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体内にそなわる睡眠時計

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太陽時計から体内時計ヘ

体内にそなわる睡眠時計

人間の体は睡眠と覚醒を周期的に繰り返す。ただし、そのリズムは外界の環境変化によってもたらされるのではなく、脳内の自発的な活動が引き起こす現象である。
このページでは「時間生物学」の近年の成果を紹介します。生体の周期的現象をあつかう時間生物学は20世紀後半に発達した若い学問だが、この分野では近年非常に興味深い発見が報告されている。
地球上では24時間周期で昼夜が交代する。そのリズムとは無関係な生活を想像することは容易ではない。たとえば、地球に自転運動がなかったとする。すると、太陽光があたっている側は永遠に昼であり、その反対側はいつまでも夜のままである。明暗に分かれた2つの世界は、まったく異なる2種類の生物を創り出すだろう。すなわち、ただただ明るい世界に適応した生物と、永遠の暗黒の世界に適応した生物。一方の環境に適応した生物は、もう一方の環境に進出することはけっしてできないはずだ。
地球という惑星に自転という運動があるからこそ、昼と夜が交代して訪れる。地球に暮らす生物にとって、その影響から逃れることはできない。この環境に適応しようとして、地球上の動物には3種類の生活様式が見られるようになった。すなわち、日没後に活動する夜行性動物、明るくなってから動き始める昼行性動物、そして、1日に2回の活動期が見られる薄明薄暮活動型の動物である。
だが、日々の環境変化にしたがって生活するにしても、ただ無条件に追従していればよいというものではない。それでは危険が大きすぎる。たとえば、冬になって、毎日空が厚い雲で覆われるようになると、地上には太陽光が届かず、一日の始まりも曖昧になる。こうなると、昼行性の動物は活動を開始するきっかけを失い、場合によっては生死にかかわる可能性も出てくる。そこで、外的環境要因に対する一方的な追従を避けるためにも、生物には「体内時計」が進化の過程でそなわった。体内時計という一種の時間測定メカニズムによって、生物は活動と休息を周期的に繰り返し、適切なタイム・スケジュールを柔軟なかたちで遂行する。また同時に、生物には環境の変化と時間感覚とを結びつける能力が認められる。これも体内時計の働きの1つと考えてよい。たとえば、渡り鳥が太陽の位置によって方角を知るとき、そこには体内時計の働きがかかわっているはずだ。また、ある種の動物は、毎日の昼の長さを手がかりに、繁殖にふさわしい時期を判断する。
生物の暮らしに体内時計がそれほど大切なものだとすると、近年までその存在があまり注目されてこなかったのは驚くべきことである。たしかに、古代ギリシャの医学者は、病気中であろうと、健康体であろうと、人間の体に周期的現象が見られることはよく承知していた。しかし、彼らはその周期性の原因を天体の運行リズムに求めていたのである。ギリシャ医学の父ヒポクラテスは、「病という現象は星の運行に大きく左右される」と述べ、医術を学ぶ者は、天体の運動に関する知識を身につけるまで実際の治療にあたるべきではないと主張した。
生物が見せる周期的活動は、外的要因ではなく、生体内の自発的な変化を基礎とするーーこのことが実験によって科学的に証明されたのは18世紀のことだ。ところが、この実験の重要性が認識されるようになる
まで、さらに200年以上の年月が必要であった。
1729年、フランスの天文学者ジャン・ドゥ・メランは、パリの王立科学アカデミーにオジギソウに間する論文を提出した。オジギソウは、夜になると葉を閉じることで知られている。彼は、その開閉運動について実験を行なったのである。ドゥ・メランは、完全に光を遮断した室内にオジギソウを置いて、その葉の開閉を観察した。その結果、まったく光が届かないにもかかわらず、あたかも昼と夜が訪れているかのように、オジギソウは周期的に葉の開閉を繰り返した。つまり、この実験によって初めてサーカディアン・リズムが科学的に証明されたといえる。この論文の中でドゥ・メランは、オジギソウの葉の開閉運動を病人の睡眠と関運づけている。すなわち、長期にわたって寝たきりになった人間でも、毎日睡眠と覚醒を周期的に繰り返す?この現象を、オジギソウの周期的運動と結びつけて考えたのである。しかし、彼の研究成果はあまり注目されずに終わってしまった。
