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睡眠

睡眠のメカニズム

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睡眠のメカニズム

眠りを測る
まず、睡眠とは何かを定義しておこう。定義というとなにやらむずかしい印象を与えるので、できるだけかんたんにまとめておく。
「睡眠は人間や動物の内部的な必要から発生する、意識水準の一時的低下現象である」と定義し、これに「かならず覚醒可能のこと」という条件をつけておくことにする。
このように定義すると、催眠や薬物による、睡眠とよく似た意識の低下状態は、個体の内部的な必要から発生したものではないので、睡眠とは別のものということになる。また、かならず覚醒可能なことという条件から、昏睡がのぞかれる。冬眠、夏眠、休眠などの特殊な不活動状態も、覚醒がいちじるしく困難であることから、睡眠とは別のものであるということになる。
睡眠研究では、脳波、眼球運動、骨格筋の筋電位を記録し、それぞれの活動パターンを総合して眠りの深さや状態を判定する。複数の現象を同時に記録する方法をポリグラフ法といい、睡眠ポリグラフ法は睡眠測定用にとくに開発された記録法である。 そのうちでも脳波は、意識水準とよく対応して変化するので、睡眠ポリグラフ法の中心的な存在である。髪をかきわけて頭皮を出し、アルコール綿で脂をよくふきとってから、電極糊をたっぶりとつけた電極をとりつける。寝返りなどで電極がとれてしまわないように、コロジオンという接着剤で固定することもあるが、外科用の紙テープで軽くとめたあと、網ネットで頭全体を巻いておくだけで十分である。

脳波と意識水準

脳波と意識水準


脳波の変化の特徴は、覚醒水準が高いほど周波数の高い波が多くなることである。これを「連波化」という。覚醒が低下すると、周波数も下がる。これを「徐波化」という。そこで、脳波を見ていれば、タヌキ寝入りしている人の脳波はα波が連続しているので、すぐに見破ることができる。脳波の発見から25年くらいのあいだは、脳波の周波数を見ていれば睡眠はすべてわかると考えられてきた。
ところが、1953年にレム睡眠が発見されると、脳波万能主義の時代は終わりをつげ、脳波にくわえて眼球運動と骨格筋の電位を測定しないと、睡眠状態を正しく判定できないことがわかってきた。こうして、今日の睡眠ポリグラフ法が標準測定法として普及することになった。

ノンレム睡眠とレム睡眠

眠りはじめてから1時間半から2時間すると、脳波パターンはとつぜんα波とθ波が混在する、入眠期によく似たパターンに変わる。ところが、ふつうのまどろみ状態とちがって、閉じたまぶたの下で眼球が左右に急激な運動をくりかえす。この運動をrapid eye movement(REM、レム)という。
角膜部分は眼球からすこしとびでているので、まぶたを下から押し上げている。眼球が動くとその出っぱりも動くので、とくべつの装置がなくても、まぶたの出っぱりを見ていればレムはだれにでも観察できる。
ところで、眼球運動も覚醒水準と一定の対応関係をもっており、緊張したり興奮したりすると、眼球運動は速く小きざみになる。一方、覚醒水準が下がると眼球運動の速度が下がり、まどろみ状態ではゆっくりとした振り子運動をしめすようになる。この眼球運動をslow eye movement(SEM、セム)といい、睡眠紡錘波があらわれるころになると停止する。
このような眼球運動の性質にしたがうと、入眠期と同じていどの覚醒水準になったのなら、眼球運動はセムでなければならない。眼球運動がレムであるなら、脳波パターンはβ波が連続する、もっと高い覚醒水準をしめしていなければならない。
ところが、この入眠一時間半後にあらわれた睡眠状態は、そのどちらにもあてはまらない。
眠っている人にレムがおこるということは、覚醒水準と眼球運動との対応関係が、ふつうと逆になっていることを意味する。そこで古くは逆説睡眠とよんだこともあるが、現在は、レムをともなった睡眠という意味で「レム睡眠」とよび、それまでにわかっていた睡眠を、レムのない睡眠という意味で「ノンレム睡眠」とよぶようになった。もなく、急速な眼球運動(レム)がおこっている。

睡眠段階の分類

国際標準判定法にしたがった睡眠段階の特徴パターンをしめす。

脳波

脳波


判定はふつう、30秒ごとに睡眠ポリグラムの変化を総合しておこなう。
覚醒(段階W)では、8〜13ヘルツのα波と13〜35ヘルツの低振幅で不規則なβ波が見られる。段階1は、α波が判定区間の50%以下になってから2〜7ヘルツ
の低振幅徐波が連続するまでが含まれる。
段階2は、12〜14ヘルツの睡眠紡錘波とK複合という2相性または3相性の高振幅徐波が出る。この段階ではニヘルツ以下のδ波もあらわれるが、20%以下である。
段階3と4では0・5〜ニヘルツ、75マイクロボルト以上の大振幅δ波が出現する。δ波の割合が20〜50%を段階3、50%以上を段階4に分類する。すでに述べた徐波睡
眠は段階3と4をまとめたものである。レム睡眠は、段階1の脳波パターンで、レムをともない、筋電位が消失した状態と定義され、段階1レムと記されることも多い。

睡眠リズムは90分周期

このようにして判定した睡眠段階の時間経過を模式図でしめす。

睡眠段階

睡眠段階


 
この図では、覚醒と段階1の中間にレム睡眠をおいているが、研究者によっては段階1の位置にプロットし、斜線や網模様をつけて、ノンレム睡眠の段階1と区別
することもある。 レム睡眠は入眠後90分ごとに出現するという性質があり、ノンレム睡眠とそれにつづくレム睡眠までを一つの睡眠構成単位として、「睡眠周期」とよぶ。一夜の睡眠ではこの睡眠周期が4、5回くりかえされるが、各周期を構成する睡眠状態の割合は一様ではない。深い眠りをしめす徐波睡眠は前半の2、3時間に集中して
あらわれる。一方、レム睡眠は周期ごとに持続が延長し、朝方には30〜40分持続する。一夜の眠りは2つの睡眠の単純なくりかえしではないことがわかる。
睡眠の発達
ヒトの24時間の睡眠-覚醒パターン

