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睡眠

睡眠は25時間サイクル?

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25時間サイクルの睡眠

ずれてゆく睡眠パターン

このページでは、「睡眠/覚醒」という交代する2つの状態が、どのようなリズムで繰り返されるのかについて見てみたい。
私たちは、朝起きて夜眠るという生活が自然なリズムだと思いこんでいる。ところが、生まれたばかりの子どもは、けっして大人と同じリズムで寝起きするわけではない。たとえば、家庭に新しい命が誕生し、家族が喜びと幸せに包まれるとき、両親は子どもの寝起きに合わせて、しばらくは自分たちの眠りのリズムを犠牲にすることとなる。両親は数時間ごとに起きて、子どもの面倒を見なければならない。夜ベッドに入ったら朝まで眠り続けるのが当然の習慣だったのに、しばらくそういう生活とは縁がないものと思ってあきらめなければならない。
病院や小児科クリニックの待合室では、かならず誰かが子どもの寝起きのことを話題にしている。しかも、話題を提供している本人の顔はすっかりやつれてしまっている。とくに子育てを初めて体験する親にとって事態は深刻らしく、自分の子どもが正常な睡眠習慣を身につける日が訪れるとは思えない、といった表情である。困り果てた両親は、自分たちの親を家に呼んで、子どもの面倒を見てもらったりもする。そして、疲れ切った心身を癒すために、1晩か2晩、自宅近くのホテルで過ごすのである。
だが、個人差はあるが、どんな子どもでも、いずれ両親の望むような睡眠習慣を身につける。つまり、夜は眠り、昼間起きているという睡眠パターンである。通常、乳児がこうした適応を見せるようになるまでに6ヵ月はかかる。その間、乳児の眠りは、少しずつ大人の睡眠パターンに近づいていくのである。生後一カ月のあいだ、乳児の寝起きのサイクルは4時間である。子育ての経験のある親や小児科医の中には、授乳の時間を4時間おきに設定し、「自然な」睡眠リズムである「4時間サイクル」に同調させるのがよいと主張する人もいる。
いずれにせよ、一晩に3〜4回目を覚ましていた新生児も、徐々に夜間覚醒の回数が減り、昼間の睡眠時間も短くなる。そして、生後ほぼ6ヵ月も経つと、子どもはほとんど一晩中眠り続け、24時間サイクルで寝起きするようになる。これでようやく両親も一息つくことができる。
さて、この変化は環境に適応した結果なのだろうか? それとも、人間に生来そなわった「体内時計」が働いているのだろうか? ナタニエル・クライトマンは、きわめて早くからこの問題に取り組んでいた。かつてのクライトマンは、睡眠リズムは生得的なものではなく、環境への適応の結果生まれると考えていた〔結局この考えは否定される〕。そこで彼は、乳児の眠りを詳細に観察し、睡眠パターンの変化を記録した。このとき、幼児を寝かしつけたり起こしたりするようなことはせず、眠りたいときに眠らせ、起きていたいようであれば、そのままにしておいた。また、幼児が空腹をおぼえて泣き出したり、それらしき素振りを見せたりしたときには、自由に授乳することにした。
ところで、1939年、クライトマンは『睡眠と覚醒』と題する著作を刊行した。これは当時の睡眠科学の集大成であり、4000を超す科学的データにもとづいて睡眠現象を論じた書物である。その第2版(1963年刊行)の表紙には、乳児の睡眠発達記録をグラフ化した図がそのまま使われている。

乳児の睡眠覚醒リズム

乳児の睡眠覚醒リズム


このグラフはクライトマンが観察した睡眠記録データの1つなのだが、グラフをながめると、乳児の睡眠パターンが24時間周期に同調していくようすがよくわかる。たとえば、生後4ヵ月をすぎたあたりから、夜の眠りが長くなり、昼の睡眠時間は短くなっているようすが読みとれる。
だが、それ以外にも、観察力の鋭い人なら、この図から何かを読みとることができるはずだ。すなわち、生後間もない乳児は、一日に何度か目ざめるにしても、そのタイミングが毎日少しずつずれているのである。
その結果、図の上部に「斜めの帯」が生じている。たとえば、子どもが午後2時ちょうどに目ざめ、授乳を受けたとすると、翌日は午後2時30分に目が覚め、さらにその翌日は午後3時に目ざめるーーといった「ずれ」が生じるのである。図中に現れる「斜めの帯」は、同じ図を2枚左右につなげてみるとはっきりする。もちろんクライトマンはこの現象に気づいていたのだが、当時彼はその原因を「月の満ち欠け」の周期に求めていた。
図中に「天の川」のように流れる「斜めの帯」?乳児の睡眠パターンに見られるこの現象は、クライトマンの「睡眠と覚醒』が出版された後も、しばらくのあいだ、睡眠科学者の関心を集めることはなかった。その後、睡眠覚醒リズムを律する体内時計のしくみが解明されるにつれ、この幼児の睡眠パターンについて