このドゥ・メランの実験が他の研究者によって追試されたのは、30年以上も経ってからのことであった。しかも、葉の開閉運動の周期性を作り出しているのは外的な環境要因ではなく、櫨物体の中に存在するメカニズムだという事実は、100年も経ってようやく証明されたのである。しかもその実験の際、オジギソウを完全な暗所に置くと、葉が開閉するタイミングは毎日2〜3時間ずつ早い時間へとずれていくことが確認された。つまり、オジギソウの葉の開閉は、24時間周期ではなく、もっと短いサイクルで繰り返されたのである。ここで思い起こしてほしいのは、人間を被験者として隔離実験を行なうと、オジギソウとは逆に、睡眠覚醒リズムは25時間、場合によってはそれ以上の長さに延びるということである。
ところが、実験によって重要な知見が得られたにもかかわらず、その結果は広く知られることはなかった。生物の周期活動性というテーマに誰も見向きもしなかったということではないのだが、このあたらしい事実に注目したのはごく一部の人間にすぎず、せっかくの研究成果も陽の目を見ないまま埋もれてしまったのである。
19世紀まで、生物の周期的な活動に興味の目を向けるといえば、医者以外にはあまり考えられなかった。
医学にたずさわる人間は、さまざまな種類の疾病に、なぜか周期性が認められることに気づいていた。ときには驚くべき正確さで周期的な現象が観察されることも承知していた。しかし、たいていの医者は、症状を記述するだけで満足し、その原因究明にまでは乗り出そうとはしなかった。
何が生物の周期的な活動を引き起こすのか?この問題に初めて取り組んだのは、生理学的な観点から生体内の現象を調べていた人々である。生体内には、24時間周期で反復される生理現象が存在する。その現象をくわしく測定した研究者は、生物活動の周期性を間近に見ることとなったのである。たとえば、腎臓の機能について学んだことのある人は、腎臓内の尿量の日内変化についてもご存じのことと思う。つまり、一日の水分摂取量や水分摂取回数にかかわらず、腎臓内の尿は24時間単位で見ると、つねに一定の変化を見せる。
イギリスの医学者エドワード・スミスは、尿量や尿成分の測定機器を開発した研究者だが、彼は生体内の周期的現象に早くから注目し、体内時計の不思議な働きについて書物を著している。19世紀に刊行されたスミスの著作は、体内時計に関する研究書としては先駆的なものであった(なお、彼は呼気中の成分を測定する機器も開発している)。スミスは、生体内の生理学的現象を調節する上で体内時計が果たす役割を重視し、体内時計のメカニズムを解明するために綿密な実験を行なったのである。
ドイツのユルゲン・アショッフが体内時計の研究に取り組むようになったのも、体温変化という生体現象がきっかけであった。すなわち彼は、人間の体温は一日中一定しているわけではなく、24時間内にも上下することに着目した。そして、体温の変動パターンは、外的環境や実験条件のいずれとも無関係であることに気づいたのである。これを出発点として、アショッフは綿密な研究を重ね、睡眠覚醒リズムを支配する体内時計について、じつに貴重な実験データを残すこととなった。おそらくこの分野では他の追随を許さない業績だといってよい。
体内時計を専門に研究する人間の数はしだいに増え、今では世界中で研究が行なわれている。実際、生物の周期的活動に関する専門の学会誌は3冊も刊行されている。
さまざまな研究の結果、人間の体には種々の周期的な活動が知られているが、その周期の長さは、現象によってまちまちである。たとえば、心臓は秒単位で反復する運動を行なっているが、レム睡眠はおよそ90分が一単位となる。また、およそ24時間を1サイクルとするサーカディアン・リズムにそった生体現象もあれば、繁殖活動のように、1ヵ月あるいは1年を単位とする現象もある。

睡眠と体温変化