ヒトの24時間の睡眠-覚醒パターン


睡眠パターンは、年をとるにしたがって変化する。
一日の睡眠パターンを模式化して、年代別にしめしたものである。
生まれたばかりの赤ちゃんは、授乳と排泄のために2、3時間おきに覚醒するが、ほとんど一日中を眠ってすごす。このような一日のあらゆる時間帯に分散してとる睡眠を、多相性睡眠という。生後一年ほどすると、夜間の睡眠が持続的になり、昼起きて夜眠る24時間周期のリズムがだんだんはっきりしてくる。それでも、昼寝を午前と午後にとるなど、多相性睡眠の傾向は残っている。
4歳を過ぎるころから、昼寝は午後に1回とるだけで、あとは一日中起きてすごすことができるようになる。6歳ごろからは日中の睡眠はほとんどとられなくなる。5歳から10歳の時期は発達の個人差がかなり大きく影響するので、昼寝の必要がなくなるのはどの年齢であるかを決めるのはなかなかむずかしい。これまでの研究報告から平均的なところをわりだすと、10歳以降とすれば問題ないだろう。わが国の調査では、6歳以降の学齢期に達すると昼寝が消えるが、昼寝が必要でなくなったからか、それとも昼寝をみとめない社会通念によって昼寝ができなくなっているのか、はっきりした理由はわかっていない。
10歳から成人期を経て老年期に入るまで、睡眠は夜間に1回とるだけになる。このような一日一回の睡眠を単相性睡眠という。老年期になると、ふたたび昼間の睡眠があらわれ、午後に一回、あるいは午前・午後の2回眠る多相性睡眠になる。
NHKの質問紙による調査(1992年)では、小学生の睡眠時間は約9時間、中学・高校生で8時間から7時間半くらい、それ以降はすこしずつ増えて、70歳以上の高齢者では約9時間になる。
新生児期から老年期までの一日の総睡眠時間や、ノンレム睡眠とレム睡眠の割合はどうなっているのだろうか。
総睡眠時間,ノンレム睡眠,レム睡眠の年齢による推移

総睡眠時間,ノンレム睡眠,レム睡眠の年齢による推移


機軸は年齢、縦軸は時間をしめし、太線の上にある数字はノンレム睡眠とレム睡眠の合計時間をしめしている。睡眠時間は小児期までの成長期に急激に短くなる。その短
縮はレム睡眠の減少が大半をしめている。やがて睡眠時間はゆるやかな勾配をえがいて短くなる。
NHKの調査では、成人期から徐々に睡眠時間がのびるのに、この図ではそのような増加はみとめられず、少なくなる一方である。なぜだろうか。図では、睡眠ポリグラフ法でノンレム睡眠とレム睡眠を判定し、途中で目がさめてしまったときの中途覚醒時間をのぞいて、総睡眠時間を計算している。質問紙による調査結果と睡眠ポリグラフ法の測定結果のずれは、この中途覚醒時間を図にくわえてみるとほとんど解消する。
10代までは、途中で目ざめるということはほとんどない。そこで、調査と測定結果にはほとんど差が見られない。20代からすこしずつ中途覚醒が見られはじめ、30代以降では回数も、また一回の覚醒時間も長くなる。この中途覚醒の増加は老年期にいっそう明瞭になり、長い時間寝床で横になっていても、じっさいに眠っている時間は若いときにくらべて確実に短くなる。
年代ごとの眠り方のちがいをくらべてみよう。
若年成人と老年者の睡眠経過の比較

若年成人と老年者の睡眠経過の比較


10代から20代では寝つきも速く、徐波睡眠(段階3十4)の持続時間も長いし、一夜をつうじて中途覚醒が少ない。ところが50代になると、入眠期にしばしば覚醒して、なかなか寝つけない。眠りに入っても徐波睡眠の持続は不安定で、一夜の睡眠でまとめても若い世代の睡眠には遠くおよばない。70代になると、徐波睡眠はごくわずかになり、中途覚醒するとしばらくは眠ることができないという睡眠の中断がおこる。

睡眠の性差と睡眠不満

眠るために横になっていた時間にたいする正味の睡眠時間の割合を、睡眠効率といい、20代まではほぼ100%に近い値をしめしているが、60代以降では
80〜70%まで効率が下がってしまう。
このような年齢による変化は、どの年齢で見ても男性のほうが女性よりもはっきりとあらわれる。中途覚醒の回数を年齢と対応させてみると、中途覚醒の回数はほとんどの年齢で男性のほうが多い。

中途覚醒の回数年齢・性別

中途覚醒の回数年齢・性別


20代と60代では統計的にも有意な差がみとめられており、この年齢帯の性差はかなり深刻なものと受けとめていい。
若い20代では、寝返りを打ったときにベッドのふちを確認するとか、落ちたふとんを引き上げるなど、ごくふつうの睡眠中の行動にともなったもので、持続も短い。そこで、覚醒したことを翌朝まで覚えているほうがまれで、問題になることはない。
ところが、60代での中途覚醒は、いちど起きると再入眠に時間がかかるなど、睡眠不満の原因になりやすい。回数が増えると、しばしば睡眠が中断され、ぐっすりと深く眠ったという満足感を削ぎ落としてしまう。高齢男性は高齢女性にくらべて中途覚醒が多く、このような危険度が高いといえる。

睡眠薬

図1.10 睡眠段階出現率の年齢別変化

図1.10 睡眠段階出現率の年齢別変化


上の図1・10は、睡眠段階の出現率の年齢による変化を、男女別にグラフにしてくらべたものである。徐波睡眠は、30代を境に男女とも割合が低下する。とくに男性で減少はいちじるしく、60代以降では徐波睡眠はほとんど消失している。一方、女性のグラフを見ると、60代でも徐波睡眠は比較的維持されており、男性の40代とほとんど変わらない。女性のほうが深い眠りを高齢期にも保っていることがわかる。
このようなデータを見ると、睡眠不満は圧倒的に高齢男性に多く、高齢女性に少ないといえそうである。ところが、じっさいにはその逆で、睡眠不満は更年期を境に中年女性で急増し、そのまま高齢期へと引きつがれているのである。
睡眠にたいする満足度を年代間でくらべてみると、満足度は年齢とともに低下するが、50代で性差があらわになり、女性の低下はとくにいちじるしい(図1・11)↓。
図1.11 睡眠の満足度の年齢別変化