も明確な説明がなされるようになった。つまり、乳児の睡眠覚醒リズムは体内時計の支配を受けており、その基本周期は、一時間を単位とすると、24の「約数」、すなわち、3、4、6から少しずれたところにあるというのである。
もし乳児の睡眠リズムが3時聞か4時間、あるいは6時間であれば、24時間にちょうどおさまる以上、毎日の睡眠覚醒リズムは固定され、「斜めの帯」も現れないことになる。ところが、たとえば寝起きの基本周期が3・5時間だとすると、すでに説明したように、ある日の午前7時に目ざめた子どもは、次の日は午前7時30分に目ざめ、その次の日は午前8時、というように30分ずつずれていく。乳児は一日に何度も寝起きを繰り返すわけだが、その全体のパターンが毎日30分ずつ遅い方へずれこんでいくために「斜めの帯」が現れるのである。
私もバーニー・ウェプ教授とともに、クライトマンと同様の観察実験を行なってみた。すなわち、乳児の自然な睡眠リズムを尊重し、眠りたいときに眠らせ、眠くなさそうなときは無理に寝かしつけたりせず、自由な生活をさせ、睡眠パターンを記録したのである。記録は子どもの母親に依頼することになる。もっとも、実験開始前は、協力してもらえそうな母子を探すだけで一苦労なのではないかと心配していたのだが、そんな疑念はすぐに吹き飛んだ。実験には大勢の方々の積極的な協力を得、多数のデータを集めることができたのである。中には、子どもを寝かしつけたり起こしたりしなくてよいわけだから、むしろ楽なぐらいだという母親もいた。
実験期間中は、子どもの睡眠時刻・覚醒時刻、および授乳時刻を正確に記録する。これを少なくともニカ月間続け、データを集計する。その結果、私たちはクライトマンの実験とほぼ同じ結果を得た。結局、正確に4時間周期の睡眠リズムを示す子どもは一人も観察されず、かならず4時間から少し外れた周期?たと
えば、3・5時間とか4・5時間というサイクルで寝起きを繰り返していた。実験に参加した母親の中には、この事実に気づき、子どもの眠りのリズムにもとづいて、自分の生活リズムを調整している人もいた。 生後1年までに子どもの睡眠パターンは大きな変化を見せる。目立った変化としては、一日のうちに何度も寝たり起きたりするのではなく、連続して起きている時間が長くなり、眠りをまとめてとるようになること、そして、睡眠覚醒リズムが環境に適応したかたちI昼は起きて、夜は眠るというパターンに変化すること、の2点が挙げられる。ただし、幼児期における睡眠パターンの変化のしかたには、かなりの個人差がある。私たちの実験データでも、子どもが大人と同じ睡眠パターンを示すようになるまでの期間には大きな開きがあり、生後2〜3ヵ月の時点で変化が現れる場合もあれば、1年以上かかる場合もある。私たちの研究所では、幼児の睡眠障害治療にも取り組んでいるが、2〜3歳になっても睡眠パターンに変化の見られない子どもが少数ながら認められる。こうした子どもをどうあつかえばよいか?その対処法については、後で論じる。
さて、幼児が示す細切れの睡眠リズムは、なぜ24時間でちょうど繰り返されるような単位に設定されていないのだろうか? もしかすると、成人の睡眠リズムを律している「体内時計」も、本来は24時間ではなく、そこから多少ずれているのではないだろうか? それを調べるためには、完全に外界から遮断された環境で実験を行なわなければならない。というのも、私たちは朝から晩まで無数の刺激にさらされて暮らしており、そういう刺激をシャットアウトした条件下でなければ、「体内時計」が本来もつサイクルを測定することは不可能だからだ。たとえば、学校や会社に遅刻しないために朝は目ざまし時計が鳴る。学校では定期的にチャイムが響き、工場では定刻にサイレンが聞こえる。昼食の時間、コーヒープレーク、休憩時間をチャイムやサイレンで知り、一日がすぎていく。家に帰ると夜のニュース番組がいつものテーマ音楽とともに始まる。ソファでくつろいだ後、ニュースの音楽を耳にしたとたん、反射的に眠ってしまうという人も多い。毎日、目ざまし時計が鳴り出す「ちょうど一分前」に目が覚めるという人もいる。まさに、体にしみついた長年の習慣といえよう。 考えてみれば、私たちは「バイオフィードバック法」によって、みずからの意志で脳波をコントロールすることができるのだから、決められた時間に寝たり起きたりできたとしても、とりたてて不思議ではない。しかし、私たちの睡眠習慣を決定しているのは環境と意志だけなのだろうか。眠りがそれほど可塑性の高いものだとすれば、どうして飛行機で移動すると時差ぼけに悩まされたり、仕事が夜勤にシフトすると眠りのリズムが崩れてしまうのだろうか。
そういう意味でも、人間がもつ本来の睡眠覚醒リズムを明らかにするためには、外界の刺激から遮断された環境に被験者を置いて、どのような周期で寝起きを繰り返すか調べるほかはない。時間を知る手がかりのない条件下に置かれた被験者は、いつ寝ていつ起きるかを自分で判断し、自分のリズムで生活する。実験期間中は目ざまし時計に起こされることもないし、仕事のスケジュールにしぱられることもない。つまり、明かりをつければ一日が始まり、明かりを消せば夜になる。まさに自分が「時の支配者」となって、自由に時間を組み立てるのである。