生物に認められるさまざまな周期的活動の中には、似たようなリズムで機能するものも多い。だが、活動のサイクルが同じだからといって、同一のメカニズムによって支配されているとはかぎらない。たとえば、同じサイクルで機能する2種類の周期的現象が観察されたとしても、それぞれ別種の体内時計によってコントロールされている可能性も十分考えられる。 しかも、私たちの体は地球の自転がもたらす物理的環境変化に影響を受けているため、体内時計の「本来の」リズムも、そこで修正を受けていると考えられる。したがって、体内時計本来のリズムを解明するためには、外界から隔離された空間で実験を行なう必要がある。たとえば、睡眠覚醒リズムと体温変化リズムという2種類の周期的現象は24時間を単位として繰り返されるが、隔離実験を行なうと、それぞれ異なるサイクルヘ変化することが明らかとなる。
人間の体温変化を、初めて医学的見地から測定したのは、一6世紀に生まれたヴェネチアの医学者、サントリオ・サントリオである。彼はガラス球の上部にガラス管を接続し、内部に液体を入れた装置で体温を測定した。これはもっとも古い体温計と考えられている。この装置は、ガラス球の部分を患者に手で握らせるか、あるいは口腔内に置くことにより、体温を測定する。すなわち、体温変化に応じてガラス管内の液体が上下するしくみになっている。
サントリオは、患者の体温を測定することによって、病気が回復したかどうかを判断した。しかし、当時の医学はあいかわらず古代ギリシャ医学の影響を受けており、体内に存在する「4種の体液」のバランスがくずれることによって病気が生じると広く信じられていた。つまり、日内の体温変化という重要な現象は、この「4体液説」の影に隠れ、ほとんど注目されることがなかったのである。
だが、ギリシャ医学の影響がうすれるにつれ、体温についての認識もあらたまった。かつて個々の疾患は、それぞれ固有の体混信を示すと考えられていた。つまり、病気によって体温が変化するにしても、治るまでの日内体温はつねに一定値を示すと信じられていたのである。ところが、のちにその考えは否定され、体温は一日のうちにも変化することが明らかにされた。そして、体温変化はさまざまな疾患に共通して観察される一徴候にすぎないとみなされるようになったのである。
さて、健康な人間の体温もつねに一定しているわけではなく、一日を通じて変動を示す。この事実の発見者がいったい誰なのか、それを文献から特定することはできない。しかし、体温計が医療目的で使われ始めた頃、体温の変動現象もさっそく注目されるようになったと考えてよいのではないだろうか。
19世紀に入ると、体温に関する医学書が刊行されるようになった。当時の文献をひもとくと、人間の体温は、午後に入ってから夕方に向けてもっとも高くなり、起床に先立つ早朝の時間帯にもっとも低くなることが、はっきりと示されている。一日の体温変動の幅は最大で約1℃(平均36・4〜37・4℃)だが、0・5℃以上の変動を示すことは比較的少ない。こうした体温の日内変動は、昼夜の気温差に影響されているわけではない。また、日中に体温が上昇するのも、とくに体を動かしているからというわけではない。これはたとえば、一日中じっと動かない状態でいたとしても、体温が一定のリズムで変動を繰り返すことからわかる。また、長期間眠らないでいたり、あるいは断食を続けたりしたとしても、体温の日周期リズムが簡単に乱れることはないのである。
ところが、体が健康なら体温もつねに一定のはずだと信じている人は少なくない。つまり、体温が変動するとすれば、それは病気のせいだと思いこんでいるのである。この誤解は根が深く、ときには説得するのに骨が折れる。たとえば、私は授業で体温変動について説明することがあるのだが、医学を専攻する学生でさえ、この事実に疑いの目を向けるものが多い。ときにはまったく信じようとしない学生もいる。私は、学生たちを納得させるために、クラス全員に体温測定を課したことがある。すなわち、自分の体温を2時間おきに測り、一日の体温変動を自分で確認させたのである。
では、時刻情報のない環境に人間を置くと、体温変動リズムはどのように変化するだろうか。そこで実際に実験を行なってみたところ、体温変動リズムは睡眠覚醒リズムに非常によく同調することが明らかとなっ