図1.11 睡眠の満足度の年齢別変化


 
中高年女性の睡眠不満の大部分は、①なかなか寝つけない(入眠困難)、②深く眠れない(熟睡困難)、③しばしば途中で目がさめてしまい、睡眠が中断される(中途覚醒)、④朝の4時とか5時に目がさめてしまう(早朝覚醒)、⑤中途覚醒や早朝覚醒のあと、もういちど眠ろうとするが眠れない(再入眠困難)、などである。
不眠を訴え睡眠薬を処方されている人の割合も、女性が男性のほぼ二倍という報告がある。男性にも、前立腺肥大による夜開顕尿や無呼吸性不眠など、睡眠障害を引きおこす疾患をかかえているケースが多いが、このような人々でも睡眠不満を訴える人の割合は小さい。
女性は睡眠ポリグラムではいい睡眠をとっているのに、なぜ満足できないのだろうか。その理由はまだわかっていない。更年期を境に急増することから、性ホルモンが関与しているのではないかと考える研究者も少なくない。若いうちは、黄体ホルモンなどが母体保護メカニズムにはたらきかけ、不眠耐性を高めていたが、閉経により保護メカニズムの活動が停止し、その結果、不眠耐性が下がってしまうためではないかというものである。
いずれにせよ、男性からは女性はよく眠っているように見えるが、当の女性は睡眠不満が絶えない。一方、女性からすると、自分は不眠で苦しんでいるのに、よく眠っているはずだと決めつけられても納得のいかないことである。睡眠の性差は高齢化とともにひろがる。高齢社会では睡眠の性差に関する正しい理解も重要である。

見張り番メカニズム

冒頭で、睡眠の定義では「覚醒可能なこと」という条件をつけた。睡眠中も脳は環境をしっかり監視しており、わずかな変化でも危険を察知したら、ただちに睡眠を中断して覚醒する。
起きるほどのことではないと脳が判断すれば、少々の物音ていどでは目をさますことはない。このような見張り番メカニズムは一晩中はたらいている。
ところが、眠りが深くなると、見張り番メカニズムの感度が落ちて寝過ごすこともある。また、せっかく見張り番メカニズムが情報を検出して覚醒をうながしても、眠気が強く睡眠欲求がたかまっていると、覚醒しなくてはと思っていても眠気に押し流されて覚醒に失敗することもある。覚醒しようという覚醒欲求と、眠りつづけようとする睡眠欲求のあいだで葛藤が生まれると、やる気の問題(動機づけのていど)もかかわって、目ざまし時計でしっかり起きられるかどうかもわからなくなる。
眠っている人に軽い拍手などの音を聞かせると、脳波には100マイクロボルトくらいの大きな反応波形があらわれる。この反応が「K複合」とよばれるもので、睡眠中に特有の脳の電位反応である。K複合は単純な物理的刺激ばかりでなく、人の音声にも敏感に反応する。録音テープに細工をして、人の名前をふつうに順再生した場合と逆再生した場合で、寝ている人の脳波の反応をしらべてみる。すると、ふつうに再生した人名にはK複合があらわれる割合が多いが、逆再生では反応が不明瞭であったり、振幅も小さい。逆再生では物理的な刺激特性は変わらないが、言語としての構造がくずれているので、無意味な音列になっている。このようなものにたいしては、脳波は小さな反応しかあらわさない。順再生のように意味のある音列では、脳電位の応答性は高くなり、大きな反応があらわれる。自分の名前やそれに近い名前の場合には、さらに反応が大きくなる。段階2の睡眠中にも、脳内の認知処理系はこのような意味処理を実行しているのがわかっている。

図1.12 睡眠各段階における精神作業能力

図1.12 睡眠各段階における精神作業能力


 
眠っている人に一秒間隔で3〜6発の閃光(フリッカー光)を与え、閃光に気づいたらただちにその数だけ手に固定したスイッチを押してもらうようにして、反応率をしらべた(図1・12破線)。さらに、無反応や数をまちがえたときは実験者が声をかけて起こし、閃光を感じたかどうかをたしかめて認知率をしらべると、うとうと状態(段階1)でも正反応率は83%、認知率は92%と、かなり正確な反応が可能であり、環境の認知も正確であることがわかる。
これが段階2になると正確な反応は二9%に下がり、認知率も38%に下がる。段階3では認知も反応もほとんど不可能になる。レム睡眠になると、正反応率は48%、認知率は67%に回復する。段階1よりも応答性は鈍いが、段階2よりもずっと高い。
ボタン押し反応よりすこしむずかしい単語の復唱を課題に用いても、成績は閃光の場合とよく似た結果になる(図1・12実線)。段階2とレム睡眠はほぼ同じ水準にあるが、段階3ではほとんど反応できなくなる。
睡眠の前半には徐波睡眠(段階3+4)が3時間ほどつづく。この期間は環境変化にもっとも鈍感な時期である。その中間点、寝てから一時間半後にレム睡眠をはさみこむことは、一時的にせよ見張り番メカニズムの活動が回復するわけで、睡眠の安全管理という観点からは合理的なしくみといえる。
図1.13

図1.13


ところが、このレム睡眠時における反応率や認知率にはかなりのばらつきがある。個人差も大きいが、同じ個人内でも大きい。レム睡眠では図1・13の上図のように、5発の閃光(第9チャンネルの記録)にたいして5回のボタン押し反応(第8チャンネルの記録)をおこなっても、睡眠はまったく中断されないときもあるが、下の図のように4発の閃光にたいしてボタン押し反応もなく、起こして聞いても閃光を見たかどうかはっきりしないという場合もある。
とくに反応がないときに起こして聞いてみると、「他のことを考えていた」「夢の中ですでにボタンを押していた」「夢の中で実験者が、いまの閃光については
ボタンを押さなくてもいいと言ったではないか」などと答えることが多い。刺激が夢の中にとりこまれると、現実と区別がつきにくくなって、反応率が下がってしまう。
これを夢のとりこみ現象といい、その結果、行動的な応答性が下がることを混同効果という。
レム睡眠段階では認知と運動反応にずれがおこりやすく、平均反応率だけでは眠りの深さを浅いか深いか決めることはむずかしい。
睡眠中の見張り番メカニズムは、意味のある環境変化を信号として検出し、意味のない変化を雑音として無視する。このような聞き分けを、心理学では弁別という。
弁別の正確さも、認知の場合と同じように、ノンレム睡眠の進行にともなって急激に低下する。
図1.14 睡眠時の弁別反応と強化