洞穴の中で暮らしてみると

「時刻を知る手がかり」を完全にシャットアウトしたとき、睡眠覚醒リズムはどのように変化するか?この実験を行なうために利用されたのは、地下深くの洞穴であった。洞穴の中にはまったく光が届かず、明暗の変化はない。温度や温度の変化もなく、私たちをたえずとりまく無数の刺激からも自由になることができる。実際の実験にあたっては、被験者の起床時刻と就寝時刻が毎日記録され、同時に体温・血圧・心拍数が測定される。実験期間は数週間から数カ月にもおよぶが、その間、被験者にはまったく時間の手がかりを与えないように配慮する。
外界から隔離された環境で生活すれば、睡眠覚醒リズムも当然変化するだろうという予想は実験当初からあった。しかし、実際に得られた結果は予想を超える、驚くべきものであった。基本的に、およそ一日のあいだに睡眠と覚醒が一度ずつ現れるという点で変化はなかったのだが、その睡眠覚醒リズムをくわしく見ると、どんな被験者でも、かならず24時間を超えるサイクルで寝起きを繰り返していたのである。その周期には個人差があり、25時間周期を示した被験者もあれば、中には27時間や28時間、あるいはそれ以上のサイクルで生活した被験者もいた。
地球上の一日は、基本的に24時間である。したがって、27時間サイクルで生活していた被験者は、就寝時刻が毎日3時間ずつ、先へ先へとずれていったことになる。つまり、実験開始日は夜の12時にベツドに入っていたとしても、翌日の就寝時刻は実際には午前3時だったのであり、3日目は午前6時、4日目は午前9時に寝ていたことになる。3時間ずつずれていくのだから、このサイクルを8回繰り返した後、就寝時刻はふたたび夜ので一時に戻るわけである。この実験結果は、乳児が自由に寝起きしたときに観察される、睡眠覚醒パターンの「ずれ」の原理と変わらない。
この睡眠覚醒リズム、すなわち外界から隔離されたときに現れる睡眠覚醒のリズムを「サーカディアン・リズム(概日リズム)circadian rhythm」と呼ぶ(circaはラテン語で「およそ」という意味であり、-dianのもととなるdiesは「日」を意味する)。つまり、およそ一日のサイクルで繰り返されるリズムをサーカディアン・リズムと称する。
外界から隔離された環境で生活したとき、就寝時刻が毎日先へ先へとずれていく。これは、ごく一部の人間にのみ見られる例外的な現象なのだろうか、それとも普遍的な現象なのだろうか?研究者はまずこの点について疑問をいだいた。だいたい、実験参加者は外界とまったくつながりのない孤独な場所に閉じこめられ、何週間あるいは何カ月という時間を過ごさねばならない。そんな実験にみずからすすんで協力するような人間は、いったい「普通」の人といえるのだろうか。実際、実験開始当初は被験者の数も少なかったし、みずから被験者として立候補するような人は、すでに同じ実験を繰り返し体験したことのある人間だったりしたのである。
初期の隔離実験で有名なのは、フランスの科学者ミシェル・シフルの実験である。洞穴の調査研究にたずさわっていた彼は、アメリカ・テキサス州のミッドナイト・ケーヴと呼ばれる洞穴に潜り、地下およそ30メートルの場所でみずから被験者となった。睡眠の経過を記録するために、彼の体の各部位には電極が取りつけられた。実験は1962年2月一4日に始まり、シフルは洞穴の中で連続100日間を過ごした。洞穴に潜った彼の睡眠覚醒リズムは26時間周期を示したが、そのサイクルに「ゆれ」がないわけではなかった。
つまり、ときには30時間とか32時間という長いサイクルが観察されることもあったのである。シフルは洞穴内で過ごした自分の体験をまとめ、「時を越えて』という著作を残している。
近年、隔離実験に参加する人間の数が増えるにしたがい、より一般的な結論を導くことが可能になった。すなわち、隔離実験で睡眠覚醒リズムが24時間よりも長くなるのは、けっして例外的な現象などではなく、一般的事実だと認められるようになったのである。この現象は、睡眠覚醒リズムを支配している体内時計の基本的特性と考えられている。1970年以降、隔離実験に参加した被験者の数は、数百人とまではいかないが、かなりの数にのぼる。しかし、ほとんどすべての被験者が、実験が始まるやいなや、24時間を超える長い睡眠覚醒リズムヘとシフトしたのである。
こうした隔離実験は世界各地で行なわれてきたが、中でもドイツのエルリン=アンデックスに設立された睡眠研究所は数多くの隔離実験記録を残している。この研究所は、ドイツ人生理学者ユルゲン・アショッフ
によって設立され、1980年代末に閉鎖された。その間、ビール醸造でも有名なこのドイツの美しい小都市は睡眠研究のメッカとして名を馳せ、世界各地の学者が睡眠研究のためにここを訪れたのである。
