がすっかりもとに戻っていた上、睡眠時の無呼吸も再発していたからである。
睡眠時無呼吸症候群に対してもっとも有効な治療法が開発されたのは、1980年代に入ってからのことだ。その治療法を考案したのは、オーストラリアの若い医師、コリン・サリヴァンである。彼のアイデアはじつに単純なものであり、だからこそ、まさに天才的といってよい。つまり、患者の鼻にかぶせるかたちでマスクを装着し、鼻から空気を送りこんで気道の閉塞を打ち破るという方法である。空気圧がいったん気道の閉塞に打ち勝つと、止まっていた呼吸は魔法のように回復し、患者はその後、安らかな睡眠につくことができる。この装置は「CPAP(持続陽圧呼吸continuous positive air pressure)装置」と呼ぱれている。
幸運なことに、テクニオン睡眠研究所は、さっそくサリヴァンの治療法を試す機会を得た。当時は、まだ
この治療法が普及し始めたばかりで、世界的に見ても先駆的な試みだったと思う。治療にあたっては、私たちの患者の一人、H氏の多大な協力を得た。つまり、H氏の積極的な提案と財政的な協力によって、私たちは新しい治療法に取り組むことができたのである。
H氏は、テクニオン睡眠研究所がごく初期に診察した、重度の睡眠時無呼吸症患者である。睡眠検査の結果、心拍リズムにも強い異常が発見されたため、彼はさっそく気管開口手術を受けた。手術は成功し、病気は完治したかのように見えたが、やがて合併症と感染症が原因で、気管の開口部を再度ふさがざるをえない状況におちいった。そして、開口部を閉じると、たちまち病気が再発したのである。その後もH氏はさまざまな手術療法を受けたが、結局、症状の改善につながることはなかった。
あるとき、オーストラリアで新しく開発された治療法をH氏に紹介したところ、彼はためらうことなく、その呼吸装置を試してみたいと答えた。しかもH氏は、サリヴァン氏をイスラエルに呼び、CPAP装置による治療を受けたい、と積極的な態度であった。もちろんすべての費用はH氏が負担するという。幸いなことに、サリヴァンのチーフ・アシスタントであるロン・グランスタインの親戚がテル・アヴィヴに住んでいるという。私たちはグランスタインに電話で連絡をとった。そしてその2週間後、彼は大きな金属製の輸送箱とともにイスラエルに到着した。輸送箱の中には、「夢の発明」であるCPAP装置が収められていた。
すぐにわかったことだが、CPAP装置の使用にあたっていちぱん面倒なのは、患者の顔にフィットするマスクを作製する作業である。まず、ゴム状の粘着物質を患者の顔の上に厚く塗りつける。乾いたら顔からはがし、チューブを接着して、空気圧縮機へ接続する。この間、患者は身動きせず、じっと我慢していなけれぱならないのだが、ここを乗り越えさえすれば、CPAP装置の恩恵にあずかることができる。
準備のプロセスを忍耐強くこなしたH氏は、マスクを取りつけれられたままベッドに入った。H氏が睡眠始めたことを確認すると、グランスタインはマスク内の空気圧を徐々に上げていった。その結果、ある時点で無呼吸状態がすっかり消え、睡眠記録装置にレム睡眠を示す徴候が非常に活発なかたちで現れた。何とこのときのH氏のレム睡眠は、約一時間半も続いたのである。これほど長時間持続するレム睡眠を観察したのは、私の経験では初めてのことであった。だが、グランスタインの説明によれば、睡眠時無呼吸症患者にとって、この現象はべつに珍しいことではなかった。つまり、CPAP装置によって呼吸が安定し始めると、患者は即座に長時間のレム睡眠や深睡眠(第3〜第4段階)に移行するのだという。この現象は、CPAP治療における特徴的な初期反応として、彼らは早くから気づいていた。こうした現象が起こる理由としては、睡眠中の無呼吸状態によってレム睡眠や深いノンレム睡眠が長期にわたってさまたげられてきたことがあげられる。つまり、不足分を穴埋めするために、長時間のレム睡眠や深睡眠が生じたのだと考えてよいはずだ。
治療第一夜が明けて目ざめたH氏は「すぱらしい! 夢のような睡眠とはこのことだ!」と叫んだ。その数日後、グランスタインは、H氏のためにCPAP装置を残して、オーストラリアヘ帰って行った。
それから1〜2年後、家庭用のCPAP装置が開発された。この装置の市場価値にまず目をつけたのはアメリカの企業だったが、今では複数のメーカーが生産にたずさわっており、毎月の販売数は何千台にもおよぶという。現在、CPAP装置を利用している睡眠時無呼吸症患者の数は、イスラエルだけでも2000人を超える。しかも、その大半が「毎晩」この装置のお世話になっているという。中には海外旅行に装置を持って行く患者もいるし、軍に予備役兵として参加する際はこの装置を持ちこむという患者もいる。こうした患者にとって–そしてその近くで寝る親しい人間にとって–もはやCPAP装置のない生活は考えられないであろう。

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