図1.14 睡眠時の弁別反応と強化


 
二つの音刺激のうち一方の音(弁別刺激)だけにボタン押し反応をするようにして、それぞれの睡眠段階で反応率をしらべると、図1・14aのような結果になる。レム睡眠は徐波睡眠(段階3+4)とほとんど変わらない水準に落ちており、レム睡眠段階では音の聞き分けがひじょうに困難になっていることがわかる。
ところが、弁別刺激に4秒以内にボタン押しをしないと、火災報知器の音が鳴りひびき、足に電気ショックがかかるようにしてボタン押し反応を動機づけすると、上のb図のようにレム睡眠の反応率が飛躍的に改善される。刺激のもつ意味によって反応の正確さが大きく変わるところが、レム睡眠の特徴である。雷が嗚っても目ざめない母親が、わが子の泣き声ですぐに目ざめるという。母親の愛情の深さをたたえるたとえであるが、レム睡眠ではこのことがいっそうはっきりとあら
われる。
レム睡眠が睡眠中、一時間半ごとにくりかえしあらわれることは、必要なときにいつでも目ざめるチャンスを確保するうえで有利であり、刺激の意味によって選択的に応答することも、睡眠の維持と安全管理という矛盾した課題の解決に役立っている。
ぐっすり眠るために、しっかりした見張り番を立てる。むだに起きたりしないように眠らずに環境情報を処理し、起きるかそのまま眠りつづけるかを判断する。わたしたちの脳はつねに矛盾した二つの作業におりあいをつけ、なんとかどちらの希望も受け入れるところで、気持ちのいい眠りを実現しているのである。

睡眠物質の発見

眠りを中断させた動物の血液や脳脊髄液を精製したり、朝一番の尿を大量に集めて分析するなど、自然の眠りをもたらす脳内物質の追究は精力的にすすめられている。
睡眠薬のほとんどは、覚醒中枢の活動をおさえて眠りやすい状態をつくっているもので、睡眠中枢に直接はたらきかけ、これを活性化して睡眠を引きおこすというものではない。そのため、できるだけ自然の眠りに近い状態をつくるように改善がすすめられているが、習慣性や副作用などについて専門的な知識が必要である。これらの問題を解決するためにも、睡眠物質の解析がおこなわれており、この分野での日本の研究者の活躍はめざましく、世界を大きくリードしている。
東京医科歯科大学の井上昌次郎教授らのグループは、断眠(睡眠遮断)させたラ。トの脳から睡眠促進物質を抽出し、その有効成分がウリジンと酸化型グルタチオンであることをつきとめている。ウリジンはガンマアミノ酪酸ではたらく鎮静系の神経活動を強め、酸化型グルタチオンはグルタミン酸ではたらく興奮系の神経活動を抑制する。
ここで興味深いことは、酸化のもとになる過酸化物質が分解されて酸化型グルタチオンが生成されることである。脳内に発生する過酸化物質は毒性物質であり、細胞死の原因となる。酸化型グルタチオンは脳内の解毒過程にかかわりながら興奮をしずめ、睡眠を促進する。眠りは脳の解毒過程であるという睡眠毒素説は、一時期、古典学説として否定されたり無視されてきたが、井上教授らの研究は新しい「毒素説」として注目を集めている。
もう一つ、わが国のすぐれた研究成果は、京都大学の早石修教授らのグループが発見した、プロスタグランジンD2とプロスタグランジンE2である。
プロスタグランジンD2は、脳周辺の膜組織(くも膜、軟膜)と脳室内の脈絡叢に存在し、脳脊髄液の循環システムにのって視床下部の前端にある視索前野に到達する。視索前野はノンレム睡眠の中枢として重要な部位であり、ここにプロスタグランジンD2が作用すると、睡眠を引きおこすシグナルが発信される。この信号は、脳内の睡眠物質候補として有力なアデノシン調節系に伝えられ、自然な睡眠が進行する。
一方、E2のほうは体温を上昇させ、覚醒水準を上げるはたらきをする。眠気をおさえ、日中に高い覚醒を維持するのはE2の役目である。最近、ナルコレプシーの情動脱力発作に、プロスタグランジンE2の覚醒維持効果が抑制的にはたらくことがわかり、注目をあつめている。
この情動脱力発作はカタプレキシーともよばれ、笑ったり大喜びすると全身の力がぬけてしまうものである。ナルコレプシーという過眠症の主症状の一つで、気分が高揚すると姿勢が保てずに、くずれ落ちるように倒れてしまうので、たいへん危険な発作である。この発作をプロスタグランジンE2でおさえることができるということは、この病気のメカニズムを解明し治療を考えるうえで画期的な研究成果といえる。
睡眠物質の候補としては、およそ30の物質があげられている。免疫物質もかなりの数が候補にあがっており、生体防御系やそれに関連した体温調節メカニズムなどが、眠りと関係の深いことがわかる。また、話題のメラトニンは、睡眠を引きおこす力はあまり強くないが、生物リズムを適正に保つ効果があり、時差症などのリズム障害に役立つのではないかという期待がもたれている。同様のリズム調整物質として、ビタミンB12も極端な夜型(睡眠相後退症候群)の治療に効果があるという報告がなされている。
まだ本格的な基礎研究がはじまったばかりであり、いますぐに自然の眠りを引きおこし、ぐっすりと眠ることができるという薬は完成していない。今後の開発研究が待たれるところだが、30におよぶ物質が候補にあがるということは、眠りのメカニズムはさまざまな生理メカニズムに関連し、けっして単純な構造にはなっていないということをしめしている。ある物質は侵入した雑菌を材料として分解・合成したものであったり、脳内の毒物を原料にして生成されたものもあったりする。たくみな物質循環としたたかな生存戦略が、眠りのしくみに組みこまれていることがわかる。

眠りにはリズムがある

日中の覚醒レベルの変動(16才の健康男性の例)

日中の覚醒レベルの変動(16才の健康男性の例)