た。つまり、睡眠覚醒リズムの1サイクルが24時間より長くなると、それに寄り添うようにして、体温変動リズムの単位周期も長くなったのである。当時の研究者にとって、この実験結果はじつに注目すべき現象であった。というのは、睡眠覚醒リズムと体温変動リズムが同調するとなると、この2種類のリズムは同一の体内時計によって支配されていると考えられたからである。
実験によって明らかとなったのは、睡眠覚醒リズムの1サイクルが延長したことだけではない。体温変動リズムと睡眠覚醒リズムの同調のしかたそのものにも変化が生じた。通常、人が眠りにつくのは、体温が下降線を描き始める頃である。そして睡眠中も体温は下がり続け、目が覚める直前、具体的には午前4時から5時頃、もっとも低くなる。ところが、隔離実験を行なうと、最低体温が現れるタイミングに変化が生じる。つまり、睡眠開始時に体温がいちばん低くなる。いいかえれば、被験者は自分の体温がもっとも低くなった時点で眠りにつくようになる。これは、被験者の睡眠覚醒リズムを調節するメカニズムに変化が生じたからではないか、と考える研究者もいた。つまり、実験環境下に置かれた被験者は、体温が最低点に達したことを何らかの方法によって認知し、それを眠りのきっかけとするのではないか、という考え方である。
この考え方はたしかに仮説としては成り立つ。しかし、科学の世界においては、仮説に対していずれ反証が発見されるのが常である。というのも、隔離実験が繰り返され、データが蓄積されるにつれ、睡眠覚醒リズムと体温変動リズムは、それぞれ独立した、別個の体内時計によって支配されていることが示唆されるようになったからだ。つまり、隔離実験を2〜3週間も続けると、これら2種類の周期現象は「分離」し、それぞれ異なるサイクルを示し始めたのである。
この分離のタイミングは、実験を開始して数日後のこともあれば、何週間か経ってからのこともあり、前もって予想することはできない。しかし、分離後、2つのリズムがそれぞれどちらの方向にずれるかについては明確な結果が得られている。すなわち、睡眠覚醒リズム周期は延長し、体温変動リズム周期は短縮する。たとえば、睡眠覚醒リズムと体温変動リズムが26時間周期で同期していたとしても、やがて前者は27時間周期へと延長し、後者は24・5時間ないしは25時間周期へと短縮する、という例が観察されている。この事実に注目したハーヴァード大学の数学者リチャード・クロナウアーと時間生物学者のチャールズ・ツァイズラーは、これら2種類の周期現象には、それぞれ別個の体内時計が関与しているのではないかと考えた。すなわち、ふだん睡眠覚醒リズムも体温変動リズムも24時間周期のサイクルを示し、外界の明暗環境に同調している。ところが、隔離実験を行なうと、2つのリズムは同調したまま、サイクルが延長し始める。
このときのサイクルは体温変動リズムをベースとしていると考えられる。たとえば、被験者は体温がいちぱん低くなる頃、眠りにつく。ところが、さらに実験を続けると2つのリズムは分離し、別個のサイクルを示すようになる。
こうして複数の体内時計の存在が仮定されたわけだが、さらに研究が進むと、一つの体内時計が複数のリズムに関与していると考えられるようになった。すなわち、体温変動を支配する体内時計は、同時に副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾールの分泌リズムや、腎臓におけるカリウム濃度の変動リズム、レム睡眠のリズムなどに関与している。また、睡眠覚醒リズムを支配する体内時計は、成長ホルモンの分泌リズムに関与していると考えられる。すでに説明したように、成長ホルモンは一日の睡眠時間の前半に分泌量が多く、コルチゾールは後半に分泌量が増える。
また、隔離実験開始後しぱらくは体温変動リズムがベースとなる、と考えられることから、クロナウアーとツァイズラーは、体温変動リズムを支配している体内時計を「強いオシレーター」、睡眠覚醒リズムを律している体内時計を「弱いオシレーター」と呼んでいる。

睡眠覚醒リズムの「ずれ」を調節するには

