睡眠薬通販・販売|エスゾピクロン・バスパー・眠剤の個人輸入

睡眠薬の種類・強さ・副作用・分類とその特徴・効果・口コミ

睡眠

睡眠に関わる病気

投稿日:

目次

睡眠に関わる病気

東へ向かうと時差ぼけの症状は
これまでに眠りが大切と申し上げ、生体時計についても紹介してきました。ここでようや
く、眠りのタイミングについて考える条件が整ったといえます。私がこの記事でお伝えし
たいこととして紹介した③「睡眠時間さえ取ればいつ寝てもいいということは必ずしもみな
には当てはまりませんよ」についてです。読者のみなさんはどうお考えでしょうか? この
章では、時差ぼけ、朝型・夜型についてお話ししながら、眠りのタイミングについて考えま
す。
睡眠薬の通販サイトは、こちら→お薬館
まずは時差ぼけについてです。時差ぼけとは、長距離を短時間で移動する技術の導入がも
たらした心身の不調状態で、生体時計が外界の生活時刻とズレているために生じます。な
お、経度が15度違うごとに1時間の時差となりますが、時差ぼけは、少なくとも2時間以上
時差のある地域をジェット機で急激に移動した際に起きやすくなります。主な症状は睡眠?覚醒に関するリズムの障害で、眠りたい時に眠れず、眠ってはいけない時に眠くなります。
その他、身体的な能力が低下し、だるさや疲れ、集中困難、思考力低下、胃腸症状(食欲不
振、便秘等)も出現します。
障害の程度には個人差も大きいのですが、飛行の方向による影響が大きく、通常、東へ向かうほうが西へ向かうよりも症状が強く出現します。これは、東方飛行では1日が短くな
り、リズムを同調させるには、周期が24時間よりも長い生体時計を通常の24時間よりもさら
に前進させ、短くしなければ現地時間に同調できないからです。周期が24時間よりも長い生
体時計にとって周期を伸ばすことは容易で、夜ふかしと朝寝坊は楽にできます。そこで、生
体時計の周期を長くさせて現地時間に同調させる西方飛行では、同調が比較的容易にできる
というわけです。
時差ぼけの要素としては三つの要素に分ける考え方があります。外的脱同調、内的脱同
調、そして睡眠不足です。脱同調とは聞きなれない言葉で恐縮ですが、基本的には現実の時
刻と生体時計とのズレのことです。外的脱同調とは移動直後の現地時間と生体時計との間に
生じるズレです。このズレを解消するのに重要な因子を同調因子といいますが、光、食事、
社会的接触の三つが重要な因子と考えられています。すなわち、到着地の光、食事、社会的
接触を経験することで、現実の時刻と生体時計とのズレは次第に解消しますが、完全な同調
には数日を要します。
これに対し内的脱同調とは、概日リズムを呈するさまざまな生理現象が、外的脱同調を修
正する過程で、個別に修正作業を行ってしまうことで、本来ある概日リズムを呈するさまざ
まな生理現象の相互の関係が、本来あるべき状態とは異なってしまうために生じます。ややこしいいい方になってしまい申し訳ありませんでしたが、概日リズムを呈するさまざまな生
理現象とは、すでに述べたように、自律神経(昼間に活動が高まる交感神経系と夜間に活動
が高まる副交感神経系)、睡眠覚醒(昼間は起きていて、夜になったら寝る)、体温(朝が低
くて午後から夕方に高くなる)、各種ホルモン(寝入って最初の深い眠りの時に分泌が高ま
る成長ホルモン、朝、目が覚めてから14〜16時間して夜暗くなると分泌されるメラトニン、
朝たっぷり出て午後から夕方には分泌が低下するコルチコステロイド)等のことです。
そして今度は、その相互関係に着目してください。たとえば体温と睡眠覚醒との相互関係
を見ると、最低体温に達した後に目が覚めて、最高体温の後に寝る、といった関係があるこ
とがわかります。お子さんのいらっしゃる方は、赤ちゃんの手足がぽかぽかしてくると「眠
くなったなあ」と判断した経験がおありと思いますが、手足がぽかぽかしてくるということ
は、手足の血管が開いて熱の放散が始まったことを意味しているのです。つまり手足がぽか
ぽかしてくるというのは最高体温に達したあと、赤ちゃんが手足の血管を開いて熱を逃がし
始めた時期なわけで、寝るのに適した時間ということになります。
遮光の完璧なホールに閉じこめられるとフリーランする話はすでに紹介しました。フリー
ランしても、初めのうちしばらくは、睡眠覚醒も体温も同じ周期で動きますので、相互の関
係は保たれます。最低体温の後に目が覚めて、最高体温の後に寝る、という本来の関係は保たれます。ところが、フリーランをある程度長く続けていると、突然、睡眠覚醒と体温のリ
ズムがばらばらに動き始めるということがわかっています。こうなってしまうと、本来ある
べき相互関係は保たれなくなります。場合によっては、最低体温の後に寝なければいけなく
なったり、最高体温の後に起きなければいけなくなったりします。こうなると体調が良いと
はいえなくなるわけです。これが内的脱同調で、さまざまな概日リズムの相互関係が本来と
異なる状況に陥った状態、といえます。
まだわかりにくいので、説明を変えてみましょう。オーケストラを想像してみてくださ
い。オーケストラの指揮者が朝の光です。各パートが睡眠覚醒であり、体温でありホルモン
です。指揮者がきちんとしていれば、各パートはきちんと演奏するでしょう。
ところが、指揮者がいなくなるとします。はじめのうちこそしばらくは、横を見ながらそ
れぞれのパートは演奏を合わせるかもしれませんけれども、指揮者の不在が長く続くとばら
ばらになってしまう、これが内的脱同調という状態なのです。時差のある地域間を急激に移
動した際にも、内的脱同調が生じると考えられています。そして内的脱同調に基づく症状
は、現地に到着後数日してもっとも強くなります。
そして、同じような症状は、夜ふかし朝寝坊の生活で朝の光を浴び損ね、夜に光を浴びる
生活をしていても生じることが予想されます。外的脱同調や内的脱同調があると睡眠覚醒リズムは狂い、睡眠時間が減ります。夜間フライトによる睡眠不足が重なる場合もあるでしょう。いずれにせよ、これが時差ぼけの第3の要因、睡眠不足です。

時差ぼけには夜型が有利

時差ぼけ対策の基本はすでに述べましたが、現地の同調因子(光、食事、社会的接触)を
利用してなるべく早く再同調を行うことです。この場合大切なことは、最低体温直後に光を
浴びると、生体時計の周期は短くなり、最低体温の直前に光を浴びると、生体時計の周期は
長くなる、ということを知っておくことです。いうまでもなく、体温は出発地の明け方に最
低となります。つまり、「東方飛行では出発地の早朝の時間帯、西方飛行では出発地の深夜
の時間帯に意識的に光を浴びるようにすることで同調が容易になる」という理屈です。
同調因子としての食事についても触れておきましょう。食事も光、社会的接触とともに、
睡眠覚醒リズムを強力に制御します。ある時刻に食事をしたという記憶は残ります。本来夜
行性のネズミに、餌を夜間には与えず昼間にだけ与えるようにすると、夜行性のネズミであ
っても昼間に餌を探すようになります。つまり食事は、その個体がもともと持っている生活
習慣を一変させるほど強い影響力があるわけです。
その中枢は視床下部背内側核にあって、ある時刻に食事をしたという情報を約2日間持ち続けるのだそうです。これをすぐさま応用すると、時差ぼけ対策としては、出かける日の数
日前、少なくとも2日前から現地の食事時間に合わせて食事を取ることでも同調が容易にな
る可能性があるわけです。
なお時差ぼけに対しては、夜型の方の適応が、朝型の方よりも早いらしいことがわかって
います。時差ぼけには夜型が有利に働くというわけです。
では朝型・夜型とはいったい何なのでしょう。1999年発行の「臨床睡眠医学」(朝倉
書店)という教科書には、「日周変動のピークが早いものを朝型(morning type)、遅いも
のを夜型(evening type)と呼んでいる」と書いてありますが、明確な定義は書いてありま
せん。評価尺度としては何種類かの質問紙があります。ある質問紙の日本語版では、19項目
の質問に答え、得点を合計して判定します。
結果は、明らかな夜型、夜型、中間型、朝型、明らかな朝型、に5分類されます。典型的
な朝型の家系で、生体時計の周期が24時間よりも短いことが知られているみなさんを詳しく
調べたところ、その家系の方は、通常の人が持っているネガティプフィードバック機構に関
与する時計遺伝子産物を分解する物質がないために、できた時計遺伝子産物が分解されずに
余計にたまってしまい、時計遺伝子の転写抑制にドンドンと回り、概日リズムが短くなって
いる可能性が指摘されています。日本では最近夜型の人が増えているといわれています。社会のグローバル化が進み、情報
は24時間365日地球上を駆け巡ります。情報にすばやく対応するには昼夜の区別は都合が
悪いのでしょう。実際、主要メディアも24時間情報を流し続けます。むろん、医療、消防、
警察機能は24時間稼動しています。最近では、24時間営業のコンビニエンスストアがほぼ全
国、くまなく配置されています。

夜ふかしが学力低下を招く?

ところが最近、夜型の問題点がいろいろな形で指摘され始めているのです。
アメリカのピッツバーグ大学の研究によると、夜型の方のほうが朝型の方よりも生活リズムが不規則で、生活リズムの規則性が低い方ほど眠りに関する悩みが多いのだそうです。フランスの学生では夜型の度合いが高いほど衝動的であることが、また、アメリカでは夜ふか
し朝寝坊では学力が低下することが、中学生から大学生に関する調査で報告されています。
台湾では12、13年生で夜型の学生は朝型や中間型の学生よりも、行動上、あるいは感情面で
の問題点を多く抱え、自殺企図、薬物依存も多いことが、4〜8年生の男児で、夜型の度合
いと機嫌の悪さとの相関が高いことが報告されています。
さらにアメリカからは、8〜13歳児で、夜型が男児では反社会的行動、規則違反、注意に関する問題、行為障害と関連し、女児では攻撃性と関連することが報告されています。私も
4〜6歳児で睡眠習慣と行動との関係を調べ、就床時刻や起床時刻が遅く、かつ不規則であ
るほど、子どもの問題行動が多い、という結果を得ました。つまりヒトにとって、夜型や不
規則な生活は決して都合のよい生活習慣ではないようなのです。ただ夜型の方は時差ぼけへ
の適応には有利なようであることはすでに紹介した通りです。
ここで「慣れ」のことを紹介しておきます。78歳の男性が私の睡眠外来にいらっしやいま
した。早起きをしたい、という理由でした。お仕事柄60年間にわたって、起床午前‥‥‥一時、出
社午後6時、退社午前2時、就床午前4時、という生活をされているとのこと。大変お元気
で、服薬もありません。とくに現在の体調に問題はないけれども、最近早起きが身体にい
い、ということをよく耳にするので外来を受診されたそうです。高級クラブのオーナーであ
るというその方は、「やっぱり俺が、女の子の話は聞いてやらなきやだめなんだ」「そういう
話はいつも仕事が終わってから」そうおっしやっていました。たいそうお元気です。私は、
「急に早起きを始めることはないと思います」「現在のままの生活習慣を続けられてはどうか
と思います」と申し上げました。
たしかにこの方、朝の光は浴びず、夜に光を浴びる生活です。生体時計はどのようになっ
ているのだろうか、脱同調といえるのだろうかなど、いろいろと興味が尽きないことは確かです。ただおそらくは、長年の生活習慣の「慣れ」によって、現在の生活習慣で心身の調子
はすこぶる良好、となっていらっしやるのだと思います。
先に腹時計の脳内機構が明らかにされたと紹介しましたが、長年の生活習慣がもたらした
「慣れ」にも、おそらくは脳内機構があるのではないかと感じています。「慣れ」を疎かにし
てはいけないと思います。ご自分の身体の声に耳を傾け、慣れの要素も考慮に入れて、ご自
身の裁量で最良の生活習慣を見つけていただきたいと思うわけです。もちろん生体時計は大
切なのですが、未知の「慣れ」の脳内機構にも敬意は表さなければいけないと思います。
2008年の日本睡眠学会で、東北大学の中尾光之博士が「体内時計を飼いならす方法」
という題名の研究を発表なさっていました。数学的なモデルでの研究で、まだまだ実用化ま
で間がありそうですが、この研究の題名にあるような考え方は大切だと思いました。前述し
た高級クラブのオーナーも、仕事を始められた当初はおそらくは体調が悪く、しばらく体調
を崩された経験もおありだったのではないかと想像します。それでも仕事への意欲が生体時
計をうまく飼いならし、「慣れ」て、現在に至っているのではないかと思います。
大人の方が自分の生活習慣を乱して体調を悪くすることに、私はとやかくいうつもりはあ
りません。この高級クラブのオーナーのように、必要に迫られて、あるいは大好きな仕事の
ために、生活習慣を夜型にせざるを得ない方もたくさんいらっしやることと思います。ただ、子どもたちは自分では生活リズムをうまくつくれない、ということだけは知っておいて
いただきたいのです。
夜型の親御さんへのお願いです。子どもたちを巻き込んで、子どもたちの生体時計を狂わ
せることはしないでください。「それでは子どもとコミュニケーションができなくなる」、そ
うおっしやる方もおいででしょう。そのような場合には、たとえば週末にまとめてコミュニ
ケーションを図るとか、多少無理しても朝にスキンシップをとってみるとか、いろいろと工
夫をしていただければと思います。