 
眠気を測る
先ほどは、眠りを測る方法とその測定からわかる眠りのメカニズムについて述べた。
眠りの前には眠気をもよおす。この眠気も測ることができる。測定方法は大きく分けて、①自覚的評価法、②行動的評価法、③精神生理的評価法、の3つがある。それぞれについてかんたんに、測定法とじっさいの測定結果を紹介しておこう。
自覚的評価法
まず、自覚的評価法について解説する。
スタンフォード眠気スケール(SSS)は、眠気の状態を7レベルに分けており、あてはまる状態の番号を選ぶ(表2・1)。
表2.1 スタンフォード眠気スケール(ホッズら,1973)
あなたの現在の眠気の状態にもっとも対応した番号に1つだけ○印をつけてください
1やる気がある,活発,頭がすっきりしている,はっきり目ざめている
2よく目ざめているが最良の状態ではない,物事に集中することができる
3ゆったりくつろいでいる,まあまあ目ざめており物事に反応できる
4やや頭がボーッとして気がぬけている,横になりたい気分
5頭がボーッとしていて気が散りやすい,目ざめているのがむずかしい
6眠い,横になりたい,頭がぼんやりしている
7まどろんでいる,起きていられない,すぐに眠ってしまいそうだ
関西学院版眠気スケール(KSS)は、SSSを参考にして開発された眠気スケールで、22の眠気状態からなるチェックリストのあてはまるものに印をつける
(表2・2)。
表2.2 関西学院版眠気スケール
活力がみなぎっている         0.58
気力が充実している          0.82
能率がよい              1.22
足どりが軽い             1.56
視野が広いように感じる        1.71
考えることが苦にならない       2.11
やや機敏である            2.38
身体がだるくない           3.03
ゆったりとくつろいでいる       3.46
だるくもないし,すっきりもしていない 3.63
気がゆるんでいるわけではない     3.95
気が散りやすい            4.21
何となく眠気を感じるが,活動していると忘れる 4.39
頭がさえていない           4.68
思考がにぶっている
4.86
頭がぼんやりしている         5.10
目がしょぼしょぼしている       5.37
まぶたが重い             5.54
ふとんが恋しい            5.74
眠気と戦っている           6.17
知らず知らずのうちにまぶたがくっつく 6.33
眠くて倒れそうである         6.49
各項目には眠気得点が割りふられており、これを合計したものがそのときの眠気得点ということになる。視覚的アナログスケール(VAS)というものもある。これは長さ100ミリの水平線分の両端を、「はっきり目ざめている」と「ひじょうに眠い」として、いまの眠気状態に対応する位置に垂線をつけて評価する方法である。「はっきり目ざめている」を0点とし、垂線までの距離をミリ単位で読みとって評価得点とする。慣れればかんたんな方法で再現性も比較的高いが、児童や高齢者ではとまどう人もいるので、十分な説明と練習が必要である。
気分活動性スケール(GVA)は、活動性スケール(GV)と気分状態スケール(GA)のそれぞれを4つのVASで評価し、その合成得点から評価するもので、VASの単独スケールを用いるよりも安定したスケール値である。
活動性スケールは活動性を測る覚醒度(A)、眠気(S)、動機づけの低下(M)、倦怠感(W)の4つのVAS得点をGV=(A+300-S-M-W)÷4に、気分状
態スケールは感情状態を測る幸福感(H)、悲哀感(S)、落ち着き(C)、緊張(T)の4つのVAS得点をGA=(H+C+200‐S‐T)÷4にそれぞれあてはめ、GVとGAを計算する。ここで気をつけなければならないのは、眠気が強くなってきた披験者はひじょうに不機嫌になったり、判断が雑になったりするので、正確に測ろうとあれこれスケールをふやすと、かえってデータの信頼性や安定性がそこなわれることもある。ここらのかねあいがなかなかむずかしい。
集団調査では、もっとも単純に「ひじょうに眠い」という判断だけに注目しても、眠気の時間特性を見ることができる。
図2.1 眠気の時間変化

図2.1 眠気の時間変化


 
図2・1は、400人の大学生を対象に「ひじょうに眠い」と感じた時刻を30分きざみでしらべたものである。午後2時に、50%以上の学生が耐えがたい眠気を感じており、44%の学生が思わず眠ってしまったと答えている。10時にも小さなピークがあるが、大学生にとって日中の眠気といえば、午後2時の眠気がもっとも強烈であることがわかる。
図2.2 ドライバーが眠気を感じる時間

図2.2 ドライバーが眠気を感じる時間


 
ドライバーについて「耐えがたい眠気」の時間をしらべた結果もある(図2・2)。バスとタクシーの運転者には10時、12時、14時の3つのピークが見られる。この時間帯は交通量も少なく乗客も少ない。刺激の少ない単調環境になりやすい条件が整っている。このような退屈な環境では覚醒水準が下がりやすく、日ごろは目立たない眠気のリズムが行動上にあらわれやすい。よく慣れた経路を走るドライバーほど単調環境におちいりやすく、2時間ごとに強い眠気におそわれていることがわかる。
ところが、経路が一定していないタクシーやトラックの運転者では、午後2時の眠気と、それにもまして、早朝の3〜4時にもっとも強い眠気におそわれているのがわかる。一般ドライバーにもすこし見られるが、ふつうの人はこの時間帯は眠っており、朝の3〜4時がほんとうに眠いといわれてもピンとこない。眠気というものは、眠れないか、無理に起きている人が感じるもので、ふつうの生活をしている人では午後2時の眠気がもっとも強いということになる。
ここから、もっとも強い眠気は夜間睡眠の時間帯にあり、24時間周期のリズムで変動していることがわかる。つぎに午後2時にあらわれる12時間周期のリズム、そして弱い2時間周期のリズムなどがすこし見えてくるが、まだあまりはっきりとしていない。

行動的評価法

行動的に測定した覚酸度をビジランス(vigilance)とよび、測定するために開発されたテストをビジランス課題という。たいていはコンピュータの画面上に課題がしめされ、キーボードやマイクロスイッチで反応すると、反応時間の測定や正誤の判断を自動的におこなってデータを蓄積するようになっている。用いる刺激によって、聴覚ビジランス課題と視覚ビジランス課題に分けられる。
聴覚ビジランス課題
聴覚ビジランス課題のうちでもっとも単純なものが、単純反応時間課題である。いちばん静かにしたときの環境騒音の平均レベルに5デシベル足した大きさの純音(1000ヘルツ)を、10〜30秒の間隔で出し、反応時間を測定する。
眠くなってくると、反応時間が長くなる。反応時間が3秒を超えるようになると、ほとんど反応できなくなる。3回連続して反応ができなくなったところを、行動的入眠とする。無反応と判断する基準値としては5秒が用いられる。反応があるまで音が鳴りつづくというやりかたでは、5秒たつと自動的に音が止まるようにしておく。ピ。プ音(持続が50〜100ミリ秒と極端に短い純音)を用いるときは、5秒経過した後に10〜30秒の間隔をあけてふたたび刺激を与える。
弁別テストでは、同じ周波数の音で、持続が500ミリ秒(0・5秒)と450ミリ秒(0・45秒)の長短弁別をおこなう。刺激の表示間隔は2秒である。一方の音を標的としてボタン押し反応をもとめ、もう一方の音は非標的としてボタンを押さないことにする。もっともたいくつな条件では、1時間あたりの標的回数を40回(2%)、非標的1760回(98%)とする。よほど覚醒した人でないかぎり、あまりの単調さで眠ってしまうので、この改良版として、標的と非標的の比を1対3(25%、75%)にしたものを使うことが多い。