アショッフの目的は、ここで「体内時計」の研究を進めることであった。ただし、アショッフ自身も当初より体内時計の研究をこころざしていたわけではなく、学生の頃、彼は人間における耐寒性の研究実験に取り組んでいた。ところがアショッフは、耐寒性に関する実験を長期間続けているうち、被験者の体温変化に興味をもつようになった。つまり、人間の体温はつねに一定の値を示すわけではなく、一日の時間帯によって変化を見せる。しかも、その変化パターンは実験条件に左右されることはない。アショッフはこのことに気づき、身近な生理学関連の文献をていねいにチェックした。ところが、納得できるような研究を探し出すことはできず、体温の周期的な変動について、ごく断片的な報告が目に止まったにすぎなかった。ただし、断片的とはいえ、そこから体温の変動に関して、2つの解釈が対立していることが明らかになった。すなわち、体温変化の原因を、人間の体内のメカニズムに求める研究者と、人間をとりまく外的要因に求める研究者に分かれていたのである。
さらにアショッフは体内時計に間する文献を可能なかぎり入手し、研究のアプローチをかためた。すなわち、人間の体内には外的要因に左右されない一種の「時計」が存在するのであれば、それを確認するには、温度変化や明暗の変化などの環境変化がない、固定された環境下で実験を行なうしかない、と考えたのである。固定不変の環境下で、体内時計の周期活動そのものがさまたげられないとすれば、その体内時計は環境から独立して働いていると考えてよい。つまり、ふだん24時間単位で変動を繰り返す現象が、実験環境下で24時間をはずれたサイクルヘずれこむとしても、現象の周期性が持続するのであれば、体内時計の活動そのものは環境から独立していると考えられる。アショッフはこの仮説にもとづき、動物を材料として実験を行なった。つまり、明暗の周期がない環境で動物を飼育し、その「活動=休息リズム」を観察したのであ
る。
アショッフらが人間を対象に実験を開始したのは1962年のことだ。彼らは地下に専用の実験室を設置し、被験者を募って隔離実験を繰り返した。被験者の数は最終的に200人を超えた。地下実験室は小さな部屋に分かれているのだが、外界から隔離されたまま長期間生活ができるように各種の設備がととのえられていた。中には、地磁気の影響を受けないような実験室も準備された。各実験室は、複数の人間が共同生活を営めるようなかたちになっており、各被験者どうしの相互干渉が、睡眠覚醒リズムにどのような影
何を与えるかということまで観察できるようになっていた。
実験に参加した232人のうち、途中でリタイアしたのはほんの7人にすぎない。しかも、孤独な環境に耐えられないという理由で実験の中止を申し出た被験者の数は、実際には3人だけであった。これ以外の被験者の中には、実験が終了した後も、また参加したいと希望する者が多かった。つまり、アショッフらの隔離実験に参加した人間は、心身ともに正常な状態を保つことができたといってよい。
かつて私はフロリダ大学の博士課程に在学し、そこで睡眠研究に取り組んだ。当時、アメリカでも隔離睡眠実験が実施され始め、私もその実験の一つに加わることとなった。実際、私がバーニー・ウェプ教授の研究室に研究助手として所属することになった頃、教授は睡眠リズムをテーマとして隔離実験に取り組んでいたのである。ただし、フロリダ大学の実験手法は従来のアプローチとは異なっていた。従来の手法、すなわち、床下に設置したセンサーで被験者の行動を記録したり、睡眠記録を日誌のかたちで書きとめたりするのではなく、実験期間中、脳波・眼球運動・筋緊張などのデータを連続して記録するというものであった。また、フロリ
ダ州には隔離実験ができそうな自然洞穴はほとんどないので、特別に実験室を設置した。つまり、完全な防音室を準備し、外界から完全に隔離した環境をつくって、被験者に生活してもらったのである。実験室内にはキッチンや化学処理式のトイレ、洗面台などが備えつけられた。部屋の外では実験スタッフが計測器などをチェックしているわけだが、被験者からスタッフに連絡を取るには、紙に書いたメモを室外へ送り出すという手続きをとる。食事は被験者が自分で注文する。朝食であろうと夕食であろうと、自分の体で判断して注文するのである。そのために、大学近くのレストランを「24時間態勢」でスタンバイさせ、いつでも食事を準備することができるようにした。
しかし、問題は参加希望者の集まりぐあいである。当初、私はこの点についてかなり懐疑的であった。ほ
んの14平方メートルしかない独房のような部屋で「短くても1ヶ月を過ごす」などという条件を受け入れてくれるような人間がいるのだろうか? 不安に思いながら大学の広報紙に実験の詳細を掲載したところ、驚くべきことに、実験参加希望の連絡が殺到し、研究室の電話は鳴りやむことがなかった。私たちは被験者の数を「12人」に設定して準備を進めていたのだが、参加希望者の数は数十人におよんだ。研究室の外には学生が列を成し、ぜひ実験に参加したいと直接ウェプ教授にかけあう者もいた。私たちは書類審査や面接を行ない、応募者全員をチェックしたが、彼らはどこから見ても普通の学生で、けっして風変わりな趣味の持ち主というわけではなかった。実験を開始してみると、予想どおり、1晩か2晩のうちに、どの被験者の睡眠覚醒リズムも24時間より長い周期へとシフトすることが明らかとなった。