人間の「睡眠覚醒リズム」も、動物の「活動=休息リズム」も、その本来のサイクルは24時間からずれている。したがって、これらのリズムが昼夜のリズムに同調するためには、何らかの補正メカニズムが必要となる。その調整はいかにして行なわれているのだろうか。
体内時計にもっとも大きな影響を与える環境要因は光である。すなわち、昼と夜、明と暗の交代が、体内時計に影響をおよぼす。たとえば、単純な体のつくりをもつ動物の場合、目そのものが体内時計の機能を果たし、活動=休息リズムを律している。この事実は、日周期リズムを作り出す上で、光という存在が非常に重要であることを物語っている。
鳥類の場合、目ではなく、脳が体内時計の機能を果たす。だがやはり、そこには光を感知する神経細胞が関与している。これは、進化の途上で、目が果たす体内時計の役割を脳の神経細胞が引き継いだ結果だと考えられる。哺乳類の場合、脳の視床下部が体内時計の機能をつかさどるのだが、視床下部と目の網膜は特別
な神経繊維で結ぱれており、この神経経路を介して体内時計は外部光についての情報を入手する。なお、網膜から視床下部へと向かう神経経路は、網膜から大脳皮質の視覚野へ視覚情報を伝える神経経路とは別物である。
要するに、体内時計が作り出す固有のリズムを外界のリズムに同調させる際、光が非常に重要な役割を果たす。たとえば、夜行性動物を実験条件下で飼育し、明期と暗期を人工的に調節してみる。その際、ごく弱いフラッシュ光を何度か与えるだけで、休息期と活動期が切り替わる。彼らの活動リズムを24時間サイク
ルに同期させるためには、一2時間もの明期は必要ないのである。コウモリはその極端な例で、ごく短いフラッシュ光、たとえば千分の一秒にも満たないフラッシュ光を一度与えるだけでよい。この方法を用いて、コウモリの活動リズムを24時間以外のサイクルに同調させることもできる。
ところが、人間の体内時計を調査した研究者は、他の動物とは異なり、光に対する反応を見いだすことができなかった。つまり、被験者を人工的な環境に置き、電気スタンドを定期的に明滅させて反応を調べたのだが、被験者の睡眠覚醒リズムには影響が見られなかったのである。したがって、人間の体内時計を外部環境に同期させるためには、「社会的な」要素が何よりも重要なのではないか?これが、かつて信じられていた仮説である。
だが、近年になって、この仮説の誤りが指摘されるようになった。というのは、人間の体内時計は、やはり動物のように光に対して反応することが明らかとなったからである。ただ、人間の場合、体内時計が反応するためには、他の動物にくらべ、かなり強い光を必要とするという点が違っていた。
ところで、人間の体内時計と光の関係が明らかになったのは、メラトニンという特殊なホルモンの研究が進んだ結果である。メラトニンは、脳の中心近くに存在する松果体によって生産され、生体外部の光環境と体内時計のあいだに存在し、両者を「橋渡し」している。

松果体とメラトニン

内分泌腺の一種である松果体。そして、松果体によって生産されるメラトニン。いずれも研究の歴史は比較的浅く、20世紀なかぱから、急激に注目を浴びるようになった。それまで松果体について知られていることといえば、成長とともに石灰化物が内部にたまること、X線撮影の際、その石灰化物が頭蓋測定の基準点となることぐらいであった。
松果体は、左右の大脳半球にはさまれた位置にある。そのような場所に存在する内分泌腺はほかになく、フランスの哲学者ルネ・デカルトは、松果体を「精神の座」ととらえていた。また、かつて松果体は進化の名残にすぎず、痕跡的な器官にすぎないとも考えられていた。
だが、ハーヴァード大学の医師、マーク・アルチュールは従来の説に納得できず、松果体に関する文献を徹底的に調べあげることにした。彼は12カ国語1800編にもおよぶ論文に目を通し、松果体は少なくとも次の3つの生理的プロセスに関与していることを見いだした。すなわち、松果体は、①性腺(卵巣と精巣)の機能、②皮膚の白色化、③脳の活動、などにかかわっているというのである(ただし、脳の活動との関連についてはあまりわかっていなかった)。アルチュールとその同僚ジュリアン・カイテイは、松果体についての知見を一冊の本にまとめ、1954年に刊行した。これをきっかけとして、松果体は研究者の強い関心を集めるようになる。