図2.3 聴覚弁別テストによる眠気リズム

図2.3 聴覚弁別テストによる眠気リズム


図2・3は、聴覚弁別テストでしらべた、日中8時間の眠気のリズムの個人例である。
眠気にリズムがあったとしても、それがその人固有の生物リズムによっているとはかぎらない。始業・終業、食事の時刻など、社会はかなり整然とした時間割をもっており、時間の手がかりとなるものも豊富にそろっている。そこで、ほんとうに眠気には生物リズムがあるのかたしかめるためには、環境から時間手がかりを取り去って検討する必要がある。
実験では、環境を一定の状態にたもった恒常環境室に被験者を隔離して、15分ごとにくりかえし眠気を測定している。上から、VASでしらべた眠気、弁別時間(反応時間)、敏捷性の自己評価をしめしている。眠気には10時半、12時半、14時半にピークが見られる。ほぼ同じ時刻に弁別時間のピークも見られ、眠気が強いと反応時間がのびているのがわかる。自己評価はこれとちょうど逆転したリズムをしめし、眠いと成績がふるわないことをよく自覚しているのがわかる。
図2・2のバスやタクシーの運転者が見せた10時、12時、14時の眠気のピークは、図2・3とよく一致しており、実験環境でも確実にとらえることが可能な、生物リズムによって制御されていることをしめしている。
聴覚ビジランスでは目を閉じた状態でも反応が可能であり、じっさい段階1でも前半であれば80%ていどの正反応が期待できる。ところが目を閉じた状態では、すでに事故が発生する危険域に入ってしまうという状況を想定した場合には、視覚ビジランス課題でしらべないと警告は手遅れになってしまう。

視覚ビジランス課題

英数字検出課題はディスプレイにOから9、AからZまでの英数字が表示される。表示時間は50ミリ秒、6〜10秒間隔で一文字ずつランダムな順序で表示される。「3」と「A」が出たら、どちらでもただちにボタンを押して反応する。反応時間が5秒を超えたら見落としと判定する。もうすこしかんたんな課題では、4肢選択課題というものがある。画面を十字に4分割し、そのどれかに出現する「十」記号を検出したら、キーボード上の対応するキーをできるだけ速く押して反応する。空間判断の敏捷性をしらべることができる。
すこし高次の精神機能をしらべる場合には、加算課題が用いられる。2桁の数字を5つ縦にならべて表示する。暗算で足し算をし、結果をテンキーで入力する。演算速度と正答率で評価する。
このほかに論理課題もよく用いられる。英文字二字の配列と、それを記述した文字配列文の異同判断をおこなう。たとえば「AはBの右にある」という文の後に「AB」と出たら、AはBの左にあるので配列文とは一致しないから、「×」のボタンを押す。さきほどの文の後に「BA」と出れば、文と配列は一致しているので、「○」のボタンを押すことになる。左右、上下、ある、ないを組み合わせ、それぞれランダムな順序で表示し、反応時間の測定と正誤の判定をおこなう。眠くなれば、判断が遅くなるだけでなく、誤りも多くなる。それぞれの課題は一試行およそ3分間を目安に、実験者ペースあるいは被験者ペースでおこなう。各試行が終了するごとに、課題成績を100点満点で自己採点してもらうと、眠気が強くなると、成績を過小に評価する傾向が強まる。行動指標にくわえ、自己採点評価を組み合わせて測定すると、眠気とたたかいながら課題にとりくむ人の、心理と行動の力動関係を浮きぼりにすることができる。
災害事故などの危機的な状況では、不眠不休の作業がつづけられる。

図2.4 32時間連続作業中の眠気と疲労

図2.4 32時間連続作業中の眠気と疲労


 
図2・4は、そのシミュレーションとしておこなった、32時間連続作業中の眠気と疲労をしめしている。朝の4時から7時まで仮眠をとった場合、疲労と眠気はかなりおさえられるが、休憩するだけではほとんど改善は見られず、そのまま上昇しているのがわかる。2日目の朝から日中にかけての変化を見ると、仮眠をとったとき(実線)には、眠気や疲労のピークは15時ごろになっているのがわかる。この結果から、3時間仮眠の効果は覚醒後せいぜい6時間までで、午後2〜3時の眠気をおさえることはできないということが読みとれる。一方、仮眠をとらないばあい(破線)は、休憩後2〜3時間遅れて10時にピークがあらわれる。
休憩効果が2〜3時間つづいたと考えることもできるが、むしろ断眠によって強められた眠気は直線的に高まるのではなく、2時間周期の眠気のリズムを強調化し、そのピーク時刻に強くあらわれていると見ることができる。つまり、32時間の連続作業を負荷した条件でも、眠気が強くなる時刻はふだんと変わりなく、その強さが条件により午前に強くなったり、午後に強くなったりするということである。
このような危機的状況下での作業成績を、15分ごとにまとめてプロットしたものが図2・5である。
図2.5 32時間連続作業中の作業成績