セロトニンとメラトニンの効用

さて、ここで眠るために大切なこと、睡眠衛生の基本をまとめましょう。睡眠衛生の基本
とは、質のよい眠りをとるための必要条件です。そしてこの条件はたいへん簡単です。朝は
早く起き、朝に光を浴び、しっかりと規則的に食事を摂って、昼間は身体を動かし、夜は光
を浴びないこと、これに尽きます。
眠りの基本がいきなり朝の話? と違和感を持たれるかもしれませんが、ヒトは寝て食べ
てはじめて活動できる動物です。寝るためにはしっかりと食べ、しっかりと活動することが
大切です。身体を動かして疲れたら、早く眠くなる、というご経験は多くの方がお持ちと思います。眠るための条件、すなわち睡眠衛生の基本は何も寝付く頃にばかりあるのではな
く、起きた時から始まっているのです。
具体的には、
①朝の光を浴びる
②昼間に光を浴びる
③しっかりと手を振って歩く
④規則的な食事をする
⑤夜には光を浴びない
となります。
大多数の方において、周期が24時間より若干長い生体時計は、朝の光を浴びることで周期
が短くなり、地球時間とのズレが解消されます。ところが朝の光とは逆に、夜の光は、生体
時計の周期を長くしてしまう。食事も生活リズムに大きく影響する同調因子でした。不規則
な食事では、生活リズムを規則的にすることが難しくなります。
つまり、夜に光を浴びて朝は光を浴びず、食事も不規則という夜ふかし朝寝坊の不規則生
活では、生体時計と地球時間との間にもともとあるズレが解消されずに、ドンドンと大きく
なってしまい、時差ぼけと同じ状態で、とても体調が良いとはいえなくなるのでした。時差ぼけと同じ状態では、眠りたいときに眠れず、眠ってはいけないときに眠くなる。そうなる
と、疲れてやる気も出なくなり、実際に活動量も低下します。夜になっても眠れず、また食
欲もなくなり、物を噛む機会も少なくなる。活動すること、つまり歩くことも億劫になりま
す。
噛むこと、手を振ってしっかりと歩くこと、それに深呼吸することは、心を穏やかにする
働きがあると考えられているセロトニンの働きを高めます。セロトニンという神経伝達物質
は、先に述べた脳幹部と呼ばれる生命活動の源ともいえる場所にある神経細胞でつくられま
す。脳幹部でつくられたセロトニンは、脳幹部にある神経細胞から脳全体に伸びた軸索によ
って脳全体に達ばれます。それが脳活動の微妙な調節をしていると考えられています。セロ
トニンの働きが低下すると気分が減入り、イライラしがちになるようです。そしてセロトニ
ンは朝の光を浴びることでも働きが高まることがわかっています。朝の光は生体時計の周期
を短くして地球時間に合わせるためだけではなく、セロトニンの働きを高めるためにも重要
です。
最近さまざまな動物実験で、セロトニンの量を増やしたり減らしたりすることができるよ
うになりました。セロトニンが減らされると、実験動物は攻撃性が増したり、社会性が無く
なって孤立化したりするということがわかっています。人でも低セロトニン症候群、こんな病名を使って、いわゆるキレる子に近い状態を説明しようとしている研究者もいます。
猿は集団で暮らしています。その猿の集団の1匹に、セロトニンを下げる薬を打ちます。
そうすると、セロトニンが下げられた猿は回りの仲間に対して非常に攻撃的になり、グルー
プの中での地位がどんどん下がるのだそうです。逆にその集団の中の1匹にセロトニンを高
める薬を打ちます。セロトニンが高くなった猿は、回りの仲間に対して毛繕いをするなどサービスが非常によくなり、地位が上がっていくのだそうです。ですから、動物が生きていく
ためには、セロトニンのレベルがある程度高くあることが有利に働くのかもしれません。
ではどうやったらセロトニンを高めることができるかといえば、これはリズミカルな筋肉
運動、歩行、咀噌、深呼吸、そして朝の光を浴びることです。なお、蛇足かもしれません
が、運動不足は肥満をもたらしますし、アルツハイマー病の発症の危険も高めるのです。
朝目が覚めてから14〜16時間して夜暗くなると分泌されるメラトニンというホルモンがあ
ります。このホルモンは脳の奥深くの松果体という場所でつくられます。眠気を誘います
が、同時に酸素の毒性から細胞を守るという働きもあります。この働きのおかげで、メラト
ニンには老化防止作用、抗がん作用があるとする研究者もいらっしやいます。一時、ミラク
ルホルモン、あるいは不老長寿の妙薬としてアメリカで話題になったこともありますが、そ
れはこの抗酸化作用がクローズアップされたためです。
このメラトニン、じつは昼間に光を浴びると夜になってたくさん分泌されることが、高齢
者を対象にした調査でわかっています。ところが逆に、夜でも明るいとメラトニンの分泌は
悪くなります。つまり、夜に光を浴びることは、生体時計と地球時間とのズレを大きくする
ばかりでなく、メラトニンの分泌を低下させるのです。
さらに2007年秋、日本の理化学研究所の研究グループが、夜中に光を当てると生体時
計の働きが停止してしまうという現象を発見したことはすでに紹介しました。つまり朝の光
と、夜の暗さとがヒトという動物にとっては重要なのです。ただし、光に対する感受性には
個人差が大きいので、何ルクスの光を朝は何分浴びたらいいのか、また、夜は何ルクスを何
分までなら浴びてもよいのか、ということを数字で示すことはできません。
ではどうするかというと、朝はなるべく強い光、すなわち自然光を浴びてください。そし
て夜はなるべく光は浴びないでください、ということになります。夜の光にはテレビなどの
ディスプレイからの光やコンビニの光が含まれることはいうまでもありません。
以上が睡眠衛生の基本ですが、眠気についても考えておきましょう。

昼寝で東大進学率が大幅アップ

大多数の人は午前・午後とも2〜6時の間には眠くなり、さらにいえばこの時間帯には、交通事故や産業事故の発生も多いことは前述しました。もし会議に充実した内容を求めるの
なら、午後は会議に適していません。逆に午前の10〜12時という時間帯は、ヒトが本来もっ
とも目が覚めていてしかるべき時間帯です。この時間帯にしっかりと目が覚めて活動できて
いれば、その方の眠りの量、質、生活リズムには大きな問題はないと考えていいのでは、と
も述べました。
そして午後2時に眠くなったらこれは居眠り、すなわち昼寝をするしかありません。昼寝
は文化的な影響も受け、シエスタと称して昼寝を容認している地域も数多くあります。また
短時間の昼寝はその後の学習効果、あるいは作業能率を高めます。そこで最近多くの企業で
もリフレッシュタイムと称して昼寝を推奨するようになってきています。
ただ、30分以上寝てはかえって調子が悪くなる場合もあるようです。また、あまり昼寝を
多く取りすぎて、夜になっても眠れない、などということになっても困りものです。せいぜ
い10〜15分のうたた寝がおすすめ。広島大学総合科学部教授の堀忠雄博士によるおすすめ
は、昼寝の前にお茶やコーヒーでカフェインを摂ることです。10〜15分してカフェインが効
いてきて、すっきりした目覚めが期待できます。眠りは個人差が大きな生理現象で、昼寝は
必要な方もいますが、必要でない方もいます。昼寝を認める場合には、「昼寝の時間」を設
けるのではなく、ぜひとも「昼寝をしてもよい時間」を設けるようにしてください。台湾は亜熱帯にあるため、中学にも昼寝の時間があると聞いたことがあります。そして最
近、日本の高校でも昼寝を取り入れるところが出てきています。ある県の公立高校では、そ
の高校の校長と、近くの大学で眠りについて研究している教官とが高校での同期生であった
ことから、眠りに間する定期的な講演会開催と昼寝の時間の導入を行いました。
毎年4月に大学の先生は眠りの大切さを説きます。他の教員からは猛反対にあったもの
の、校長先生は午後の授業前にID分の昼寝の時間を導入しました。その結果、3年後からそ
の高校の東京大学への進学率が飛躍的に上昇したそうです。
何が良かったのか。決め手は講演の中で紹介される体験談のようです。「はじめは斜に構
えて間いていた眠りの話も、繰り返し間くうちに、そうかも、と思い試しに実践したとこ
ろ、成績が上がった」という、実際の東大入学者の手記です。15分の昼寝が高校生の睡眠時
間を飛躍的に増加させたわけではないと思います。要するに、眠りの大切さに気づくことが
大切なのだと思います。みなに等しく配分されている24時間の使い方を、真剣に考えるよう
になった結果なのではないでしょうか。気づき、理解して初めて実践につながるわけです。

気持ちの良い眠りと目覚めの方法

「眠りの密度を濃くする」をうたい文句にしたビタミン剤が発売されました。その広告を詳しく見ると、この宣伝文句の根拠は、ビタミン剤投与によって、睡眠中の身体の動きが2割
減ったというものでした。私としては、このことからただちに眠りの密度が濃くなったと結
論することに躊躇した覚えがあります。さらにその薬は、「休息中でも集中的に栄養補給し
てくれるお薬ができました」「今日は4時間しか眠れない、疲れが抜けない、あなたの身体
に」と広告しています。それは少しいい過ぎではないかと感じます。
「短時間極上睡眠㊙︎メソッド」などという雑誌の広告も目にしました。少し冷静に考えてい
ただければわかることですが、残念ながら眠りを削って脳と身体を休めるなどという都合の
良い方法は基本的には存在しません。個人差もあり、個人の習慣もありましょうが、ヒトは
寝て食べてはじめて活動できる動物です。このようなちょっとしたひっかけに、どうかみな
さん惑わされないでください。それよりもご自身の身体の声に耳を傾け、その声に素直に従
ってはいかがでしょうか。
長野オリンピックのスピードスケート男子500メートルで金メダル、1000メートル
で銅メダルを獲得した清水宏保選手は、幼いころから喘息で悩んでいたそうです。しかし世
界的なアスリートとして活躍しておられます。2008年6月13日付の産経新聞ゆうゆう
Life欄で清水選手はおっしやっています。
「僕はぜんそくがあったから、アスリートに必要な、自分の体と対話する力を身につけることができたと思っているんです」
ご自身の厳しい体験からにじみ出た言葉は、重みや迫力が違います。ただ、自分の身体と
対話することは、何もアスリートにだけ必要なことではないと私は思います。生きていく上
での基本であると思います。しかし、現代社会では、自分の身体の声に耳を傾けることの大
切さを指摘される機会もないまま、その力を育むことも積極的にはなされず、次第にその能
力が失われつつあるのではないかと心配です。
ぜひとも機会あるごとに、ご自分の身体の声に耳を傾け、身体の声と対話をするよう心が
けていただきたいと思います。何も難しいことではありません。眠くなったら寝て、おいし
そうだなと感じるものを口にし、お腹がいっぱいになったら食べるのをやめることも、立派
に自分の身体の声に耳を傾け、身体と対話をしていることになると思います。
プレスローの7つの健康習慣も紹介しておきましょう。
アメリカ・カリフォルニア州で1965年に、成人6928人を対象に健康に関する調査
が開始されました。この調査結果に基づき、ベロツクとプレスローは1972年に、「喫煙
しない」「定期的に運動をする」「飲酒は中等度以下にする」「7〜8時間の睡眠をとる」「適
切な体重維持」「朝食を摂る」「間食をしない」という、7つの習慣すべてを遵守している30
歳以上の人々の健康状態は、この習慣をほとんど守っていない若い人々と同様であると報告しました。1973年にはベロックが、45歳で7つの健康習慣のうち6つ以上を守っている
と、守っている項目数が4つ未満の人よりも、寿命が7年長くなると報告しています。さら
に1980年には、プレスローとエンストロームが、7つの健康習慣をすべて守っている場
合の死亡率は、守っている項目数が4つ未満の場合と比べると、男性で28%、女性で43%に
すぎないと報告しました。
すなわち、7つの健康習慣のうち、実施している項目数が多いほど病気になりにくく、寿
命も長いというわけです。
ヒトは寝て食べてはじめて活動できる動物です。この記事では、寝さえすればすべてがうまく
いく、などと強調しているつもりはありません。何事もバランスが大切と思います。プレス
ローの7つの健康習慣からも、このバランスの大切さをわかっていただきたいと思います。
そして当然のことのように、この7つの健康習慣には眠りの項目が入っていることも知って
おいてください。

眠りを促す睡眠物質

睡眠衛生、などというまどろっこしいことではなく、飲んだらすぐ眠れる、そんなクスリ
やサプリメントはないのか? そんな読者の方の声が聞こえそうですので、睡眠物質についても紹介しましょう。
眠たくなった動物の身体の中には、自然な眠りをもたらす物質、つまり睡眠物質があり、
その働きで眠る、という考え方があります。このような睡眠物質に関する研究は、じつは20
世紀初頭にはすでに行われていました。「眠りは、脳の中でつくられ、脳脊髄液に分泌され
るホルモンのような物質により調節される」という仮説のもと、日本では1909年に石森
国臣博士によって、またフランスでは1913年にピエロンによってイヌを使っての実験が
行われています。眠らせないでおいたイヌの脳脊髄液を、別のイヌの脳内に投与すると、そ
の脳脊髄液を投与されたイヌが寝てしまう、という内容です。
脳脊髄液とは脳の中でつくられ、脳の周りを巡っている液体です。非常に乱暴ないい方で
すが、頭蓋骨や背骨の内側に張り巡らせてある膜の中に溜まっているのが脳脊髄液で、その
中に浮かんでいる豆腐のようなものが脳、ということになります。想像していただけたでし
ょうか。
しかし残念ながら、彼らが扱った睡眠物質の有効成分が何であるのかは分析されていませ
ん。本格的な睡眠物質についての研究は、スイスのグループが1977年に見つけたディーエスピーエスという物質に始まりますが、この物質は、脳の一部を刺激して眠らせたウサギ
の血液の中から発見されました。
わが国でも、井上昌次郎博士や早石修博士らが、睡眠物質についての研究をリードしてい
ます。早石博士らのグループが見つけたプロスタグランジンD2という物質は、アフリカ睡
眠病の患者さんで上昇していることもわかっています。アフリカ睡眠病とはツェツェバエに
刺されることで伝染する病気で、トリパノソーマ原虫が感染の原因です。
風邪を引いたりして熱が出ると眠くなる、という経験はほとんどの方にあるでしょう。細
菌やウイルスに感染すると、身体の中ではさまざまなサイトカインと呼ばれる物質がつくら
れ、その中には眠りを促す作用のあるものも知られています。風邪薬で眠くなるのは、風邪
薬の成分である抗ヒスタミン剤が、起きているために大切なヒスタミンの働きを抑えてしま
うためですが、感染によって、眠気をもたらすサイトカインの働きが高まることも確かで
す。
サイトカインは、身体を病気から守る免疫機能とも関連しています。眠りは生体防御反応
の一部といえる面もあるのです。眠りと免疫機構とは密接に関連しています。前のページでも触
れたように、睡眠時間が少ないと、インフルエンザワクチンを打っても、その後の抗体ので
き具合がよくない、という研究結果もあります。
眠りに有効な香りや、身近な野菜の成分についても紹介しておきます。ラベンダーやオレ
ンジの香りには眠りを促す効果があり、逆にジャスミンの香りには興奮作用がある、といわれています。ヨーロッパでは昔から「レタスを食べるとよく眠れる」といういい伝えがあ
り、ピーターラビット(イギリス・ロンドン出身の絵本作家、ヘレン・ビアトリクス・ポタ
ーの児童書に登場する、明るい青のコートを着用しているウサギ)の物語の中にも、レタス
を食べ過ぎて眠ってしまうエピソードがあります。実際、レタスの成分であるラクッコリコ
ピンやラクッシンが、眠りをもたらすのに有効な成分といわれています。また、セロリに含
まれるセリネンにも、眠りをもたらす作用があります。
最近は、いわゆる機能性食品として、眠りを促す成分を含むことをうたい文句にしている
商品をよく目にします。グリシン、テアニン、アラキドン酸、発酵乳など……。それぞれ
に、研究開発の過程では眠りを促す効果が、おそらくは確認されたのでしょう。ただ、これ
まで述べてきたように、じつに多くの物質が睡眠物質として挙げられており、それは40種類
以上ともいわれています。この記事の中でも、第1章でご紹介したグレリンに、眠りをもたらす
作用のあることは前述したとおりです。
しかし現在のところ、唯一絶対の強力な睡眠物質、というものはまだ発見されていませ
ん。これだけたくさんの睡眠物質が見つかるということは、唯一絶対の睡眠物質は存在しな
いということではないかと感じています。眠りとは、さまざまな要素が実に複雑に絡んでも
たらされる生理現象です。いろいろな製品を試されることは結構ですが、睡眠衛生の基本を無視していてもなおかつ
効果のある絶対的な睡眠物質、などというものはないわけで、過度な期待はお持ちにならな
いほうがいいと思います。