実験を通じて確認すべき問題はほかにもあった。睡眠覚醒リズムが長い周期へと変化するにしても、その原因はもしかすると代謝エネルギーの変化にあるのではないか、と考えられたからである。すなわち、実験室内では激しい運動をする機会がないので、被験者のエネルギー消費量が大幅に減少し、その結果、睡眠を支配する体内時計のサイクルに変動が生じたのではないか、という点を確認しなければならなかった。そこで、半数の被験者には実験室内に設置したエクササイクル〔ペダル式の屋内運動器具〕で毎日運動してもらい、一日の運動量がこれまでのふだんの生活と同じレヴェルになるように設定した。ところが、実験結果をまとめてみると、毎日運動を続けたグループとその他のグループのあいだで、生活のリズムにさして違いはなかった。すなわち、いずれのグループにおいても、睡眠覚醒リズムは24時間よりも長くなり、その「ずれ」の程度に差はなかった。要するに、エネルギー消費量の変化が体内時計に影響するという仮説は否定された。
この実験を通じて私が注目したのは、隔離実験中の被験者の「時間感覚」の問題である。すなわち、時刻を知る手がかりのない場所で生活したとき、被験者はかならず実際に経過した時間より短い時間しか経っていないと錯覚する。たとえば、極端な場合、1ヵ月の実験期間を3週間と勘違いすることさえある。また、隔離条件下で被験者が示す睡眠覚醒リズムが24時間からずれればずれるほど、実際の時間経過と被験者の感じる時間経過のあいだの差は激しくなる。要するに、被験者の時間感覚は隔離実験によって大幅に変化してしまうのである。この現象は、当時の研究者にとっては不可解な現象であった。
研究助手としての私の役割は、被験者の時間感覚をさまざまな条件下で調べることであった。そこで、私たちは被験者に対して数時間おきに曜日と時刻をたずねることにした。被験者は、彼らなりの判断を紙に書いて私たちに提出する。また、彼らは自分で起床時刻・就寝時刻を判断し、みずから点灯と消灯を行なうわけだが、その時刻についても記録を残してもらった。さらに、「時間感覚に関するテスト」も毎日行なった。つまり、私たちがスタートといった時点からストップというまでの時間幅(数分以内)について、その経過時間を推定してもらったのである。ただし、毎日定刻に被験者に接していると、彼らに時刻を知る手がかりを与える可能性もあるので、各テストを行なう時刻はランダムに設定されるよう工夫した。 実験の結果、被験者は自分の睡眠覚醒リズムが24時間周期からずれてしまっていることに、まったく気づいていないことが明らかになった。たとえば、被験者が部屋の明かりを消して眠りにつくとき、彼らの判断は「夜の12時頃」である。つまり、これまでの生活にもとづき、自分の就寝時刻を推定している。ところが、実際には早朝だったり、すでに昼をすぎていたりする。これと同様に、被験者は、自分が目ざめる時刻を基準にして、その時刻を「朝の7時頃」と判断する。本当は昼だったり夜だったりして実際の時刻は一定しないのだが、被験者にとっては、これまでの生活習慣が時刻を知る手がかりとなる。だが、先に述べたような「時間感覚テスト」では、実験開始後も彼らの「時間感覚」そのものに変化は見られなかった。
結局、隔離実験中の被験者の時間感覚が、実際の時刻からますますかけ離れていくのは、被験者が自分の睡眠覚醒リズムにもとづいて時刻を判断してしまうためである。つまり、主観的な時間と客観的な時間の「ずれ」が蓄積されるために、誤差が広がっていくのだ。たとえば、朝の6時に眠りにつこうとする被験者は、その時刻を夜のこ一時と判断する。そのため、実際の時刻と推定時刻のあいだに6時間の差があるわけだが、実験を続けるにつれ、この差はどんどん蓄積されていくことになる。また、睡眠覚醒リズムが長い方向へ伸びれば伸びるほど、その「ずれ」の度合いも激しくなる。たとえば、27〜28時間のサイクルで睡眠と覚醒を繰り返す被験者がいたとすると、一ヵ月の隔離実験を行なえば、時間感覚は数日分ずれてしまうことになる。
同様の隔離実験は、その後も数多くの研究者によって行なわれているが、今のところ、睡眠覚醒リズムを支配しているのは神経システムだとされている。つまり、「睡眠と覚醒の交替」という周期的な反復活動そのものは生得的なものであり、環境によって影響を受けることはないと考えられている〔ただし、そのサイクルの長さそのものは、環境の影響を受ける〕。
このように、体内時計が告げる時刻と、太陽の位置が告げる時刻のあいだには歴然とした「ずれ」が存在する。したがって、この2つの時計を同期させるためには、何らかのメカニズムが必要になる。

遅い時計と早い時計