アルチュールの精力的な研究と並行して、イェール大学の皮膚科医アーロン・ラーナーも松果体の研究を進めていた(当時、ラーナーはアルチュールの研究について何も知らなかった)。ラーナーは本来、皮膚の色素形成について研究していたのだが、一編の論文に出会い、松果体に興味をいだくようになった。その論文によれば、カエルの松果体から抽出した物質は、カエルの皮膚の色素形成に影響を与えるという。ラーナーは松果体を大量に入手し、色素形成にあずかる生理活性物質の分離に乗り出した。そして1958年、約25万個もの松果体を使って、ついに活性物質の単離に成功したのである。彼は、この物質が神経伝達物質であるセロトニンに由来すること、皮膚内のメラニンに影響を与えることなどから、この活性物質をメラトニンと命名した〔神経伝達物質とは、神経細胞間の情報伝達に使われる化学物質である〕。
アルチュールによる松果体の研究とラーナーによるメラトニンの発見を出発点として、松果体の研究は急ピッチで進み始める。研究には数多くの人間が参加し、あらたな事実が相次いで報告された。こうして松果体とメラトニンの研究は、じつに多方面の注目を集めるテーマとなったのである。
松果体は、外界の明暗環境に応じてメラトニンの分泌をコントロールし、体内のさまざまな生理現象やホルモン分泌に影響を与える。つまり、松果体という器官は、体内で情報を変換する「生物学的変換器」の1種だといえる。
メラトニンというホルモンは、夜になると分泌され、昼間はほとんど生産されない。したがって、夜の長い季節ほど、体液中のメラトニン濃度が高くなる。つまり、メラトニン濃度は冬になると上昇し、夏のあいだは低下する。ところで、メラトニンは性腺に対して機能を抑制するように働く。つまり、松果体と生殖機能のあいだには密接なかかわりがある。これは、次のように考えれば理解しやすいだろう。すなわち、冬になって日が短くなると、動物は暗い環境に身を置くことが増えるわけだが、こうした短日条件では体内のメラトニン濃度も上昇する。その結果、生殖機能も抑制されることとなる。一方、春や夏は日が長く、繁殖行動に適した季節である。このような長日条件下ではメラトニン濃度が低下し、生殖機能は活動を開始する。
こうして、春や夏になると交尾行動・繁殖行動が活発化すると考えられる。古くから英語の成句では「春は若者の愛の季節」などといわれたりもするが、ホルモン分泌といった生理学的観点から見ても、この表現は十分納得のいくものだといえよう。
また、北極や南極に近い地域にすむ動物は、比較的大きな松果体をもつことが知られている。これは、夏と冬で日照時間が極端に変化する場所に生息していることを反映していると考えてよい。
実験室などで人工的に日照時間を設定すれば、動物はその条件に応じた反応を示す。つまり、日照時間を長く設定すれば、動物は夏の行動を示し、日照時間を短く設定すれば、冬の行動を見せる。実際、養鶏業者は飼育舎に照明装置を設置し、秋の減産時など、季節に応じて夜間点灯を行なうことで産卵数を増やしている。この「点灯養鶏」は古くから知られているテクニックである。
メラトニンは皮膚の色素形成にも関与しているため、体色変化という点から見ても、やはり性行動に影響を与えている。たとえば、繁殖期の動物は皮膚色や体毛色を変化させ、異性をひきつけようとするが、その場合もメラトニンがかかわっていると考えられる。
かつて、人間は日照時間の変化に対してあまり反応しないと考えられていた。明暗環境が生物に対して与える影響の大きさを考えると、人間が光のリズムに反応しないというのは、非常に不思議なことである。この謎を解明しようとして、人間の性行動に注目する人もいた。つまり、人間の性行動は季節にも左右されないし、日長にも影響を受けない。それから逆に、明暗環境に対する無反応性が説明できると考えたのである。
ところが人間の場合も、十分な照度を与えさえすれば、メラトニンの分泌が抑制されることが発見された。
この発見を機に、人間における光周期反応が大きく注目されるようになった。