睡眠時無呼吸症候群とは

ここでは、眠りに関わる病気について紹介します。睡眠時無呼吸症候群、レム睡眠行動
異常症、ナルコレプシー、不眠症などについてです。これを睡眠障害の話だ、と思われる読
者の方も多いかもしれません。でも私は、睡眠障害、という言葉が好きではないのです。
睡眠障害では、睡眠を障害する病気、眠りを妨げる病気、というニュアンスが強く出すぎ
てしまうことが気になります。わかりにくいかもしれませんが、眠りすぎる状態も、睡眠障
害には含まれているということです。眠くなる睡眠障害もある。ですから、私は睡眠関連病
態といういい方をします。英語もsleep disordersです。眠りに関連した病気、というニュ
アンスです。睡眠関連病態ではなじみがなく、かえってわかりにくくなってしまい恐縮です
が、私のこだわりをご理解いただけると幸いです。
さて、まずは睡眠時無呼吸症候群について。2003年の2月26日、岡山駅で停止する予
定の新幹線が、この病気であった運転士の居眠りで、駅近くに来てもスピードが落ちず、自
動制御装置により停止するという事故が起こったことで、広く知られるようになりました。
中年以降の肥満した男性に多く見られ、いびきがひどく、ベッドパートナーから一時的に呼
吸が止まるのを指摘されることが多いようです。頭痛も見られ、朝の目覚めは悪く、昼間にひどく眠くなって居眠りをしてしまいます。対処としては肥満対策が第一ですが、重症の方
には、寝ている間にマスクで鼻から空気を送り込むシーパップという治療が有効です。
注意していただきたいのは、睡眠中に呼吸が止まっていたら睡眠時無呼吸か、といえば、
必ずしもすべてがそうではないという点です。じつは健常な方でも、寝ている間に呼吸が止
まることはあるのです。息をしないことイコールすべて異常、というわけではありません。
それでは、どのような時に健常な方にも無呼吸が起こるのか。
まずレム睡眠ですが、レム睡眠の時には呼吸が不規則になるということはすでにお話しし
ました。呼吸が遠くなったり、そして多少止まったり、ということがレム睡眠中には健常な
方であっても起きるものです。
それから寝返りの後。健常な方でも寝返りの後に、短時間ですが呼吸が止まることがある
ようです。ただしその原因はよくわかっていません。
ついで深呼吸の後です。これは、深い大きな呼吸をして、酸素をいっぱい取り込んで、二
酸化炭素をたくさん吐き出した後で、脳が「呼吸をしろ」という命令を出すレベルにまで血
液の中の酸素の量が減ったり二酸化炭素の量が増えたりするまでは、「呼吸をしろ」という
命令がしばらくは出ないために起こります。
最後に、寝入りばなにも無呼吸が起こりますが、これは、寝ている時は、脳が「呼吸をしろ」という命令を出すレベルが、起きている時に比べて、酸素については下がり、二酸化炭
素については上がるからだと思われます。ですから、起きている状態では出ていた命令が、
眠りに入ったとたん、しばらくは出ないということが起きるわけです。これは傍から見てい
ると、眠りに入ると無呼吸が起きた、ということになるでしょう。しかし、無呼吸イコール
病気ではありません。
ではどのような無呼吸であれば治療したほうがいいのでしょうか?
一つにはいぴきや無呼吸という、眠っている間の症状以外に、朝起きたときの頭痛や気分
の悪さがひどかったり、あるいは昼間にひどい眠気に襲われる場合です。また、睡眠時無呼
吸の程度ですが、「夜寝ている間に10秒以上の無呼吸が1時間あたりに換算して何回生じて
いるか」ということで現在は決められています。この値を無呼吸低呼吸指数といい、実際こ
の値が20を超えている場合に、先に紹介したシーパップ療法に保険が適用されます。
ただし、この値が19なら治療をしなくていいのか、昼間の症状はないのに無呼吸低呼吸指
数が高い場合はどうするのか、などの問題はあります。
一方で、睡眠時無呼吸を治療しないで放置すると、将来的に、心筋梗塞や脳血管障害を招
く危険性が高くなるという調査結果があります。さらには、治りにくい高血圧や糖尿病に悩
まれている方で、睡眠時無呼吸を抱えている方が結構いらっしやるようなのです。このような場合には、睡眠時無呼吸の治療をきちんと行うことで、高血圧や糖尿病のコントロールが
はじめてうまくいくようになる場合も少なくはありません。治りにくい高血圧や糖尿病を抱
えている方の場合は、一度、睡眠時無呼吸の検査をすることをお勤めします。
なお、アメリカでの調査結果では、無呼吸低呼吸指数が10以上で、昼間に眠気のある成人
男性の割合は3%前後といわれています。イギリス、スペインでもほぼ同じ数値が報告され
ていますが、女性は男性よりは割合が低く、男性の約半分ほどとの報告が多いようです。

睡眠時の行動が病気のサイン

前のページでも紹介したレム睡眠行動異常症では、夢内容にしたがって実際に行動してしまい
ます。普通、夢を見ているときには、身体を動かすな、という命令が脳から出ているのです
が、中年期以降、アルコールやストレスの影響などでこの命令がうまく出ずに、あるいはう
まく伝わらずに、あるいは動けという命令が強すぎたりすることで、夢内容に従って行動し
てしまう場合があるのです。レム睡眠の時に起きるので、寝入りばなというよりは、眠りの
後半、明け方近くに症状が出ることが多いようです。
激しい行動となる場合も多く、家具などに衝突して自ら怪我をしたり、ベッドパートナー
に乱暴して怪我を負わせることもないわけではありません。中年から老年期の男性に多くみられますが、パーキンソン病などの、神経変性疾患と呼ばれる一群の病気の初期の症状とし
てみられる場合もあります。
ただし、この症状が一度出たから将来かならずパーキンソン病になる、というわけではあ
りませんのでご心配なく。もし症状が頻繁に見られる方、ご不安に思われた方は、専門医を
訪ねてください。治療に効果的なお薬を出してくれるはずです。
さて、レム睡眠行動異常症と区別しなくてはいけない状態に寝ぼけがあります。寝ぼけ
は、寝入ってすぐの深い眠りが浅くなるタイミングで起きるので、寝入ってまもなく、多く
は寝入って3時間以内に起きます。子どもさんに多くみられますが、時に大人にも起きます。
睡眠時遊行症と呼ばれるタイプの寝ぼけは、いわゆる夢遊病ですが、寝ぼけている方に話
しかけたり、指示したりしても混乱させるだけです。周りから危険なものをどけて静かに見
守ることが、基本的に必要な対応です。あまり頻繁に起きるというわけでない限りは心配し
ないで様子をみていて構わないと思いますが、もしも一晩に何回も寝ぼける場合には、てん
かんという病気との区別が必要となる場合もありますので、病院を訪ねていただいたほうが
いいかもしれません。
昼間にも眠くなってしまう病気を過眠症と呼ぴますが、代表的な病気にナルコレプシーがあります。この病気は日中にとんでもない眠気に襲われることが主な症状で、この他、びっ
くりしたり喜んだりすると身体の力が抜けてしまう、カタプレキシーとよばれる脱力発作が
あったり、寝入りぱなから夢を見たり、金縛りにあったり、という症状が見られることもあ
ります。
すぐ寝てしまうので、怠け者、とのレッテルを貼られてしまう場合も多く、誤解を受けや
すい病気でしたが、最近になって、この病気の患者さんの中には、オレキシンという、目を
覚ます働きのある物質をつくる神経細胞が傷んで、オレキシンが少ない方がいることがわか
ってきました。怠け者ではなく、ちゃんとした病気だとわかってきたわけです。
ナルコレプシーの患者さんの数は、1万人に3人前後と考えられています。まだまだ原因
解明には至っていませんが、現在、効果的な治療法が開発されているところです。思い当た
る方は専門医をお訪ねください。

不眠症と過眠症

さて、ナルコレプシーという過眠症を紹介しましたが、過眠症がすべてナルコレプシー・と
いうわけではありません。
しかし、日本で20歳以上の約3000人を対象に行われた調査では、「日中、過度に眠気を感じますか?」という設問に、15%の方が、「いつも」あるいは「しばしば」と回答した
と報告されています。首都圏の企業勤務者(20〜59歳)約6000人を対象にして行われた
質問紙による調査では、男性の7%、女性の13%が過眠症と判定されています。
さらに、2002年に日本人約1万人に対し行われた、眠りに関わるアンケート調査があ
ります。勤労者が4分の3を占める、平均年齢36歳が対象です。その結果、昼間に眠気を感
じると答えた方がなんと40%を超えていました。相当数の日本の成人が昼間に眠くなってい
ることは確かなようですが、注意すべきは、この40%のすべてが過眠症とは限らないという
点です。睡眠時無呼吸では、夜間、睡眠中に苦しいため、十分な睡眠をとれず睡眠不足に陥
り、昼に眠くなります。睡眠不足症候群、という病名もあるくらいです。
睡眠不足症候群では、必要な眠りを夜に取れないので、昼間に眠くなってしまいます。患
者さん自身は、慢性の睡眠不足にあることを自覚していません。症状としては攻撃性が高ま
ったり、注意や集中力、あるいは意欲が低下したり、疲労、落ち着きのなさ、協調不全、倦
怠、食欲不振、胃腸障害などが生じ、その結果、さらに不安や抑うつが生じる場合もありま
す。ただ、眠りを十分取れる週末や休暇時には、症状がよくなる場合が多い。
患者さんは、基本的には睡眠不足で眠いので、寝床に入るとすぐに寝入ることができま
す。24時間社会となった現代社会では、寝付く時刻が遅くなり、睡眠時間が減り、その結果睡眠不足症候群になってしまいがち。対策としては、睡眠時間を確保することに尽きます
が、現実には対応が困難な場合も少なくありません。
先に睡眠衛生の基本については紹介しましたが、じつは病名として「不適切な睡眠衛生」
という不眠症もあります。不適切な睡眠衛生がもたらした睡眠不足症候群で日中に眠気が生
じることもある。なかなか病名をいうのは難しいものです。
ではここから、不眠症についてお話ししたいと思います。不適切な睡眠衛生についても後
で触れます。
私が好きではない睡眠障害、という言葉で表される状態としては、この不眠症と重なるも
のが多いのではないかと感じています。
日本で20歳以上の約3000人を対象に行われた調査では、なかなか寝付けない、夜中に
しょっちゅう目が覚める、といった項目について「いつも」あるいは「しばしば」と回答し
た方は男性の22%、女性の20・5%に及んでいます。日本人の5人に1人が不眠に悩んでい
るといえそうです。また、別の調査ですが、年齢が高くなるにつれ、不眠を訴える方が増え
ることもわかっています。
ではどうして眠れなくなるのでしょうか? 病名を挙げて考えてみましょう。
適応障害性不眠症では、不眠になったきっかけがはっきりしています。具体的には試験、転職、離婚、近親者の死亡などが原因で、数日から数週間で症状が良くなる場合が多いよう
です。精神生理性不眠症では、何らかのストレスに対して緊張してしまい眠れなくなりま
す。眠れない、ということに間する過度の心配が、症状を悪くするともいわれています。逆
説性不眠症の患者さんは不眠をひどく訴えるのですが、いくら調べても、眠れていないとい
う証拠が得られません。これは、ご本人が眠れないと思い込んでしまっている状態で、睡眠
状態誤認とも呼ばれます。
原因がよくわからない特発性不眠症という病名もあります。この病気の場合には、実際に
患者さんの眠りを調べるとよく眠れていないことが確認でき、ご自身でも眠りが不十分と感
じていらっしやいます。似た状態に短時間睡眠がありますが、短時間睡眠者の場合には睡眠
時間がたとえ短くとも、ご自身では眠りが十分と感じていらっしやいます。特発性不眠症の
治療はなかなか困難です。
不眠症の治療となると、睡眠薬あるいは睡眠導入剤、とお考えになるかもしれませんが、
ちょっと待ってください。不眠症治療の原則は、睡眠衛生の確認です。ですから、ここで不
適切な睡眠衛生、という不眠症について確認しましょう。