私たちをとりまく種々の環境は、独自のリズムで変動している。同時に、私たちの体内にある時計も、独自のリズムをもっている。この2つのリズムをうまく同期させるためには、何らかのメカニズムが不可欠だ。
しかもそのメカニズムは硬直したものではなく、事態の変化に柔軟に対応できるものでなければならない。たとえば、日常的に夜動業務につく人の場合、夜働いて昼眠るという、普通人とは逆転した生活を続けなければならない。飛行機に乗って大陸間を移動する人々も、時差のせいで昼夜逆転したような生活を送ることになる。
「体内時計」と「太陽時計」のあいだには毎日「ずれ」が生じるので、その「ずれ」を調整するためのメカニズムが正常に機能することは、日常生活が無理なく営まれるためには重要なポイントである。そのメカニズムがこわれてしまうと、睡眠覚醒リズムに異常が生じ、重大な障害を引き起こす。たとえば、ごく普通の環境で生活しているというのに、深い洞穴の中で隔離実験を行なったときのような、24時間よりも長いサイクルの睡眠覚醒リズムが現れたりする疾患が存在する。こうした睡眠障害が日常生活に与える影響はけっして小さくない。次の驚くべき症例を見てほしい。
1981年、テクニオン大学の学生部長が、一人の学生のことで私たちの睡眠研究所に相談をもちかけてきた。この学生は放校処分となる寸前だったのだが、学校側がそこまで大胆な決断を迫られたというのも、この学生が「朝予定どおりの時間に起きる能力に欠け、ほとんどつねに授業を欠席し、試験を受けることもできなかった」からだという。私はこの学生に会って、直接話を聞いた。面談の結果、問題はたしかに朝起きられないことにあるのだが、彼は自分の睡眠パターンが極端に乱れてしまう点にも苦しんでいた。 彼の説明によると、たしかに普通の人と同じく、夜ベツドに入って、朝普通に目ざめ、授業に間に合う日もあるという。だが、ときには一晩中一睡もできないことがあるらしい。そうなると翌日は、授業中に目を開けていることができない。そして一度眠り始めると簡単には目ざめず、教室の机で熟睡する。次の授業が
始まっても気づかないので、いったい自分が何時間眠っていたのかさえ定かではない。また、この学生にとって、自分の睡眠パターンに規則性がないという点も大きな悩みであった。たとえば、昼間居眠りをしてしまうとなかなか目が覚めず、ときには居眠りどころか、えんえんと何時間もそのまま眠ってしまうこともあるという。
私たちはこの学生の眠りを実験室で調べてみたが、睡眠段階やその時間的推移など、眠りの質自体にはとくに異常が認められなかった。そこで今度は、自分で睡眠覚醒リズムを毎日記録するよう、彼に指導した。
その結果、10日間の記録を見ただけで、問題が明らかになった。つまり、この学生の睡眠覚醒リズムは、隔離実験で観察されるリズムと似たようなパターンを示していたのである。
つまり、彼の就寝時刻と起床時刻は、毎日3〜4時間ずつ先へ先へとずれこんでいた。もちろん隔離実験ほど日々の「ずれ」が規則的に生じていたわけではないが、グラフ化すれば、「斜めに走る帯」を見てとるのはむずかしいことではないはずだ。この睡眠覚醒リズムが原因となって、彼の苦しんでいる症状を生み出していたのだ。すなわち、体内時計が、「朝目ざめ、夜眠る」というリズムに同期しているうちは、彼も通常の生活を送ることができるのだが、数日経って、ひとたぴ睡眠覚醒リズムが昼夜で逆転し、環境と体内時計のあいだに大きなずれが生じると、もう彼は授業中に起きていることができなくなり、教室で熟睡してしまうことになる。この学生の睡眠障害に対処する手段として、彼には特別の受講スケジュールを許可し、授業も試験もその特殊な「体内時計」にもとづいて受けさせるのがよい?これが、私たちが学生部長に伝えた「処方」である。その結果、この学生はテクニオン大学での履修課程を何とか修了することができた。 学生には自分で睡眠覚醒リズムを毎日記録させたわけだが、結局、この記録は4年間の長きにわたって続いた。私たちは彼のつけた記録を追跡・分析し、その結果、そこに現れる体内時計のランダムな乱れに目を見張った。たとえば、彼の睡眠覚醒リズムは、26時間周期を示すこともあれば、何と29時間周期にジャンプすることもあった。いいかえれぱ、就寝時刻が毎日2時間ずつ先送りになる時期もあれば、ときには1日に5時間もずれこむ時期までもが観察されたのである。睡眠リズムが頻繁に変動するせいで、彼は毎日一定量の睡眠を確保することもできず、日中のスケジュールを予定どおりこなすことさえ困難であった。
4年間蓄積した睡眠記録は、一瞥するとまったく無秩序なデータに見える。しかし、そこには本当に何も規則性は存在しないのか?私たちはこの点を確認するために、統計学的な分析を行なうことにした。コンピューターによって学生の睡眠時刻を詳細に解析すれば、規則性の有無がはっきりするはずだ。私たちは当初、彼の体内時計のランダムな乱れを見て、そこに何か秩序を見いだすことができるとは考えていなかった。
ところがデータ解析の結果、驚くべきことに「カオス」の中から明確な秩序が浮かび上がってきたのである。