図2.5 32時間連続作業中の作業成績


 
上段は課題の正答率をしめしている。眠らない(破:休憩グループ12人)と、最後の8時間のくずれかたが、眠ったとき(実線‥仮眠グループ12人)よりも大きい。くずれかたは、論理課題のほうが英数字検出課題よりもはげしい。睡眠が不足し、眠気が強まると、見落としやうっかりミスをおこしやすいことがわかる。
下の段は、課題成績を100点満点で自己採点してもらった評価得点の平均をしめしている。自己評価得点は、眠くなるとじっさいよりも低めに誇張されるのがわかる。英数字検出課題の正答率では、グループ間にそれほど大きな差は見られないが、下の段の自己評価では休憩グループの過小評価が強くあらわれている。同じていどの成績をあげているにもかかわらず、眠気の強い休憩グループの評価は極端に低くなっている。
2日目の10時ごろでは休憩グループはもっとも眠い。英数字検出課題では80%の水準は維持しているのに、50%ていどしかできなかったと判断している。論理課題では、じっさいの成績にグループ間の差が出ているが、同様のことはこの課題にも見られ、眠気の強い2日目の10時には50%まで自己評価値が下がってしまう。眠気が強いと、じっさいの成績の60%ていどしかできていないと、思いこみやすい。
眠気が強いときに作業することは、仕事が遅くミスが多くなるので、それだけでもつらいのであるが、それに追い打ちをかけるように、自信がなくなり、成果を不当に低く思いこむ。このため、眠くない人の倍は不愉快な思いをすることになる。眠いときには寝てしまうにかぎるが、そうもいかない場合には、せめて眠気を軽くするだけでも、作業ストレスはずいぶん軽減される。仮眠の回復効果は、ふだんの夜間睡眠にくらべればずっと小さい。それでも仮眠をとったときのほうが、ずっとしのぎやすく、作業ストレスも低い。
ところで、生物リズムとは関係のないことであるが、休憩グループ(破線)は休憩前から成績が下がっている。もうじき3時間眠ることができるとわかっている仮眠グループは、仮眠まで元気を保つことができる。しかし、休憩できるが寝てはいけないといわれている休憩グループでは、ふだんの就床時間帯に入ると、まもなく成績が低下しはじめる。必要な情報があるかないかで、がんばりのていども変わるし、成績も変わってくる。危機管理計画では、休憩の時期、その内容を明確にすることが大切である。

精神生理的評価法

精神生理的評価法としては、脳波のスペクトルパワーを用いる方法と、睡眠段階1が出現するまでの入眠潜時を測る方法、超短縮睡眠‐覚醒スケジュール法などがある。
脳波スペクトルパワー
これまでの研究を見るかぎり、どこか特定の一部位の脳波をとりだしたのでは、眠気の指標としてはあまり感度はよくないようである。睡眠脳波は頭の前側からあらわれて頭全体へひろがっていく。一方、覚醒系の速い脳波活動は後頭部を中心に活動をつづけ、なかなか減衰しない。そこで頭頂部あるいは中心部など両方の活動をカバーできそうな場所を代表部位として選ぶことになるが、睡眠段階の判定のように脳波記録を総合的に見るほうが、眠気を測るのには適しているようである。

日中の覚醒レベルの変動(16才の健康男性の例)

日中の覚醒レベルの変動(16才の健康男性の例)


上の図は、頭頂後頭合成脳波(頭頂‐後頭双極導出)を20分ごとにスペクトル分析し、えられた脳波スペクトルから22個のパラメータをとりだして分析した結果をしめしたものである。最終的には脳波スペクトルの特徴から覚醒中のものを0、睡眠段階1のものを1.0として11時間分のデータをプロットしたものである。約2時間の眠気のリズムが見事にとらえられている。
睡眠潜時反復テスト(MSLT)
朝起きてから一時間半から3時間たったところから測定をはじめ、2時間ごとに4回は測定する。べッドに入り、消灯してから睡眠段階1があらわれるまでの時間を測る。この時間を潜時という。段階1の判定区間を30秒とし、3区間連続したら入眠と判定し、ただちに被験者をおこす。眠ければ潜時は短く、眠くなければ潜時は長くなる。最大潜時を20分として、20分待っても段階1があらわれないときは測定を打ち切る。
このようにして、4回の測定値の平均をもとめると、健康成人ではふつう潜時は10分以上になる。平均潜時が5〜10分を境界領域とし、5分以下のときを「極度の眠気」あるいは「病的に強い眠気」と判断する。
すでに見たように、日中の眠気は2時間ごとに周期的に変動するので、測定の開始をいつにするかで結果が左右されるが、経験的に覚醒してから一時間半から3時間のあいだではじめるといいとされている。ふつう8〜9時ごろにはじめることが多いが、施設によってはこれでは早すぎて無理ということもあり、10時からはじめることもある。
断眠後の眠気測定では、「眠ってください」という指示ではすぐ眠ってしまって、眠気の強さを判定することができなくなる。そこでベッドで寝るかわりにリクライニングシートにすわってもらい、「起きていてください」と指示する。このような潜時テストを覚醒維持検査(MWT)という。平均潜時が15分以下であるときには病的な眠気が疑われ、車の運転をみあわせるなど生活指導が必要とされている。
食事や日中の活動で活動水準が変化することは、よく知られていることである。日常生活では12時に強い眠気を感じることはない。この時間は、昼ごはんを食べているので眠気がまぎれている。潜在的に眠気があっても、日常生活の行動でそれが隠蔽されることを、マスキング効果という。屋外で体を動かしているときには、ほとんど眠気を感じることがないのは、マスキング効果がはたらいているからである。
一方、午後2時の眠気は食後の眠気ともよばれ、長いあいだ昼食をとったためにおこると考えられてきた。もっとも有力な説明は脳貧血説で、消化器に血液があつまる結果、脳は貧血状態になり、覚醒が維持できなくなるのだというものである。そうであるなら、朝食の後ももっと眠くていいはずであるが、10時の眠気はそれほど強くない。同様に夕食後にも強い眠気がきていいようであるが、寝不足でもないかぎりそのようなことはおこらない。
それでもこの消化‐脳貧血説はかなり強固な支持を受けているので、この問題に決着をつけるため、恒常化法(コンスタントルーチン)というMSLTの特別版が考案された。これは食事の影響が分散するように、わずかずつ分けて食べるようにしてMSLTを測定する。また活動を制限し、測定が終了しても、食事やトイレ以外はそのまま45度に倒したリクライニングシートにすわって、つぎの測定を待った。したがって、恒常環境に近い条件統制になっている。
2015年12月10日17時09分21秒.pdf030
図2・6は、このようにして食事と運動の影響をとりのぞいた条件で測定したMSLTのデータを、ふつうの食事条件で測定したMSLTデータとくらべたものである。小学5、6年生(児童期:10〜12歳)では午後の眠気はどちらの方法でも見られない。15時30分の眠気は16〜17歳の青年期以降で明瞭にあらわれ、食事の影響をとりのぞいた恒常化法のほうがいっそうはっきりとしている。高齢者(62〜74歳)でも、ふつうの測定では13時30分と比較的早い時期に眠気があらわれるが、恒常化法で測定すると、高校生と同じように15時30分に眠気のピークがあらわれる。
このように、午後2〜4時の眠気は、食事の影響をとりのぞいても、強固にあらわれる。一方、小学生にはこの眠気はみとめられない。このことから午後の眠気の発生には、発達あるいは成熟過程のかかわりがうかがわれる。