睡眠薬が必要とは限らない

ストレスや興奮はもとより、寝る間際になってあまりに頭を使ったり、過度に運動したり
することも、眠るのに適切な行為とはいえません。そうした行為によって夜に眠れなくなる
状態が、不適切な睡眠衛生による不眠症です。あまりに寝床で過ごす時間が長かったり、生
活習慣が日々大きく違っていたり(つまりは不規則な生活)、また昼寝をとりすぎることも、
夜になって眠るには良い条件とはいえないでしょう。
不適切な睡眠衛生の診断基準は、最低1カ月続く不眠、さらに以下の項目、
①頻回の昼寝、不規則な就床・起床時刻、寝床内で過ごす時間が過度といった不適切な睡
眠習慣
②とくに就床時間前のアルコール、ニコチン、カフェイン摂取
③就床時間近くの精神的刺激、身体活動、感情的な高まり
④睡眠以外のテレビ視聴、独唱、勉強、考えごと、飲食などに寝床を使用すること
のうち、少なくとも一つに当てはまれば可能性があります。
昼間は身体を動かさず、夜はいつまでも明るいディスプレイの前で過ごしているのでは、
身体は疲れず、メラトニン分泌は抑制され、生体時計の位相は遅れ、機能は停止し、夜になっても眠れないのは当然です。ヒトという動物の生理を考えれば、至極当然の生理現象の結
果で「眠れない」のです。これが不適切な睡眠衛生。行うべきは、適切な睡眠衛生の確認で
す。
しかし現実には、このような、いわば生理的な当然起こるぺくして起こっている不眠に対
しても、しばしば薬物投与が行われてしまいます。消化不良で下痢をしているにもかかわら
ず、また食べ過ぎ、そして下痢止めを欲しがっているようなものではないでしょうか。眠れ
ない→不眠→睡眠薬、という思考回路には、ちょっと待った、をかけていただければと思い
ます。
不適切な睡眠衛生の診断は、睡眠習慣に関してご自身でしっかりと管理できていることが
前提です。しかし現在の日本では、親御さんが睡眠衛生の基本をご存じなく、無意識にせ
よ、ご自身の生活習慣に子どもさんを巻き込んで、子どもさんが不適切な睡眠衛生による不
眠、そしてこれに引き続く昼間の眠気に陥っている場合も少なくないと感じています。お心
当たりのある読者のみなさんも、改めてそのことを考えていただけれぱと思います。
睡眠時無呼吸症候群などでは、眠りの質が悪くなって、昼間に眠くなってしまうというこ
とは前述したとおりです。さらに、こうした症状の方の中には、不適切な睡眠衛生に伴う不
眠によっても、日中に眠くなっている方が確実にいらっしやいます。その方が感じている眠気のうち、どこからどこまでが睡眠時無呼吸症候群に伴う眠気で、どこからが不適切な睡眠
衛生に伴う不眠による眠気なのかの明確な区別をすることはできません。睡眠衛生はすべて
の基本、とお考えいただきたいと思います。

夜勤も工夫次第で

ここで、夜勤の問題についても触れておきましょう。
日本では、20%弱の労働者が交代勤務をこなしているというデータがあり、交代勤務型の
概日リズム睡眠障害というりっぱな病名もあります。夜勤とは、本来、ヒトという動物が寝
るべき時間帯に働くわけで、時差ぼけとかなり似た状態となり、心身ともに影響を受けてし
まいます。本質的な解決は、夜勤や交代勤務をやめることですが、これは現実には難しいで
しょう。そこで大切なことは、昼間にいかにして眠り、夜勤中はいかにして起きているか、
ということになります。
私が医者になった25年以上前には、看護師さんの基本的な勤務形態は、日勤、深夜、準夜
の1セットでした。つまり朝8時から夕方4時までの日勤勤務に引き続き、仮眠を取って、
その晩の深夜O時に出勤、朝8時までの深夜勤務をこなし、その翌日午後4時から深夜O時
までの準夜勤務に携わるというパターンです。これが、生体時計をまったく無視したひどい勤務形態であることは、読者のみなさんにはおわかりいただけると思います。これでは、き
ちんとした仕事内容を求めることのほうが無理、というものです。
最近は、生体時計の周期が大多数の人で24時間よりも長いことを考慮して、日勤、日勤、
準夜、準夜、深夜、深夜というように、少しずつ、勤務時間帯が遅くズレていくようなスケ
ジュールを組む施設が増えてきていると間いています。多少ではありますが、生体時計に関
する最新知識が応用されているようです。ただ、先に挙げた基本的な問題、つまり昼間にい
かにして眠り、夜勤中はいかにして起きているか、に関しては残念ながらまだ本質的な答え
は見出されてはいません。
本質的、というのは、生体時計にやさしい勤務のあり方ということですが、本質ではない
部分での工夫は多少出てきています。「夜間の勤務場所は明るくすることで、夜勤中の眠気
を抑える」「夜勤明けで帰宅する際は、サングラスをかけ光を浴びないようにすることで、
帰宅後眠りやすくする」「帰宅後すぐの午前中は本来、覚醒度の高い時間帯なので、眠りは
午後に入ってからにすることで、起きている時間も長くなり、より眠りやすくなる」などで
す。このように、昼間にいかにして眠り、夜勤中はいかにして起きているか、については、
まだまだ各自での工夫に頼っている部分も大きいといわざるを得ません。
さらに、睡眠衛生の1つとして、入眠儀式について触れておきたいと思います。入眠儀式とは、寝るまでの段取りです。考えてみれば、寝るというのは非常に無防備で危険きわまり
ない行為です。ですから、寝る前に自分の身の回りの安全を確認してから眠るというのは、
生物学的にも非常に大切なプロセスかもしれません。身の回りの安全を確認しないと睡眠中
枢が活動しにくい、といった脳内メカニズムもあるのではないかと私は推測しています。
基本的には、各自でご自身の安全を確認して安心していただかなければならないわけで、
具体的内容は各人それぞれでしょう。本を読む、音楽を聴く、寝間着に着替える、翌日の準
備をする、なんでもいいと思いますが、その方にあった入眠儀式、つまりは寝るまでの段取
りを確立していただくことが、よい眠りを得るためにはとても大切だと思います。
また、眠ろうとすればするほど目が冴えて、ますます眠れなくなってしまうということが
あります。眠れない、と悩みながらぎゅっと目をつぶって、あるいは暗闇に目をやりながら
起きていることはじつにつらいことです。
そんな時は気分転換。田心い切って布団から出てみては
いかがでしょうか。いろいろと試し
てください。ただし、熱いお風呂はお勤めできません。熱いお風呂は、通常、昼間に活発に
活動する交感神経の働きを高めて、目が覚めてしまいます。
なお、不適切な睡眠衛生の診断基準では触れられていませんが、眠るための環境(温度、湿度、環境音など)も大切にしたいものです。あまり暑すぎたり寒すぎたり、あるいはジメジメしすぎていることは、決して眠りやすい環境とはいえないでしょう。
また最近は、枕についての研究も進み、適切な高さや適切な材質の枕を処方してくださる
施設もあるようです。枕を何種類か用意して、そこから好みに近い枕を選択できるホテルも
あるようです。枕だけですべてが決まる、というわけではありませんが、眠りを取り巻く要
素の1つとして、枕は決して無視できるものではないと思います。

アルコールが不眠対策の日本人

話を不眠症の治療に戻します。睡眠薬、あるいは睡眠導入剤は、睡眠衛生の基本を満たし
た上で、つまりは眠る条件をすべて整えた上で、それでもうまく寝入ることができない、夜
中にしょっちゆう目が覚めてしまう、とんでもなく朝早く目が覚めてしまう場合に、最後の
一押しとして使用するものだ、ということを強調しておきたいと思います。1錠飲めばどん
なときにもすぐにころりと寝てしまう、などという恐ろしい薬を処方できるわけがありませ
んし、手術に際しての麻酔でもない限り、1錠飲めばどんなときにもすぐにころりと寝てし
まう、などという薬はありません。
また、よく聞かれるのは、これは強い薬ですか弱い薬ですか、というご質問です。基本的
に現在処方できる薬に関しては、強い薬も弱い薬もありません。もちろんそれぞれに個人差がありますから、ある薬が効きやすい方、効きにくい方はいらっしやいます。また、同じ薬
を長い間使っていると慣れてきて、効きが悪くなるということはあります。ただし、薬とし
ての強弱は基本的にはありません。
私が処方するときに注意する点は、薬の種類と半減期です。薬の種類について注意すると
いうのは、眠気をもたらすメカニズムが薬の種類によっていくつかあり、同じメカニズムの
薬では、使い続けているとどうしても慣れが出て、効きが悪くなってくるからです。
そして半減期とは、薬を飲んだ後、薬の成分の血中濃度が最高になってから半分に減るま
での時間のことです。薬が体内から失われる時間については体調等も影響しますが、薬によ
ってだいたい決まっている。ですから、半減期が短い薬は体内から早く失われることになり
ます。つまり、半減期の短い薬は、飲んでしばらくの間しか効果が続かないということにな
ります。このような薬は、なかなか寝付けない、という方にはお勧めです。
ところが、朝早く目が覚めて困るという方には、もう少し半減期の長い薬でないと効果が
期待できない、ということになります。これまで使われていた薬には、半減期の長いものが
多く、その場合、翌日の昼間になってもなんだかポーツとしている、眠たい、という、好ま
しくない効果や副作用が出る場合が多かったように思います。むろんいいお薬があるといっ
ても、睡眠導入剤を漫然と長期にわたって使用することは決して望ましいことではありません。
なお、薬を服用している際には、併用薬との組み合わせには注意が必要です。飲み合わせ
によっては、薬の半減期が伸びたり、濃度が高くなったりする場合もないわけではありませ
ん。もちろん、アルコールとの併用は避けてください。お互いの働きが強まり、記憶障害や
ふらつき、めまい、日中の眠気などが現れてしまいます。
不眠とアルコールに関して、2002年12月3日付の日本経済新聞に、フランスの製薬会
社が実施した国際睡眠疫学調査の興味深い結果が掲載されていました。
睡眠の悩みを訴えている人は調査対象全体で25%、日本では21%とのこと。注目すべきは
その対策で、欧米では「医師を受診」が半数近くを占めるのに対し、日本では医師受診は8
%で、解消策としてもっとも多く行われているのはアルコール摂取の30%だったのです。眠
りについての悩みなど大したことではない、医者にかかるまでのことはないと、睡眠を甘く
見ているせいではないかと心配です。
また、アルコールで寝つきが良くなるのは確かなのですが、じつはその後の眠りが浅くな
ってしまいますし、アルコールには利尿作用もあります。それは、眠りの質の点からは望ま
しくなく、また、慣れが生じやすいものでもあります。寝酒に頼るのは、決してほめられた不眠対策ではありません。

睡眠について知ると不眠は

私はここ数年、睡眠外来を行っています。睡眠外来では、赤ちゃんから高齢者まで、眠り
に関する悩みは何でも受け付けます、と看板を掲げています。おかげさまで、じつにいろい
ろな方がおいでくださり、私としても大変勉強になります。
驚いたのは、「眠れない」とおっしゃる高齢の方の多くが、約30分ほどの私の外来の間中
ずっと、ご自身の眠りに関する悩み、つらさ、そしてさまざまな試みについてお話しくださ
り、大半の方はお話しなさっただけで、「すっとしました」「楽になりました」と外来を後に
なさることです。
はじめのうち、私は正直いって戸惑いました。お話を伺いながら、どうしたらいいもの
か、どんな手があるかな、といろいろ考えをめぐらせながらお話を伺って、さあ何かうまい
ことをお伝えしようと思うその瞬間、「ありがとうございました」「楽になりました」と患者
さんはおっしゃるのです。
たしかに、お話の途中で私も合いの手は打ちます。○○はいいですよね、△△はこうした
ほうがいいかもしれませんね、など。でも、こちらがさらに何かきちんとしたことをまとめ
てお伝えしようとしても、その必要はないようなのです。お話を伺うたび、みなさん話し相手を求めているのだな、みなさんご自身の日常を肯定してもらいたいのだな、みなさん誰か
に話を間いてもらいたいのだな、との思いを強くしています。
私が勤務する病院は病床数280の急性期病院で、救命救急のような3次対応はできない
一般病院です。眠りに関する特別に重篤な悩みをお持ちの患者さんが、紹介されて来院なさ
るような専門病院ではありません。このような規模の病院でも、ごくごく初歩的な睡眠衛生
の基本を知って、きちんとお話を伺う時間さえ確保すれば、結構多くの方に、少なくとも眠
りの問題については安心していただけるのだな、そんな感想を持っています。
ただ正直にいって、そのように時間をとってお話を伺える場は、決して多くはないと思い
ます。また、眠りに関する知識に自信を持ち、○○はいいですよね、△△はこうしたほうが
いいかもしれませんね、などといえる医者が十分にいるかといえば、それははなはだ疑問で
す。そういった理由で、私は医師向けの眠りに関する本を書くこともしています。眠りに関
する知識を、多少なりとも心得た医師が増えてくれることを期待しています。

睡眠不足は企業にとっても大問題

前項で、不適切な睡眠衛生で不眠になる、と述べました。ここでは、このことについても
う少し詳しく考えていきましょう。
多くの方は寝ないで仕事をすることが美徳、と考えていらっしやるのではないでしょう
か? ある新聞のコラム欄にも、「会社が期待するような成果が出なければ、寝る間も削っ
て働くしかないし……」とありました。寝ないで仕事をすることが忠誠心の証で、立派な
ことで、そうすることが当然のこと、その結果業績も上がる、多くの方がそのようにお考え
なのではないでしょうか。でも本当にそれは正しい考え方なのでしょうか?
何度も中し上げるように、ヒトは寝て食べてはじめて活動できる動物です。活動の中身は
社会活動、遊び、コミュニケーション、勉学、運動とさまざまですが、寝ないで、食べない
で活動の質が高まるわけがありません。
「ハーバード・ビジネス・レビュー」というアメリカの経済誌があります。2006年の10
月号に「組織の「現代病」見えざる経済課題」という特集が組まれ、その中の記事の1つ
が、「睡眠不足は企業リスクである」というタイトルでした。日本語版の12月号にも掲載さ
れましたので、目にされた方もいらっしやるかもしれません。サプタイトルは「睡眠時間を削るとパフォーマンスは低下する」でした。要旨には、「モーレツ主義を訟う企業風土のな
かで、マネジャーの多くは、睡眠時間を犠牲にして仕事に打ち込んでいる。短い睡眠時間は
バイタリティやパフォーマンスの高さと混同され、一日8杯のコーヒーを飲みながら、毎晩
5、6時間しか寝ず、週に100時間働くなんてことを何とか続けている。しかし、ハーバ
ード・メディカルスクールの睡眠の権威は睡眠不足の危険性を警告し、社員も経営陣も等し
く従う睡眠指針を会社として規定すべきだ、と主張する」とありました。
残業が美徳であるとする風潮、社会通念の問題点を見事に突いていると感じました。日本
の社会経済活動の中心を担っていらっしやる読者のみなさまには、眠りの重要性についてぜ
ひご一考いただきたいと思います。
ところが、この論文に先立つこと13年、1993年にはすでにアメリカで「wake up
America目覚めよアメリカ」と題された報告書が発表され、眠りの問題を、国家的な重要
問題として提起、国民に眠りの重要性を周知徹底させる大々的な国家キャンペーンが開始さ
れているのです。
また、2007年1月には、フランス政府も「国民よもっと眠れ」と、「安眠アクション
プラン」を打ち出しました。そして、「交通事故の2割は眠気と関係がある」「睡眠不足が学
校での落ちこぼれに結びついている」と指摘、具体的には「眠気について語るのをタブーにしてはいけない」と提案、職場で15分間の昼寝をとる試みへの参加を企業に呼びかけ、さら
に、子どもも十分な睡眠をとるべきだと訴えるなどして、年間予算として‥‥‥一億円を計上しま
した。欧米では、国民をしっかりと眠らせることの重要性が認識されているわけです。