すなわち、この学生は、「タ方の4時から6時」と「朝の4時から6時」?これらニつの時間帯に眠りにつく傾向があったのである。逆に、午後10時や11時といった、ごく普通の時間帯に眠りについた日は、ほんの4例しか見いだすことができなかった。
ところで、当時、私たちは居眠り運転による自動車事故多発時間帯調査にも取り組んでいた。調査の結果、ドライヴァーの眠気が高まる時間帯は、右に紹介した学生が眠りにつく時間帯にほぼ一致することが明らかとなった。
イスラエルで1年間に発生する大きな自動車事故の数は一万件を超える。その中で、居眠り運転による事故はほんの0・6〜0・8パーセントにすぎない。しかし、一つ一つの事故の規模に注目すると、居眠り運転が引き起こす被害はかなり大きい。具体的には、居眠り運転が原因とされる自動車事故は、居眠り以外の原因によって引き起こされた自動車事故にくらべると、死傷者の数や事故の被害が3倍もの規模に運するのである。
一日のうち、居眠り運転による事故率が多発する「危険時間帯」が存在するのではないか。この仮説を検証するために、私たちは警察のコンピューターに蓄積されているデータを利用した。そしてデータ解析の結果、やはり時間帯によって事故率に差があることがわかった。「午前3時から6時」と「午後3時から6時」
このニつの時間帯に居眠り運転による事故が集中していたのである。まさしく、先ほど症例を紹介した学生とほぼ重なる結果であるといえよう。
もちろん、早朝の時間帯に居眠り運転が増え、事故率が高まるというのは驚くべきことではない。早朝に眠気に襲われるのは当然であり、運転に危険がともなうことは誰しも経験から承知しているはずだ。しかし、日没後の夜の時間帯よりも、午後3時から6時頃の方が居眠りをしやすいという事実は意外な結果である。
ということは、この時間帯に入ると、睡眠と覚醒に関する体内メカニズムに何か変化が生じ、それが引き金となって眠気が一気に高まるのではないだろうか。また、時間帯によって眠気の強さが変化するという現象は、体の疲労や睡眠不足による影響とはまた別に、体内時計にあらかじめ組み込まれたタイム・スケジュールなのではないか?私たちは、このように予想した。昼下がりに少し眠りをとる習慣(シエスタ)が世界各地で見られるが、この習慣はまさに、私たちの仮説を裏づける一つの傍証ともいえるだろう。

「眠りの扉」と「睡眠禁止ゾーン」

眠気の強さは一日の時間帯によって周期的に変化する。では、この現象を証明するためには、どのような実験を行なえばよいだろうか。一つのアプローチとして、被験者の「睡眠潜時」を24時間のあいだ、何度もチェックする方法が考えられる。睡眠潜時とは「ベッドに入ってから寝入るまでの時間」のことである。つまり、一日に何度もベッドに入ってもらい、寝入るまでにどれくらいの時間を要するかによって、眠気の強さを判断しようというのである。
この実験を初めて行なったのは、アメリカのブラウン大学教授、メアリー・カースケイドンである。カースケイドン教授は、クライトマンの後継者であるデメントのもとで学び、睡眠研究者としてはいわば第3世代にふくまれる。彼女は、暗い防音室の中で被験者の睡眠潜時を測定した。被験者には、午前10時から午後8時までのあいだ、2時間おきにベッドに入ってもらい、入眠までの時間を測ったのである。この手法は、専門家の間では「MSLT(睡眠潜時反復検査 multiple sleep latency test)」として知られている。
テストの結果、前の夜の睡眠量によって、睡眠潜時が変化することが明らかとなった。たとえば、7時間の睡眠を与えた後のテストでは、被験者が寝入るまでに要する時間は、平均して15〜17分である。時間
帯によっては、まったく寝つくことのできない被験者もいた。これに対し、前の夜に一睡もさせずにテストを行なうと、睡眠潜時は短縮し、平均5〜7分で寝入ってしまう。睡眠障害に苦しんでいる人の中には、たえず強い眠気に襲われるという症状を示す人たちがいるが、健康な人でも徹夜後に睡眠潜時テストを行なうと、それに似た結果を示す。
カースケイドンの報告によると、被験者が寝入るまでの時間は、午後に入ると短くなるが、日没をすぎるとむしろ寝つきが悪くなるという。しかし、2時間おきのテストでは、まだ測定のしかたとしては粗すぎる。一日を通じて眠気がどのように変化するかーーその変動のしかたを正確に測定するために、私たちテクニオン睡眠研究所のグループはあらたな検査法を開発した。その結果、眠気の変化について、かなり正確なデータを得ることができた。
私たちの検査法は、基本的にまず被験者に徹夜をしてもらうことから始まる。夕刻になってから被験者をスタッフの厳重な監督下におき、一睡もできないように管理する。翌朝7時、被験者をベッドのある実験室に連れて行き、「7分以内」に眠りにつくよう言い渡す。このとき、脳波・眼球運動・筋緊張も測定する。7分後、実際に眠れたか眠れなかったかにかかわらず、被験者は部屋の外へ出るよううながされる。さらに13分後の7時20分、被験者はふたたびベッドに入り、7分間の睡眠が許される?こうして同じ20分単位のプロセスがえんえんと翌朝7時まで続くのである。つまり、24時間のあいだに、被験者がベッドに入るのは72回。その72回与えられた7分間のベッドタイムそれぞれにおいて、どの程度の早さで眠りにつくかを測定すれば、一日の眠気の変動を知ることができるというわけだ。