現在オレゴン州立医科大学に勤務する精神科医アル・ルーイは、アメリカ国立精神衛生研究所勤務当時、人間におけるメラトニン分泌量と光量の関係を調べていた。夜間、被験者にさまざまな照度の光をあて、その影響を測定したのである。その結果、光を浴ぴるとメラトニンの生産が抑制されることが明らかとなった。
ただし、人間の場合、他の動物にくらべ、メラトニン分泌が抑制されるためにはかなり強い光を必要とする。
照度は「ルクス」と呼ばれる単位で測定される。たとえば、日中、私たちに届く光は何百万ルクスのレヴェルにも道するが、ベッドの脇に置いた電気スタンドで作り出す明るさはI00ルクスにも満たない。つまり、私たちを取り囲む光環境は、昼と夜で大きく変化している。こうした明暗の変化に対し、人間の目は敏感に反応する。ところが、松果体は弱い光を「見る」ことができない。そこで、メラトニン分泌が抑制されるためには、最低限2500ルクスの照度が必要となる。2500ルクスというと、日の出の数分後、それも天気のよい日に、窓から室内ヘーメートル離れた地点の明るさに匹敵する。
ルーイの研究によると、人間が2500ルクス以上の光を浴びると、メラトニンの分泌量に変化が生じるだけでなく、体内時計にも影響するという。たとえば、一日のうちもっとも体温が下がるのは早朝の時間帯なのだが、夜間に強い光を浴ぴると、体温が下がりきる時間帯も遅くなり、睡眠時間帯も全体として遅い方へずれてしまう。後でまた触れるが、睡眠覚醒リズムに障害をもつ患者に対して、強い光をあてるという治療法も行なわれている。これは、強い光を利用して狂った体内時計をリセットし、調整しようという試みである。
では、メラトニンは人間の睡眠覚醒リズムをコントロールしているのだろうか? この点に関して、肯定的な実験結果が報告されている。たとえば私たちは、イスラエルの視覚障害者学校に通う児童・生徒を対象として、メラトニンと睡眠障害の関連を研究した。その結果、睡眠障害に悩む視覚障害児のメラトニン分泌
パターンは、通常とは異なることが明らかとなった。すなわち、メラトニン濃度のピークが夜ではなく、日中に観察されたのである〔目で受けた視覚映像と光の明暗情報は、それぞれ別個の神経経路によって、目から脳へ届けられると考えられている。したがって、「目が見えなく」ても、明暗を感じとる能力が残っていることも多い。だが明暗を
感じとる能力までない場合には、メラトニンの分泌リズムが異常をきたし、睡眠障害におちいることもある〕。私たちは、重度の睡眠障害に悩む一人の男子生徒に対してメラトニンを処方した。その結果はめざましく、この生徒はすっかり正常な眠りを取り戻した。
さらにのち、私の研究室で博士論文の執筆を進めていたオルナ・ツィシンスキーは、「眠りの扉」が開くタイミングと、メラトニンの分泌がさかんになるタイミングのあいだには、密接な関係があることを見いだした。つまり、メラトニンの濃度が上昇すると眠たくなるーーツィシンスキーの研究はその可能性を物語っている。また、夜の早い時間帯にメラトニンを投与すると、「眠りの扉」が開く時間、つまり眠気が訪れる時間も早まることが報告されている。こうした実験結果から考えて、メラトニンが睡眠リズムに与える影響は、想像以上に大きいのではないかと考えられる。
繰り返しになるが、人間の体内時計と明暗環境の関連についてまとめておこう。人間の体内時計は、社会的な要因だけでなく、明暗変化という物理的な要因にも影響を受けている。つまり、この2つの外的要因によって、体内時計は日周リズムヘ同調しているのである。いいかえれば、体内時計は毎日自分自身のサーカディアン・リズムをリセットし、外界のリズムに合わせ直しているといえる。
具体的には、ある十分な照度が与えられれば、人間の体内時計は影響を受ける。たとえば、夜になっても明るい光を浴びるような生活を続けると、体温が最低点に連する時刻が遅くなってしまい、睡眠時間帯も遅い方へずれこんでいく。一方、朝方から強い光を浴びてしまうと、今度は体温が下がりきる時刻が早い時間帯へ移行し、早寝早起き型の睡眠パターンが現れる。こうした原理をもとに、外界の明暗変化リズムは体内時計を律し続けるのである。

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