国を挙げて掲げる「残業は美徳」

日本では、眠りはどのように受け止められているのでしょうか。 やはり、「会社が期待す
るような成果が出なければ寝る間も削って働くしかないし……」という考えが一般的なのだ
と思います。
ある官庁の方から、残業についてお話を伺ったことがあります。とくに、国会会期中の残
業ですが、これには、議員の方の質問に対する対応が相当部分関係するのだそうです。議員
の方は、あらかじめ国会質問を提出するのだそうですが、中には質問の前日の夜遅くになっ
てからの提出もあるのだそうです。官僚の方は、それから徹夜で答弁書を作成するというわ
けです。ということは、日本の国会で読み上げられている答弁書は、冷静な理性あるいは明晰な頭脳というよりは、どちらかというと気合と根性で作成されているというわけです。そ
してそのような徹夜の作業を、官僚の方は、やりがいのある仕事と感じてもいらっしゃるのだそうです。議員の方々の意識改革も必要ですが、官僚の方々は、骨の髄まで「残業が美徳」という前
時代的な発想にとらわれているのではと危惧してしまいます。ただし、2008年6月の居
酒屋タクシー報道を耳にしますと、官僚の方々にとって「残業は得」であるのかもしれませ
んが……。
とはいっても、「残業が美徳」であるのは、官僚の方々ばかりではないようです。今、日
本は、週50時間以上勤務をしている就業者の割合が、世界で唯一25%を超えている国です。
大企業に、1カ月間の残業が100時間を超える正社員がいたかどうか尋ねたところ、「いた」と回答した企業は、3社に1社の割合に上ったという調査結果もあります。月80時間を
超える超過勤務は、過労死の危険があるレベルです。
下請けの現場の状況はさらに深刻でしょう。トヨタが世界一の売り上げを達成したという
報道がある一方で、賃金面ではありますが、トヨタとその下請けとの格差を指摘する記事も
あります。「週刊東洋経済」2007年2月24日号によると、孫請けの孫、つまりは4次請
け層の従業員数1〜3人の企業の従業員の年収は、トヨタ社員よりも644万円低いとされ
ています。下請け企業の、残業を含む労働条件の厳しさも容易に想像できます。中央官庁で
も、5%の方が過労死の危険があるレベルの超過勤務をこなしています。
つまり、日本は、国を挙げて残業をしている、いわば残業立国なのです。
タ○ホ○ムのCMでのみ○も○たさんの発言。
「残業代しっかり稼がないといけないんじやない。ローンもあるんでしょ」
これでは、「残業は稼ぐために行うこと」になってしまいます。残業は、行わなければな
らない仕事を時間内に終わらせることができなかったために、やむを得ず行う仕事であっ
て、さらに稼ぐために行うことではないはずです。ただしこのCMでは、お父さんは残業せ
ずに、大好きなご自宅に早く帰ってくれているようなので救われますが、残業をすれば収入
が増す、という考えが基本にあるようです。

寝不足で働いた気になっている人

では残業すれば高い生産性が得られるのでしょうか? じつはそうではないようなので
す。
2004年の世界銀行の調べでは、日本の労働生産性は先進7カ国で最下位、OECD
(経済協力開発機構)加盟30カ国の平均をも下回っています。時間さえかければ仕事がはか
どる、という考え方はひょっとしたら幻想なのではないでしょうか。
序章でもご紹介したとおり、NHKによる睡眠時間の調査では、1960年から2005
年までの46年の間に、日本人の平均睡眠時間は51分減り、7時間22分にまで短縮しています。毎年1分あまりずつ短くなっている計算です。
ちなみに、宗教評論家のひろさちや氏がJR東海の新幹線グリーン車搭載誌「ひととき」
の2008年5月号に書いていらっしやった文章の中には、「昆虫行動学者の研究によると、
本物の働き蜂の労働時間は六時間四十三分だそうです」とありました。6時間43分は睡眠時
間ではなく、労働時間です。日本人は睡眠時間を削って残業をし、極めて効率の悪い仕事を
している、といえるのではないでしょうか。
「寝不足で懸命に働く日本人」(序章参照、2006年の社会生活基本調査(総務省)結果
に関する2007年11月4日付の毎日新聞より)ではなく、「寝不足で懸命に働いている気
になっている日本人」かもしれません。残業するというのはまじめさの証しではなく、時間
内に仕事を終わらせる能力のなさの証しであり、しっかりと眠ることで仕事の質も向上する
ことを、経営者も労働者も心の底から理解する必要があると思います。そうしなければ日本
が立ち行かなくなることは自明なのに、なぜか多くの日本人はこの点に関し鈍感です。目を
つぶって現実を直視しようとしていません。
結局日本人は、眠りを疎かにしているのでしょう。そして眠りを疎かにしてきたこの間、
日本人の質がどれほど低下したのか、じつはみなさんこそが実感なさっていらっしやるので
はないでしょうか? 長期的視野を失い、目先の経済収支に目がくらみ、小賢しくなったのではないでしょうか? そして依然として、「会社が期待するような成果が出なければ寝る
間も削って働くしかないし……」という考えなのです。
目の前の仕事に追われ、余裕を失い……。2006年の自殺者数は3万2155人とな
り、交通事故による死者数の実に5・O倍に達しています。2007年も3万3093人
(交通事故による死者数の5・8倍)と、10年連続の3万人突破と警察庁が発表しています。
誰からも眠れ、休めとはいわれず、残業をしても仕事は終わらず、さらにストレスは増し、
眠れず、朝の光を浴びたり身体を動かすこともままならず、セロトニンが枯渇して心はゆと
りを失い、攻撃的になり、この攻撃性がしばしば自分に向けられ、不幸な結果を迎えている
のではないでしょうか。
2007年9月1日付の産経新聞によると、静岡県富士市では、不眠がうつ病の初期症状
として多いことから、不眠をチェックし、うつ病の早期発見につなげる「睡眠キャンペー
ン」を始めたとのことです。行政が眠りを取り上げた、おそらくは初めての例として評価し
たいと思います。自殺で人間を失うことは実に哀しい出来事ですし、人間はかけがえのない
資源という観点からも、行政は積極的に自殺防止対策を講ずるべきでしょう。

「早寝早起き朝ごはん」を行うと

日本でも、文部科学省が2006年より「早寝早起き朝ごはん」運動を始めています。東
京都も、「そうだ、やっぱり早起き・早寝!」をキャッチフレーズに、生活習慣改善プロジ
ェクトを立ち上げています。
しかしこれらの動きは、日本では「子どもの問題」ととられがちです。私もこうした運動
に関わっていますが、いくら子どもたちに早起き早寝といったところで、周りの大人たちが
残業を美徳と考え、眠りをはじめとする生活習慣をないがしろにしていたのでは、子どもた
ちに運動の趣旨が理解されるはずもありません。また、子どもを取り巻く大人たちが夜ふか
し朝寝坊では、子どもたちにばかり早起き早寝を強いても、実効が上がるわけがありませ
ん。
大切なことは、企業も含めた社会全体のバックアップです。早寝早起き朝ごはん全国協議
会の副会長で、文部科学大臣のご経験もある遠山敦子氏は、この運動をきっかけに日本人は
働き方を見直すべきと発言されています。何も考えずに高度経済成長に乗っかっていればよ
かった、そんな時代は終わりました。残業を美徳とする社会通念を打ち捨て、しっかりと眠
った明晰な頭脳で、各自が自らの向かう方向をしっかりと考えるべき時代となったのではないでしょうか。
子どもの早起きをすすめる会では、このような現状を踏まえ、2
008年6月の6周年シンポジウムではテーマを「夜型社会から抜け出すために」とし、夜
型の問題点を公衆衛生の立場から富山大学の関根道和准教授にお話しいただき、さらに、東
レ経営研究所の佐々木常夫社長に「ビジネスと家庭は朝型方式」という題でお話しいただき
ました。
ご存じかもしれませんが、佐々木社長は3人の子どもさん(うち、ご長男が自閉症)を持
つ父親として、また奥様が肝臓病とうつ病を患い、20年間で43回入院、3回の自殺未遂を起
こす中、子育て・仕事・介護に奮闘している方です。朝5時半に起きて子どもの世話や弁当
づくりをし、夕方6時には会社を出るという日々ながら、仕事へも情熱を持ち、大阪と東京
への転勤を6回くりかえし、さまざまな事業改革などに取り組んだとのことでした。
詳細は、氏の著書「ビッグツリー」(WAVE出版)をご一読いただきたいと思いますが、
朝型方式という中で4つの提案がありました。「午前中にその日の仕事の半分を」「早寝早起
きで心身共に健康に」「ワーク・ライフ・バランスで豊かな社会を」、そして最後の4つ目は
「ワーク・ライフ・バランスよりワーク・ライフ・マネジメント」でした。
ワーク・ライフ・バランスという言葉は最近よく耳にします。多くの場合、仕事と生活の調和と訳されます。ただ、みなさんいったいどれだけ本気でこの言葉に耳を傾けていらっし
やるのかは、はなはだ疑問に感じています。人生と仕事のバランス、このように訳すといか
がでしょうか。この言葉が問いかけているのは、人生で仕事をどのようなものとして捉える
かという、ある意味根源的な問いかけです。
お金はあるに越したことはありません。しかし人生は1度きりです。そして佐々木社長は
ワーク・ライフ・バランスではなくワーク・ライフ・マネジメントとおっしやったのです。
私はワーク・ライフ・マネジメントについて、仕事と生活の調和は自分でマネージ、調整し
ないことには、誰もあなたのために調整などしてくれませんよ、というメッセージだと解釈
しています。
なお、佐々木社長の「経産省の山田課長補佐、ただいま育休中」(日本経済新聞社)を紹
介したうえで、「育児は究極のリスクマネージメントであり、タイムマネージメント」、「会
社幹部は、米国大学院留学帰国者よりは育休経験者を優遇せよ。」ともおっしやっていまし
た。育児というのは、かけがえのないあなた自身のお子さんを前にした真剣勝負、頭をフル
回転させる訓練というわけです。赤ちやんや子どもは何をするかわかりません。「一瞬目を
離した隙に……」という事故報道を残念ながら良く目にします。予測困難な存在が赤ちやん
であり、子どもです。「絶えず注意を払い、予測困難な中であっても危険を予知し、わずかな危険可能性を多少とも減らす努力を常に怠らない」。これが育児の極意、究極の危機管理
(リスクマネージメント)、安全管理(セーフティーマネージメント)でしょう。
むろん育児中のあなた自身も育児をしつつ、休み、食事をとり、向上しなければなりませ
ん。赤ちやんや子どもが「さあどうぞ」と、あなたに眠りや食事や勉強に時間を与えてくれ
るはずもありません。24時間をいかに効率的に使うか、育児に携わっている方々は、皆さん
真剣に時間管理(タイムマネージメント)をしているのです。育児経験者は危機管理、安全
管理、時間管理の実践者といえるのです。
この経験が様々な分野に役立たないわけがありません。もちろんあなたのビジネスにおい
てでもです。育児の場面では、どんな本を読むよりも、どんな研修に参加するよりも、その
数倍のイキイキさとワクワクさとに溢れる経験が積め、皆さん自身の血となり肉となる経験
を積むことができるのです。さあ、もうすぐお子さんが生まれるあなた、いえ、もうお子さ
んが生まれているあなたでもいいと思います。数年後のスキルアップのために、今から育児
休業を申請なさってはいかがですか?
今、眠りをないがしろにしながら効率の悪い仕事を積み重ねることは、経済的にも、長い
目で見れば決してプラスではないと思います。何よりも、人というかけがえのない大切な資
源の質を落としてしまいます。