超短縮睡眠ー覚醒スケジュール

2時聞きざみでは、周期が4時間以上のゆっくりした変動成分しかとらえることはできない。したがって、MSLTやその特別版でも12時間周期と24時間周期のリズムはとらえられるが、2時間周期の眠気のリズムはとらえることができない。そこで、7分の睡眠期と13分の覚醒期で、あわせて20分間の睡眠‐覚醒周期を一単位として、くりかえし測定するという方法が開発された。
ふつうの睡眠-覚醒周期は、8時間の睡眠期と16時間の覚醒期からなっており、その比は一対二である。7分対13分では1対2にすこし足りないが、これを72回くりかえすと24時間になり、睡眠期は合計504分(8時間24分)、覚醒期は合計936分(15時間36分)で、ふだんの睡眠と覚醒の時間に近い値をとる。睡眠の必要性が高く、眠気が強ければ、7分間の睡眠期の大部分が睡眠で占められるが、眠る必要がなく眠くもないときは、睡眠期に入ってもほとんど眠ることはない。このようにして20分ごとに7分間の睡眠期をもうけ、そこにあらわれた睡眠の長さから、睡眠の必要性と眠気の強さを測ろうというものである。

図2.7 睡眠期7分間にあらわれた

図2.7 睡眠期7分間にあらわれた


図2・7は、48時間にわたって連続測定した、睡眠期7分間にあらわれた睡眠の量をプロットしたものである。このような眠気の曲線を睡眠傾向曲線とよび、さまざまな条件での眠気と睡眠の発生確率を推定するのに使われる。
「寝てください」と指示する入眠試行条件と、「起きていてください」と指示する覚醒維持条件では、後者のほうがやや睡眠時間が短くなっているが、それでも二つの曲線には周期が2時間、12時間、24時間の3つの眠気のリズムがあらわれているのがわかる。
また、この図から、一9時前後では眠ろうとしてもほとんど眠れないことがわかる。ここが睡眠禁止帯とよばれる時間帯である。24時間と12時間周期の眠気のピークが立ち上がる直前に睡眠の入口があると考えられており、そのくわしい本態はわかっていない。
眠気を構成する3つのリズム
成人の眠気を構成する3つのリズムの関係はどうなっているのだろうか。模式図を図2・8にしめす。縦軸は覚醒から睡眠へ移行する潜在的な確率(睡眠の発生確率)を、横岫は時刻の推移をしめしている。
大い線は大きな眠気の変動曲線で、夜間睡眠の時間帯がもっとも睡眠がおこりやすいことをしめしている。24時間周期でくりかえしおこる眠気は、早朝の4〜6時ごろに最大値をとる。
約一日周期でくりかえしおこるリズム変動をサーカディアンリズム(circadian rhythm)とよぶ。circaは「約」とか「およそ」という意味で、dianは「一日」という意味である。直訳すれば「概日リズム」あるいは「約一日リズム」ということになる。日常生活におよぼす影響は、生物リズムのなかでもっとも強い。24プラスマイナス4時間の周期をもったリズムがサーカディアンリズムである。
一方、周期が20時間以下の生物リズムを、ウルトラディアンリズム(ultradian rhythm)とよぶ。
このうち周期がおよそこ一時間のものを、とくにサーカセミディアンリズム(circasemidian rhythm)とよぶ。「概半日リズム」あるいは「約半日リズム」と訳したり、「潮汐リズム」と訳すこともある。15〜16時にかけて見られるピークがこれにあたり、第二の強い眠気のリズムである。12時間周期であれば、眠気のピークは一日2回あらわれるはずであるが、図には中程度の眠気のピークは1つしか見られない。そのわけは、15〜28時の12時間後は早朝の3〜4時になり、この時刻はちょうど夜間睡眠の最中で、しかももっとも強いサーカディアンリズムの眠気のピーク時刻に重なっているためである。
太い実線の上に破線でしめしたリズムが、約2時間周期のウルトラディアンリズムである。眠気のリズムとしては振幅も低く、影響力はあまり強くないが、単調環境では思いのほかの威力を発揮し、あくびが出そうになったり、まぶたがくっつきそうになるので、安心はできない。3つのリズムは、人の発達レベルで独特の役割をはたしてきた。
幼児の睡眠は多相性であり、ウルトラディアンリズムが優勢である。これは幼児のエネルギー蓄積能力にかかわっている。幼児では胃も腸も小さいし、エネルギーをたくわえておく肝臓も小さい。備蓄する能力が低いのに、神経も骨格もすべてに急成長が要求される。したがって長時間の睡眠、つまり断食に耐えることができず、小きざみに覚醒してエネルギーを補給しなくてはならない。こうしたエネルギー戦略から、内臓があるていど成長し、エネルギー収支に余裕ができるまで、小きざみな睡眠-覚醒リズムを発達させる必要があった。
クライトマンは、この小きざみな睡眠?覚醒リズムは、もっとも基礎的な休止-活動周期であると考え、基礎的休止1活動周期(BRAC)とよんでいる。やがて、長時間の睡眠に耐えられるようになると、夜間睡眠と昼寝をする24時間周期と12時間周期のリズムが複合したリズムに移行する。
北半球の先進諸国では昼寝はタブーなので、このような国の研究者は、最終的にはサーカディアンリズムに移行し、眠りのリズムが完成するとしている。しかし、実り豊かで温暖な地方ではシエスタという昼寝の習慣があり、大人も子どもも午後2時ごろから2時間くらいは昼寝をする。このような国では、成人も24時間周期と12時間周期の二つのリズムが合成した二相性の眠気のリズムが、正常でごくふつうのこととされている。
どちらも社会習慣に深く根ざし、確信してゆずらないが、実験データからすると、大人にも午後2時ごろに眠気があり、それは生物リズムによってコントロールされていることが指摘できる。昼寝の問題はあらためてとりあつかうことにして、ここでは眠気の3層構造が生物リズムとしてセットされており、そのリズムに適合するやりかたで作業と休憩を計画することが、人にやさしい社会をつくることである、とだけ述べておくことにする。

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