この「7/13式睡眠実験」について私たちは積極的に宣伝をしたわけではないのだが、私たちの研究室であらたな実験が始まるという噂は、野火のようにキャンパス内に広がった。眠っていれば報酬がもらえると間いて、参加希望者は後を絶たず、研究室は申し込みの学生であふれかえったのである! 中にはみずからを「睡眠モルモット」と称し、在学中、この実験に繰り返し参加した学生もいた。
実験第一夜、被験者は一睡も許されない。したがって、たとえ翌日の睡眠テストが一回につき7分間の短さだとしても、ベッドに入ればまたたく間に眠りに落ちてしまうのではないか、と考えたくなる。しかし、実験の結果はそれほど単純なものではなかった。つまり、入眠までに要する時間は、一日の時間帯によって大きな変化を見せたのである。具体的には、昼下がりから夕方、夕方から午後10時頃、そして午後10時以降、この3つの時間帯において、非常に特徴的な現象が観察されたのである。
深夜と早朝は寝つきがよいという結果は、実験当初より予想されていたものであった。実際、その時間帯になると、割り当てられた7分間のベッドタイム終了後、被験者をベッドから起こすのは容易ではない。何とか目ざめさせたとしても、続く13分間、被験者が寝てしまわないようにするのは、さらに困難な作業である。
また、すでに述べたように、昼下がりから夕方にかけては眠気が増大する時間帯である。これは、私たちが調査したとおり、居眠り運転による自動車事故が増える時間帯とも一致している。したがって、私たちの実験において、この時間帯に被験者の寝つきがよくなったのは、けっして驚くべき現象ではない。しかも、この時間帯に寝つきがよくなるという現象は、ふだん昼寝をする習慣の有無にかかわらず、誰にでも観察されることであった。
特記すべきは、夕方から午後10時頃の時間帯である。この時間帯に入ると、被験者の疲労の度合いや睡眠不足の程度にかかわらず、寝つきが悪くなってしまう。中には、午後8時から10時のあいだはまったく眠ることのできない被験者も見られた。ところが、午後10時をすぎると、被験者の寝つきは急によくなり、
その状態は早朝まで続く。それはあたかも、直前まで閉ざされていた「眠りの扉」が、突然大きく開かれたかのような印象を与える。「眠りの扉」とは比喩的な表現ではあるが、実際、私たちはこの急激な眠気の変化をこの言葉で呼ぴならわしている。
一方、タ方をすぎて、被験者の寝つきが悪くなる時間帯?つまり、「眠りの扉」が開く前の時間帯のことを、私たちは「睡眠禁止ゾーン」と呼んでいる。前に紹介した睡眠障害の学生も、この時間帯に眠ってしまうことはあまりなかった。また、居眠り運転による事故も、夕方をすぎ、夜に入ったあたりでいちばん事故発生率が低くなっている。まさにこの時間帯は、眠気がもっとも低下するタイムゾーンと考えてよいだろう。
ところで、突然「眠りの扉」が開くとき、つまり夜のある時間帯に眠気が急に強くなるとき、脳内の生理的活動にも同時に変化が生じているのだろうか? 最近、ハーヴァード大学の研究グループによって、次のような研究結果が発表されている。科学雑誌「サイエンス」の1996年1月12日号によると、クリフォード・セイパー率いる研究グループは、ラットを材料に実験を繰り返し、睡眠状態と覚醒状態を切り替える「メイン・スイッチ」をつきとめたという。この「スイッチ」は、実際には視床下部前部にある神経細胞の小集合体に存在するのだが、このスイッチがオンになると、ラットを覚醒させている脳の機能がシャットダウンし、逆にスイッチがオフになると、関連する脳が目ざめると考えられている(ただし、このメカニズムですべてが説明できるわけではない。たとえば、学会講演でスライド発表が始まり、会場が暗くなると急に眠気を覚えることがあるが、この現象は、セイパーらの発見とは無関係と考えられる)。
セイパーらによれば、視床下部における「メイン・スイッチ」の状態には、オンかオフの2つの状態しかなく、その中間の状態というものは存在しない。したがって、私たちが実験によって明らかにした「眠りの扉」も、この視床下部のスイッチのオン・オフによって説明することができるかもしれない。つまり、脳内に睡眠を支配する体内時計が存在し、その時計によって、睡眠と覚醒を切り替えるスイッチが作動する。そのスイッチがオンになれば、外界刺激に対する体の反応性が低くなり、覚醒状態から睡眠状態へと素早くスムーズに移行することが可能になるのではないだろうか。

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