夜スペよりも朝スペを

首都圏では、3分の2の小中学生がもっとも欲しい時間として、睡眠時間を挙げていま
す。東京で小中学生に、「3、4時間目に眠くなりますか」と問いかけたところ、小学生の
男子の5割、女子の6割、中学生に至っては男子で7割、女子の8割が眠くなると回答して
います。3、4時間目というのは午前10時から12時頃で、本来人が一番目覚めていなければ
いけない時間帯、覚酸度が高くなければいけない時間帯です。この調査結果は今の子どもた
ちが生物学的に、とんでもない状態に陥っていると判断せざるを得ない結果です。
また、学習効果の点からいっても、この状況は悲惨です。まもなく授業時間が10%ほど増
えるようですが、いくら授業時間を増やしても、児童生徒が眠っていては意味がありませ
ん。次世代を担う子どもたちに、われわれは教育を施すことができない状況に陥っているの
です。今、教育界でまず考えるべきことは、昼間、子どもたちが学校にいる間、しっかりと
目覚めた状態にしておくことではないかと思っています。
ただし、子どもたちの身体が数年で現状に慣れて、このように変化してきたわけではあり
ません。生体時計の何たるかを知らなかった大人たちが、さまざまな仕組みで子どもたちを
このような状態に追い込んでしまった。現状は夜ふかし朝寝坊という、生体時計の無視・軽視がもたらした結果です。生体時計には気合と根性では太刀打ちできない。太刀打ちできな
い生物学的な背景が、自然の摂理があるのです。今こそ私たちは、生体時計を考慮した生き
方(Biological dock‐oriented life style)を模索するべきではないでしょうか。
たしかに本邦でも、2008年4月発売の総合月刊誌「文藝春秋」5月号の特集「脳力革
命」で、「国民よ、脳のためにもっと眠れ」が掲載されるようにはなりましたが、大部分の
日本人には馬耳東風です。本気で眠りの大切さを考えてみようとはしていません。事の重要
性がまったく理解されてはいないのです。
「眠るなんて冗談じやない」「やりたいことがたくさんあるんだ」「眠りを削って仕事をしな
ければ食べていけないんだ」、たしかに現状ではそのような而もあるかもしれません。ただ
根本は、T人ひとりがどこまで眠りの本質を知っているかです。知らないということはじつ
に恐ろしい。知らないと、とんでもなく大胆なことをやってしまいます。
たとえば、「24時間テレビ」や「27時間テレビ」が生体時計を考慮した生き方に反するこ
とは、すでにこの記事をここまで読み進めてこられた方にはおわかりいただけると思います。実
際、この番組をきっかけに生活リズムが崩れたとおっしやる患者さんを私は知っています。
読者の中にも、思い当たる方は少なくないのではないでしょうか。「24時間テレビ」や「27
時間テレビ」は、地球資源の無駄遣いや、24時間社会、不眠の奨励であり、地球と人の身体を破壊する、と私は常々申し上げています。
また、夜スペもとんでもないことです。夜スペとは、2008年1月26日にスタートし
た、東京都杉並区立和田中学校での進学塾講師による有料授業「夜スペシャル」のことで
す。実施については、都教育委員会が、義務教育の機会均等や公共施設の利用といったこと
を問題視し、杉並区教委に実施の再考を求めるなどもしたようです。しかし区教委は、特別
授業を「学校教育外活動」と位置づけ、都教委も「(特別授業は)学力の向上という公共の
利益のためで、不適切なものではない」との見解をまとめ、実施を了承しました。
夜スペは学校の教室で平日夜3日と土曜に行われ、料金は一般の塾より安く設定されてい
ます。当初は受講者を選抜していましたが、5月91一日からは希望者全員の受講を認めたよう
です。この試みについては、賛否さまざまな意見があります。学校の閉鎖性の打破という観
点から、試みを支持する意見がある一方で、営利活動への加担等、試みに反対する立場から
の指摘もあります。
2008年1月26日付のMSN産経ニュースによると、埼玉県教育委員長で明星大学教授
の高橋史朗氏は「(都教委が指摘した)(1)費用の負担(2)学校主催(3)教員が教材づ
くりを手伝う?の3点の問題さえなければ、学校の壁を破る新しい試みだ。学校の閉鎖的体
質を改めるいい機会で、保護者と連携して子供のために何をすべきかを優先すべきだ」と話しているとのことです。
その他に、塾講師と連携している東京都江東区立八名川小学校の小山正見校長は、「かつ
ては両親が教えたりして予復習の習慣があったが、共働きが増え、家庭での学習習慣が身に
付けづらい状況。社会総がかりの教育が大切といわれる中、外部の民間活力を導入するのは
良いことではないか」とおっしやっているようですし、塾講師を公立中学校に派遣した経験
がある教育コンサルタントの森上展安さんは、「(地域の)実情に合わせて民間を活用するの
は面白い。公立校の可能性を広げる第一歩だ」と評価しています。
一方で、東京都品川区教育委員長の細川珠生さんは、「学力向上は学校の大きな目的のひ
とつ。それを放棄するのは学校の権威を下げる。恒常的に塾に頼るのは教員の力を伸ばすこ
とにならない」と指摘します。
しかし、私は臨床睡眠医学を専門とし、生体時計の役割を知る者として、これまで議論が
まったくなされていない点を指摘したいと思います。それは夜スペの平日の終了時刻、午後
9時35分についてです。繰り返しになりますが、人の脳の視交叉上核に存在する生体時計の
周期は24時間より長く、夜間の受光は生体時計に作用し、その周期を延長させ、本来存在す
る地球時間とのズレをいっそう拡大させます。
夜型の生活は、決して人という動物にとって好都合な生活習慣ではなく、これを強いる夜スペは、生体時計の何たるかをご存じない方の大胆で罪深い思いつきにみえる。私には、子
どもたちにまで残業を強いている大人たち、という構図にしかみえません。そうではなく、
生体時計を考慮した生き方を推進すべきで、あえていうならば、むしろ朝スペを提案しま
す。

眠れば日本人の能力は上がる

夜の光は生体時計の周期を延長して地球時間とのズレを拡大し、酸素の毒性から細胞を守
り眠気をもたらすメラトニンの分泌を低下させ、場合によっては生体時計の働きそのものを
停止させてしまうというのは前述したとおりです。
たしかに人智はすばらしい。しかし同時に、ヒトは社会的な動物です。周期24時間の地球
で生かされている動物だという謙虚さを忘れるべきではないと思います。読者のみなさん
が、ここで述べているような、眠りに関する生理の常識を身につけることで、世間に蔓延し
ている眠ることが罪悪であるかのような風潮に一石が投じられ、その結果、おそらくは日本
人の能力がいっそう高まることを私は期待します。
寝ないで食べないで活動しようとしても、活動の中身は充実しないのが人間。「24時開戦
えますか?」こんなうたい文句を今も時々耳にしますが、冗談じゃない。24時間働いてはいけません。24時間働くなんて、そんな危険なことはありません。注意力が散漫になり、集中
力が下がり、仕事の能率が下がる。24時間起きているとドジってケガして、病気になります。
文藝春秋2008年7月号では、「司馬遼太郎 日本のリーダーの条件」というタイトル
で司馬遼太郎氏が描いた日本のリーダーを取り上げ、「彼らは「この国』をいかに救った
か?」という副題で各界の識者が論を展開しています。その中で、国際公共政策研究センタ
ー理事長の田中直毅氏は、このように述べていました。
「……ふ‐7日の日本も、サイエンスの視点でさまざまなものを対象化して、次の展開軸が変わ
るのを感知するようなタイプの人が必要となるのではないでしょうか。現在のわが国のりI
ダーを眺めると、そういう人たちの比重が少なすぎる。傑出したりIダーが出てこないと嘆
く前に、我々はまずりIダー像を変える必要があるように思います。会社も役所も文科系中
心で、既成の概念に縛られすぎているんじやないでしょうか」
ヒトはあくまで動物であって、健康(身体)あっての人間の活動という視点が政治にはな
おざりにされている現状。その原因の1つが指摘されたかな、と感じました。

睡眠時間を奪う国とメディア

サマータイムも生体時計を無視した施策です。そのことをわかりやすくご説明するため
に、まずは、サマータイムとは何かというところから解説させていただきます。
サマータイム、英語では「daylight saving time」つまりは昼間の明かりをセーブし、有
効に使うための制度です。具体的には、春には時計を1時間進めて夏時間とし、また秋には
時計を1時間遅らせ、標準時に戻します。つまり、それまで朝6時だった時刻が、春からは
夏時間の朝7時になり、秋からは、朝6時だった時刻が標準時の朝5時になる、というわけ
です。単純に考えると、朝、同じ時刻に出かけようとした場合、春は早起きに、秋は朝寝坊
になります。何だ、たかが1時間程度のズレじやないか、どうってことないんじやないか、
そのように思われる方が多いのではないでしょうか。しかし、たかが1時間、されど1時
間、なのです。
日本政府はサマータイム制度を地球温暖化対策の1つとして捉え、その導入を進めようと
しています。「地球環境」をテーマにしたG8サミット開催もきっかけのようです。キャッ
チフレーズは、豊かなライフスタイル、省エネルギー、経済波及効果と魅力的です。たしか
に帰宅時刻が早くなり、明るいうちから家族がそろって、楽しく過ごす、ゆっくり語らう、映画やコンサートに行く・・・理想でしょう。
ただし、これはあくまで脳(前頭葉)で考えた理想にすぎません。現実のヒトは、周期24
時間の地球で、前頭葉よりもっと根源的な要素、すなわち生体時計(視床下部)と脳幹部に
よって生かされている動物なのです。
サマータイムを導入した結果、ヒトの生体リズムの季節性変動が乱され、その結果、健康
に障害が生じることが報告されています。ドイツで5万5000人を対象に、年間を通して
行った睡眠時間のアンケート調査結果と、2006年から2007年にかけての春秋2回の
時刻変更時にそれぞれ8週間ずつ、51名と49名で携帯型行動計を用いて行った行動リズム調
査の結果から次のことがわかりました。
①行動リズムと新たな時刻とのズレがなくなる、つまりは新たな時刻に身体が慣れるまで
に、秋の時刻変更後には平均3週かかり、春の時刻変更後には4週後も完全には達成さ
れていなかった。
②行動リズムが新たな時刻に慣れるまでの経過には朝型人間と夜型人間で差があり、夜型
人間では春の時刻変更後4週間たっても行動リズムと新たな時刻とのズレは消失してい
なかった。
③春の時刻変更後、3週間の間、睡眠時間が平均25分短縮した。
④睡眠リズムは、冬季には日の出時刻と連動して変化していたが、夏時間の期間には日の
出時刻との連動は消失した。
これらの結果から、生体時計がサマータイムに適応するには従来考えられていた以上に時
間がかかること、サマータイムは人が本来持っている季節リズムを乱すことが示された、と
結論づけられています。
この他、これまで報告されている健康障害の主たる内容は、夏時間への変更後、数日から
2週間程度持続する、睡眠時間の短縮、睡眠の質の低下、日中行動の分断化、抑うつ気分、
自殺などです。健康障害には個人差があり、日本人に多い夜型タイプで症状が強く出ること
が示唆されています。さらに、高温多湿の西日本において、夏時間では暑さが収まらない時
間帯に就床することになり、睡眠時間の短縮や不眠を誘発する可能性がいっそう高くなりま
す。
このように、人間の前頭葉が考え出したサマータイムという智恵は、生存のためにより根
源的な脳である生体時計や脳幹部の了解は得られなかった、といえるのではないでしょう
か。たしかに前頭葉で考えると、サマータイムは早起きに一役買う、ということも想定でき
るわけで、朝の光を浴びるにはきわめて有効な対策ではないか、ということができます。た
だ、詳しく調べてみると、実際にはその効果よりも睡眠不足の影響が大と出るようなのです。夜ふかし早起きで睡眠不足になってしまう、というわけです。
ただ、読者のみなさんを含む、今の日本人はみな、相当に睡眠時間を削って生きていま
す。これに追いうちをかけるように、サマータイムではさらに睡眠時間が減るのです。サマ
ータイムは、たしかに、朝の受光についてはメリットとなる可能性もありますが、夏時間へ
の移行は、現在、最低レベルで何とか維持している睡眠時間を、さらに奪うことになり、そ
のデメリットのほうが大きいでしょう。
このような現状でのサマータイム導入は、日中の眠気を助長し、日中の作業能率の低下、
その結果の残業の増加をもたらす可能性も高いといえます。夕方の余暇は、たしかに北欧や
北米では実現できているかもしれませんが、日本の現実と、日本人のメンタリティ、さらに
は早く帰っても何をやっていいかわからないという、大部分のサラリーマンの声を考慮しま
すと、すぐに理想が実現することは難しいのではと悲観的になってしまいます。
こうした考えにより、2008年6月5日に日本睡眠学会もサマータイム導入に反対する
声明文を公表しました。

サマータイムの効用は

一方、政府はサマータイム導入でさまざまな魅力的な効果が上がると試算しています。そのもとになっている資料が、「生活構造改革フォーラム」(社会経済生産性本部)が2003
年度に実施した「生活構造改革の推進に関する基礎的調査」の検討結果などを踏まえて取り
まとめた報告書で、タイトルは「生活構造改革をめざすサマータイム〜エコ・コンシャスな
ライフスタイルの構築に向けて〜」です。
この報告書では、サマータイムの経済社会インパクトを二つに大別、まず短期直接効果と
して省エネ効果93万キロリットルで、このC0,削減効果は40万トン(→全国民が66日間テ
レビを見ない場合の電力消費量に相当、全国民が使用する冷蔵庫の40日分の電力消費量に相
当、国内のすべての鉄道で使用する電力消費量の68日分に相当)、経済波及効果は9700
億円。長期間接効果として、地域活動の活発化で2億8000万人時間が地域に投資される
(→その経済効果は8800億円に相当)、屋上緑化は省エネ効果と経済効果の一石二鳥(→今後6年間で2500億円の経済効果)、サマータイムによる交通事故減少数は年間1万件
相当(→その経済効果は年間約460億円)、サマータイムによる明るい夕刻でひったくり
被害が減少(→通勤帰宅者の10%、買い物帰り客の4%が被害を免れる)、と試算していま
す。
ただし、これはどうも結論ありきの試算との印象を免れません。

サマータイムで交通事故は減るか

サマータイムの試算に関する報告書では、試算にもとづいた「交通量のピーク時に明るい
時間帯が増加するため、交通事故の発生件数が減少するものと推定される」との仮説があり
ます。しかし、この試算はどのように検証されたのでしょうか。
じつは、実際にサマータイム導入前後で、交通事故について検討した報告がいくつかあり
ます。イギリスにおいて、サマータイム制度を導入する以前の1970年と1971年を対
照年、制度導入後の1972年と1973年を実験年とし、春の時刻変更前後の1週間にお
ける、傷害を伴う交通事故の全件数を比較したところ、この時期の交通事故はサマータイム
制度導入以前の対照年ではO・6%減少していましたが、導入後の実験年では10・8%増加
したといいます。
同じく、1980年にサマータイム制度を導入した西ドイツ(当時)のハイデルベルクの
調査では、導入前と導入後Iカ月間の交通事故件数を調べたところ、導入後、交通事故が6
・O%増加し、とくに夕方から翌朝にかけて件数が増加していたのだそうです。
アメリカのカリフォルニア州では、1976年から1978年の3年間、春秋の時刻変更
前後—週間の交通事故件数が、春秋とも時刻変更後に増加しました。同じアメリカにおいて、1987年から1991年までの5年間の死亡交通事故件数を、春秋の時刻変更前後で
比較した調査では、秋の時刻変更後には、照度の低下が大きい午後2時の死亡事故が増加
し、一方、春の時刻変更後には、照度の上昇が大きい午後2時の交通事故は減少したとのこ
とです。
なお、カナダの交通事故件数は、春の時刻変更直後の月曜日に8%ほど増加し、秋では同
程度減少していますが、スウェーデンやフィンランドでは、春秋とも時刻変更後に交通事故
件数は変化していません。
このように、夏時間への変更後に交通事故が増加するという報告が多いのですが、その原
因としては、夏時間への移行時は、1時間の時刻前進による寝過ごしや睡眠不足が、一方、
標準時への復帰時は、1時間の時刻後退による光レベルの急激な低下が、それぞれ原因とし
て想定されています。ただし、交通事故件数は変わらないとの報告もあり、調査結果は必ず
しも一致していません。しかし、交通事故が減ったという報告は見当たらないのです。
以上を踏まえて前述の報告書の試算を見ると、交通事故発生件数は、交通量によるところ
が大きい、という仮定が出発点にあることがわかります。しかし人間側の要素、すなわち、
眠気や光の変化に対する反応性の変化等はまったく斟酌されていません。つまり、この試算
では、ヒトは24時間いつも同じに動くロボット、という仮説のもと、シミュレーションとはとてもいえない、単なる計算問題、しかも算数レベルの計算問題を解いているだけなので
す。交通事故は人間が運転する車により起きるものですが、この試算の申に、ヒトに関わる
要素は出てきません。
このように申し上げると反論もあるでしょう。試算では、サマータイムが実施された場
合、「季節別時間帯別の交通事故係数(自動車事故発生率)」は変わらず、交通量が1時間ず
つ早まる、という想定もしている、と。しかし、この二つの仮定で、サマータイムがヒトに
及ぼす影響を考えたことにしているのでしょうか。これはサマータイムがヒトに及ぼす影響
を考えるに際し、適切な仮定といえるでしょうか? 私にはとてもそのような仮定には思え
ません。
なぜなら、サマータイムがヒトに○○のような影響を与え、その結果、集中力、注意力が
○○のようになる、現状の交通量、事故件数にこのような影響を考慮すると○○のような結
果が得られる、という組み立ては行われていないのです。車を運転しているのがヒトである
という視点が無く、さらにヒトの行動は、光が影響する生体時計に支配されている、という
視点もありません。
この章のはじめに紹介したドイツの報告を考慮に入れると、サマータイムが実施された場
合、とくに春には睡眠時間が減り、「季節別時間帯別の交通事故係数」は大きく影響されるでしょう。この試算をなさった方は生体時計をはじめとする眠りに関する知識、あるいはヒ
トという動物が環境によって影響される存在であるという知識は皆無であった、と私は断言
できます。そして当然かもしれませんが、私には、この試算はほとんど意味が無いように見
えます。読者のみなさんはいかがでしょうか?

メディアリテラシーとは

2008年6月4日付の読売新聞では、サマータイムに関し「一度、導入してみては」と
いう社説が掲載されました。先に紹介した、社会経済生産性本部の試算を引用しての推進論
です。ただし、ここでは副作用もきちんと述べていました。
「金融機関のコンピューターの時刻変更や、航空・鉄道といった交通機関のダイヤ変更など
にコストと手間がかかる。まだ明るいからと残業が増えて、過剰労働が問題化する恐れもあ
る」
副作用に触れた点はすばらしいと思います。また、新聞社が残業の危険を述べたことにつ
いても、特筆すべき社説と評価したいと思います。ただし、触れられている副作用は残念な
がらこれだけ。健康への影響については触れてはくれませんでした。大手全国紙の社説を執
筆なさる方も、生体時計に関する知識は皆無であった、とは私は思いたくありません。紙面の都合で触れることができなかったと信じようと思います。
その後、読売新聞では、2008年6月13日付でサマータイムに関し、紙面を大きく使っ
て「基礎からわかるサマータイム」を掲載しています。その見出しは「省エネ効果期待」
で、やや小さい文字でその脇に「健康損なう懸念も」と、健康被害の可能性についても触れ
ています。全体として賛成論が7割の記事でしたが、4日から13日の間に読売新聞は多少な
りとも生体時計に関する勉強をしてくださったようです。
さらに読売新聞は、2008年7月2日には「論点」欄に、滋賀医科大学睡眠学講座教授
である大川匡子氏の「サマータイム制度 健康への影響 調査必要」と題する文章も掲載し
ています。読売新聞のサマータイム関連記事はなおも続きます。
7月6日には政治面で、「サマータイム 与野党二分」です。残念ながら、この政治面の
記事には健康への悪影響については記載されていません。議員の先生方は、どうもサマータ
イムの健康面への影響については関心が高くはないようです。賛成論に始まり、両論併記、
反対論、そして政治面での扱い、という読売新聞のサマータイムの扱いの変遷は、これから
触れるメディアリテラシーのいい教材ともなりそうです。
ところで、このメディアリテラシーという言葉はご存じでしょうか? ここ数年盛んに使
われるようになった言葉かと思います。フリー百科事典ウィキペディアによれば、「情報メディアを批判的に読み解いて、必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力の
こと。「情報を評価・識別する能力』ともいえる。ただし『情報を処理する能力』や「情報
を発信する能力』をメディアリテラシーと呼んでいる場合もある」とあります。さまざまな
情報の良否をきちんと峻別すること、といえましょうか。メディアに振り回され、右往左往
する姿勢はメディアリテラシーがあるとはいえない、ということになります。
前項では、政府発表は卸fみにできませんね、ということをお伝えしたかったわけです
が、このような指摘もメディアリテラシーの一環といえるかもしれません。大切なことは、
この記事で得た知識を、ご自身で噛み砕いて、しっかりと吟味していただくことだと思います。
ダイエット法の羅列には苦笑いなさる読者のみなさんの多くも、「発掘!あるある大事典H」
の納豆ダイエットには実に多くの方がコロッとだまされてしまったのではありませんか?
人の話は真に受けないで、いったんは必ず自分の頭で考えて、とはすでに申し上げました。

世界一の長寿国ではなくなる

「2008年6月26日にOECD(経済協力開発機構)が発表した
「ヘルスデータ2008」によると、加盟30ヵ国中、日本の平均寿命は82・4歳と最長で、
肥満者の割合は24・9%と最低(アメリカ67・3%、ドイツ49・6%、イタリア45・1%)です。これほど肥満が少なく寿命が長い国で、なぜメタボリックシンドローム対策に躍起に
なるのでしょうか?」と、書きました。しかし、じつは同じことは眠りについてもいえるの
かもしれません。「日本人は世界で一番眠ってないといっているけれど、日本は世界一の長
寿国ではないか」、おっしやるとおりです。ただ知っていただきたいデータ分析があります。
「沖縄県衛生環境研究所報」第40号(2006年)に掲載された、「沖縄県における平均寿
命、年齢調整死亡率、年齢階級別死亡率の推移(1973?2002)」という論文は、2
000年の都道府県別平均寿命で、沖縄県男性が1995年の4位から26位に急落したこと
を受けてのレポートです。都道府県別平均寿命は1921〜1925年のデータからあり、
沖縄県は当時男46・3歳(2位)、女50・5歳(1位)と長寿でした。復帰後の1975年
から沖縄県のデータが再び掲載され、1980年、1985年には男女とも全国1位となっ
て長寿県としてのイメージが定着しました。
しかし、沖縄県の寿命の延びは1990年代に入って急激に鈍化、2000年の死因別年
齢階級別死亡率は、壮年期、中年期の働き盛りの世代で悪化、とくに男性では、15〜49歳の
都道府県別死亡率がワースト5以内となりました。この分析結果から、論文では「壮年期の
死亡率が増加傾向にある脳出血、急性心筋梗塞、肝疾患、糖尿病など若い世代の生活習慣病
対策が緊急の課題」と結論づけています。このレポートは沖縄のデータですが、これが日本全国の明日ではないかと私は危惧してい
るのです。ちなみに、沖縄社会保険事務局のまとめによると、BMI(12ページ参照)が25
以上で肥満と判定された割合が、沖縄県では男性で46・9%、女性で26・1%に上り、男女
とも全国I位だそうです。また2006年10月実施の社会生活基本調査では、沖縄県の平均
就床時刻は午後‥‥11時22分(全国で早いほうから数えて38位、全国平均11時16分)と遅くなっ
ています。
注意すべきは、データとしての長寿は、戦争を体験し、戦後の厳しい時代を生き抜いた世
代が築いたデータだという点です。すくった砂が指の間から零れ落ちるように、働き盛り世
代が、じつは今、ドンドンと戦線を離脱している。肥満も、睡眠不足も、その副作用は働き
盛りのみなさんを直撃しているのです。実際、2008年7月5日付の朝日新聞には、40代
男性で高血圧による死の危険が突出している、との記事が掲載されました。同じく高血圧で
あっても、男性では高齢であるほど死亡するリスクが低く、リスクがもっとも高いのは40代
であった、という厚生労働省研究班の解析結果の報道です。現役ビジネスマンには見過ごせ
ないデータです。「日本は世界一の長寿国」というデータに惑わされないようにすることこ
そがメディアリテラシーの基本姿勢でしょう。

良質な睡眠をとるための条件

ある講演会の最後に次のようなご質問を受けました。
「良質の睡眠を得るために寝る部屋の環境について教えていただけませんでしょうか。寝る
時にどれくらいのルクスが適当であるかとか……」
これはよくいただく質問です。そして、以下が私の答えです。
「気温は24℃で、照度は23ルクス、騒音レベルは40デシベル以下がいいですね。……たとえ
ば、こういったとしますよね。できるわけがないんです。今のぼくの発言「気温は24℃で、
照度は23ルクス、騒音レベルは40デシベル以下』は冗談ですけれども、私は今日の話の中で
数字は極力出さないようにしてきました。どうしてかというと数字が出た瞬間、みなさんは
私が一生懸命説明してきた理屈をすっかり忘れ、数字のみを覚え、その数字にこだわってし
まうからです。
たとえば、朝7時といったって、12月の九州福岡だったら、まだ暗いです。ところが、6
月の北海道に行ってごらんなさい。3時から明るい。住んでいる場所、季節によって朝の明
るさはまったく変わってくるわけです。大事なのは朝早く起きるということ。そして、何時
に起きると早起きなのかについては、みなさん自身に考えていただくということなんです。仮に私が○時に起きましょう、そのようにいったとたん、私がこれまで話してきた理屈は
すっかり忘れ去られ、みなさんの頭の中には○という数字だけが残ってしまう。そして今日
は起きる時刻が○時10分になってしまった、などという本質とはかけ離れた悩みを持つよう
になってしまうのです。今の季節、ここでは何時が早起きになるかな、何時が早寝になるか
な、今の体調はどうかな、昨日は飲みすぎたな、などいろいろ考えて、あるいは感じて、ご
自身で、ご自分の身体の声を聞きながら、身体の声と相談しながら起床時刻や就床時刻をは
じめとする生活習慣をつくってみてください。私がいったから△時に寝る、インターネット
に書いてあったから▽時に起きる、というのではまずいと思いますよ。
話を光環境に戻します。光に対する感受性は非常に個人差が強いんです。だから朝日が大
切、夜の光はとんでもない、とは申しましたが、朝は何ルクスを何分浴びたらいいですよ、
夜は何ルクスを何分浴びたらいけませんよ、とはなかなかいいにくいのです。朝はなるべく
強い光を浴びてください、夜はなるべく光を浴びないでください、としかいえません。ただ
自然光の方が圧倒的に照度が高いんです。ですから、朝浴ぴるならなるべく自然光を浴びて
ください、ということになります。同じように、夜はなるべく光を浴びないでください、と
いうことになります。それはすべての光です。コンビニの光もそうだし、ディスプレイから
の光もそうだし、携帯電話の画面の光もすべて含まれますが、なるべく浴びないでください、ということです。
夜の光の悪影響は、生体時計とメラトニンヘの影響です。昔は、月明かり程度ではメラト
ニンに影響しないといわれてたんですけど、最近では、その程度でも影響があるといわれて
います。ですから、メラトニンを出そうと思ったら、真っ暗で寝るに限る、ということにな
ります。
ただ、人間はメラトニンを出すためだけに寝てるわけではなく、安全確認の点とか、真っ
暗だと怖いということもあります。また、人類はもともと、月明かりの下で寝てもいたでし
ょう。ですからなるべく暗いところで寝てくださいという程度でいいのではないかと思いま
す」

情報を吟味する必要性

2005年3月16日の朝です。私は、いつものように産経新聞と朝日新聞を、自宅近くの
コンビニで買いました。読売新聞と日本経済新聞は職場で取っています。いつものように産
経から開きました。いきなり第1面の左側にあった、カラーのグラフ入りの10段ぶち抜きの
記事が目に飛び込みました。見出しは、「自己中心で刹那的 日本の高校生 米中に比べ際
立つ低さ 国に誇り51% 親の面倒43%」で、日本青少年研究所などによる日米中3カ国の高校生、各1000人の「学習意欲と日常生活」に間する比較調査についての記事でした。
面白い内容で、いつもより時間をかけて読みました。
時間がなく、通勤途中には朝日にはあまり目を通す時間がなくなってしまいましたが、ざ
っとみたところでは同じような記事は目にとまりませんでした。職場で読売と日経を開く
と、どちらにも社会面に同じ調査に関する記事が。読売の見出しは「少年遊びやすく 学成
り難しp‥「ほとんど勉強しない」日本45% 米15% 中国8%」、日経は「日本の高校生
「学校外で勉強せず」45% 学習意欲の低さ鮮明に 国際比較 中国8%、米は15%」でし
た。読売新聞は社説でも「元気がないぞ日本の高校生」として取り上げていました。
そこでもう一度朝日新聞を探してみると……ありました。2面にベタ記事で「高校生の過
半数 就寝はO時過ぎ 「授業中居眠り・ぼうっと」7割」という見出しで載っていました。
さっそく毎日新聞を院内のコンビニで買い求めましたが、14版を見る限り、この調査結果に
間する記事は載っていません。
この調査の詳細は、インターネットで見ることができました。中には、私の立場からも非
常に興味深い調査結果がありました。何時に寝るかと聞いたところ、日本の高校生は6割が
O時を過ぎています。ところが、アメリカでは6割が午後11時前に寝ています。中国でも5
割が午後11時前に寝て、9割がO時前に寝るという状況でした。さて、私がこの日感じたのは、同じニュースソースであっても、新聞の見出しはこんなに
も違うのか、紙面での扱い方はこんなにも違うのか、ということです。この一件の教訓は、
もちろん、毎日最低3紙には目を通しましょう、などということではなく、私たちが接して
いる情報には、すでに相当なバイアスがかかり修飾されている、ということをしっかりとわ
かって情報に接しなければいけない、ということだと思います。情報を鵜呑みにしてはいけ
ない、情報に振りまわされてはいけないということです。

メディア業界のお得意様とは

さてなぜメディアリテラシーなのか、とお思いかもしれませんが、私があえてこの
項目を準備したのは、睡眠時間を奪うメディア、という視点がメディア業界には欠けていると
感じているからです。このことを端的に示す、メディア業界の方ご自身の言葉を紹介します。
「文藝春秋」2007年9月号に、「吉本興業がテレビを駄目にした」という記事がありま
す。サブタイトルは、「「ゲバゲバ』の天才プロデューサーが語るテレビ界への遺言」で、作
家小林信彦氏と元日本テレビプロデューサー井原高志氏の対談です。この対談で、井原氏は
「ゲバゲバ」誕生秘話を語っています。「この番組がスタートしたのは昭和四十四年の秋でしたが、当時のテレビを作っていた連中
は、僕を含めてみんな活字文化で育った世代です。
ところが、テレビ放送が始まって十五年以上経ち、テレビが各家庭へ普及したおかげで、
生まれたときからテレビを観てきた世代が小学生くらいになってきた。そこで、この映像人
間に向けた番組を作ったら絶対に当たる、と考えた。
では、子供は何を観ていたかといえば、CMなんです。ドラマでもヴァラエティでも、本
編は子供には長いしテンポもゆっくりだから、かったるい。よくテレビを観ていて、CMに
なると大人はトイレに行くといいますが、子供は逆です。CMの方を注視していたんです。
だから、「CMのテンポで本編を作ったら子供は絶対に観る」」
こうして始まった「ゲバゲバ」は大当たりをしました。
かつて、PTA全国協議会が子どもたちに見せたくない番組、として毎年上位にランクさ
れていた別の番組でも、土曜日の夜9時前のエンディングにはドリフターズの加藤茶さん
が、「歯磨けよ、早く寝ろよ」と子どもたちに語りかけてくれていました。あれは、「土曜は
9時まで起きていてもいいけど、平日は8時には寝なさい」というメッセージだと私は考え
ています。
しかし今では、メディアからは誰も子どもたちに、「寝なさい」とは呼びかけません。子どもたちこそが商業主義のよきターゲット、お得意様となってしまったのです。メディア業
界は子どもたちに寝てもらっては困るのです。いや、子どもたちに限らず、メディア業界は
視聴者に寝てもらっては困るのです。
新聞業界はどうでしょう。新聞記者の方と話をさせていただいた際、いつも私が伺うこと
にしている質問は、育児休業取得率についてです。2008年6月27日のNHKニュースに
よると、育児・介護休業法は、子どもが1歳になるまで従業員に育児休暇の取得を認め、子
育てを支援するよう事業主に義務づけていますが、厚生労働省の調査では、男性の育児休暇
の取得率はO・5%にとどまり、最初の子どもを産んだ女性はおよそ70%が退職するなど、
制度が十分に生かされていないのが現状だそうです。なお、育児休業の取得率の政府目標は
女性が80%、男性が10%です。

休息をとらない人々が流す情報

2007年10月2日付の産経新聞によると、労働政策研究・研修機構の調査では、過去3
年間に育休を取った男性社員が1人もいない企業は、約8割に上るのだそうです。このよう
な中、とくに新聞社は、男性社員が育児休業をとることが難しい職場のようです。男性社員
が育児休業を取ったということが、社内では大変なニュースになるといいます。新聞社ほど、育児休業をとりにくい職場環境は他にあまりみられないかもしれません。
ある新聞社の方が一度、私の睡眠外来にいらっしやったことがあります。疲れが取れな
い、きちんと眠りたい、ということでしたが、その方の生活パターンに私は絶句しました。
いくらお話を伺っても、眠る時間がないのです。おそらくその方は、「極上短時間睡眠メソ
ッド」のようなものを求めていらしたのでしょうが、そのようなメソッド、方法などあるは
ずがありません。私の説明を聞いて、その方も「そうですよね」とおっしやったきり、その
後、外来にはおいでになりませんでした。常識の通用しない職場のようです。そしてそのよ
うな新聞社が世論を形成するのです。ある点ではオピニオンリーダーなのです。
その新聞社が社会に対し、「育児休業を取りましょう」とアピールしています。覚めた目
で見ればすぐおわかりいただけると思いますが、自ら実践できていないメッセージに力があ
るわけがありません。育児休業取得が日本人の常識になるにはまだまだ時間がかかりそうで
す。
おそらくはすばらしい英知が集められている新聞社の方々の視点が、こと、休みや眠りの
話になると、どうしてかくも画一的になるのでしょうか? 眠りに思いを寄せる新聞記者の
方がいらっしやらないのはどうしてなのでしょうか? 眠りが大切、とメディア関係の方
は、どなたもお考えにはなってくださらないのではないかと危惧します。実際、メディア関係の仕事というのは、24時間情報が走り回っているわけで、眠りを大切
にしていては成り立たないのかもしれません。そのような、無理を押して疾走しているメデ
ィア業界から流される情報に、眠りが大切、というメッセージが入り込む余地はありませ
ん。「眠りは大切ではない」というメッセージが繰り返し、無意識にせよ、どのメディアか
らも伝えられているわけで、これはある意味恐ろしいまでの洗脳とすらいえるのではないで
しょうか。これが、私がメディアリテラシーの重要性を感じるゆえんです。
私は、過剰なメディア接触が奪うものとして、眠り、運動、それに生身の人間との顔を突
き合わせた付き合い、「face‐to‐faceの人間関係(対話)」を指摘しています。はじめの二
つは身体に不可欠な要素、最後の一つは人間社会形成に不可欠な要素、と考えています。ど
うも最近の日本社会には、対人関係のスキルが未熟な人間が増えている、とみなさんはお感
じになりませんか? 生身の人間との顔を突き合わせた付き合いがないと、対人関係のスキ
ルは育まれず、磨かれません。
対人関係のスキルは人間社会の基本です。会話の相手の声色の変化、視線の変化、その場
のなんとなくの雰囲気を悟り、会話の流れをつかむ、会話を誘導するということは、生身の
人間と顔を突き合わせてはじめて培われるものではないでしょうか。
21世紀に生きる人間は、眠り、運動、対話を重視する旧来の価値観に縛られず、新たな価値観で生きるべき、とおっしやる方もいるかもしれませんが、どうも私は古い人間のようで
す。メディアの利便性を否定するものではありませんが、節度ある使い方をすすめ、間違っ
てもメディアに人間が使われることなどないように心したいと考えています。

早起き早寝は5000年前から

最近目にしたインドの医学雑誌に、アーユルヴェーダには、健康によい事柄として、よい
行い、思考、食事、対人関係、身体活動、早起き、早寝が挙げられている、とありました。
フリー百科事典ウィキペディアによると、アーユルヴェーダは約5000年の歴史がある
インドの伝統的な学問で、その名はサンスクリット語の「アーユス(生気、生命)」と「ヴ
ェーダ(知識)」の複合語だそうです。現代でいう医学のみならず、生活の知恵、生命科学、
哲学の概念も含んでおり、チベット医学や古代ギリシャ、ペルシアの医学などにも影響を与
えたといわれているそうです。そしてアーユルヴェーダは、心、身体、行動や環境も含めた
全体としての調和が、健康にとって重要であり、病気になってしまってからそれを治すこと
より、病気になりにくい心身をつくること、病気を予防し、健康を維持するという「予防医
学」の考え方に立っています。以上をそのまま受け取れば、なんと、5000年前から早起
き早寝の大切さが指摘されていたということになります。
貝原益軒が1713年(正徳3年)に刊行した『養生訓」の巻第2総論下の冒頭には、
「凡(そ)朝は早くおきて、手と面を洗ひ、髪をゆひ、事をつとめ、食後にはまづ腹を多く
なで下し、食気をめぐらすべし」とあり、巻第2の巻末近くには「深更までねぶらざれば、精神しづまらず」とあります(以上、岩波文庫青10?1より)。早起き早寝のすすめといえ
るでしょう。
江戸時代後期、1832年(天保3年)発行の家庭の医学書、『病家須知』にも「夜は早
寝、朝は日の出ぬ前に起がよし(ヨルハハヤクネ、アサハヒノデヌマエニオキルガヨシ)」
とあります。
このように、生体時計もセロトニンもメラトニンも知らなかったはずの先人も、おそらく
は、自らの身体の声に耳をすませた末に、「早起き早寝」という結論にたどり着いたのでは
ないでしょうか。
ところで、「病家須知』には「眠を制べし(ネムリヲイマシムベシ)」ともあります。『養
生訓」にも「臥して寝る時間と回数とを少くせよ」とあります。実際、適切な睡眠時間の時
にBMI、死亡率は最低で、睡眠時間が減っても増えてもBMI、死亡率は上昇しますし、
寝すぎた休日の朝は、身体がシヤキツとせず、かえって体調がよくない、という経験は、少
なからぬ読者のみなさんもご経験がおありなのではないでしょうか。
そこで、「眠りすぎ」ると寿命が短くなる、ということがどうして起きるのか、について
181
敢えて仮説を述べようと思います。「眠りすぎ」はいかなる時間帯に眠りをとるにせよ、朝
の光を浴びる機会を減らしてしまうのではないか。そして朝の光の健康への影響は、現在われわれが知識を持っている以上にじつは大きいのではないか、という仮説です。
朝の光は、生体時計の周期を短くして、地球時間に合わせる力があります。朝の光は、心
を穏やかにするセロトニンの活性を高めてくれます。そして、セロトニンは生命活動の源を
担う脳幹部から脳全体に供給され、脳活動の微妙な調節を行っている神経伝達物質です。さ
らに光は、ストレスにあったときになくてはならない、ステロイドホルモンの分泌を高めて
くれます。
現在、私たちはこのような光の身体への作用を知っていますが、ひょっとしたら朝の光に
は、まだまだ私たちの知らない身体への良い効果が隠されているのかもしれません。という
ことは、「眠りすぎ」て、朝の光を浴び損ねることが、結局は健康を損ねることになるかも
しれないのです。
考えてみると、早起きのすすめは、ある意味惰眠の戒めともいえます。「眠りすぎ」るこ
とが、どうも健康には必ずしも良い影響を与えない、という事実から、早起きは健康増進の
きわめて大きなポイントであることを改めて私は想定してしまいます。むろん、まだまだわ
かっていないメカニズムのせいで、眠りすぎは健康によくないのかもしれません。この点は
今後の研究が待たれます。

脳の一部のみを眠らせる動物

人は眠る時、とくに、深い眠りである徐波睡眠の時には、大脳全体がほぼ同じように眠り
ます。脳波でも、ファンクショナルMRIという検査でも、そのことが確認できます。脳波
を見るポイントとしても、波の振幅や周波数の左右差がひどくないかどうかを見
る、と書きました。ヒトの脳波においては、とんでもない左右差はない、ということが普通
なのです。脳波では、左右両側の脳がいつもだいたい同じことをしているようにみえるわけ
です。
このようにいうと、「でも右脳と左脳とでは働きが違うというではないか」とおっしやる
方もおいでと思います。たしかに右と左の脳の働きは違っています。たとえば、損傷すると
失語症を起こすような脳の場所を言語野と呼びますが、90%以上の人では言語野は左脳にあ
ります。もっとも、右利きの人で数%、左利きの人ではもう少し多い方が、右脳に言語野を
持つことが知られています。
とはいっても、現在、病院で普通に行われている脳波の検査で、このような働きの違いを
検出できるかといえばそれはできません。普通の脳波についていえば、あくまで左右差が目
立たない脳波がいつも記録されるのです。ところが、水生哺乳類や鳥類の中には、大脳を半分ずつ寝かせることのできる動物がいる
のです。片側の大脳半球は脳波でみると徐波睡眠になっているのですが、もう一方の大脳半
球の脳波は起きている時と区別のつかない脳波パターンを示すということが、イルカやクジ
ラで見られています。イルカやクジラが脳の半分だけを眠らせている時、彼らは呼吸するた
めに水面近くで静止しているか、ゆっくり泳ぐかしていて、片方の目は開いています。そし
て開いている目の反対側の大脳半球、つまりは目を閉じている側の大脳は起きているときと
同じような脳波になっているのです。また、マナティーも片側の脳だけを眠らせることがで
きます。
一方、アザラシやアシカでは、水中生活時と陸上生活時とで眠りが異なるようです。水中
生活時にはクジラと同じように片方の脳だけを交互に眠らせます。ところが陸上生活をする
時には、両側の大脳半球が同時に眠りに入ります。
また、アヒルが並んで寝ている時、列の両端のアヒルは、列の外側の目を開けているそう
です。両端以外のアヒルは両目を閉じて寝ているのだそうですが、両側のアヒルは、まるで
片方の目で見張りをしているかのように、列の外側に当たる片目を開けて、列の内側に当た
る目は閉じているのだそうです。そしてクジラやイルカと同じに、開いている目の反対側の
大脳半球、つまりは目を閉じている側の大脳は起きており、閉じている目の反対側の大脳半球、つまりは目を開いている側の大脳は寝ているわけです。
水生哺乳類、鳥類で認められるこのような片側の脳だけでの眠りは、脳の一部のみを眠ら
せることができるということを示しているわけで、生物にとっては新たな生存戦略となる可
能性があるのではないでしょうか。
毎年、春と秋に約4000キロメートルを移動する習性を持つ、ミヤマシトドという鳥が
います。この鳥で学習・記憶能力と眠りとの関連を調べた方がいます。その結果、非移動期
間には、一晩睡眠を制限しただけでも学習の正確さと反応性が損なわれるのですが、移動期
間中には、睡眠時間が3分の2に減少しても、同じ作業の正確さと反応性が保たれることが
わかったのだそうです。
これは、その時の環境、状況で、眠りの重要度が変わる可能性を示唆しています。このよ
うなことがどのようなメカニズムで起きるのかについての解明は、眠りの働きを考える上か
らも極めて興味ある研究ですし、眠らなければいけない時と、眠らなくともよい時とを、コ
ントロールできるようになる可能性も秘めているのではないでしょうか。極めて魅力的な、
生存戦略の開発に繋がる可能性のある研究テーマだと思います。

眠らずにすむクスリと眠るクスリ

ナルコレプシーという、日中にとんでもない眠気に襲われる病気の患者さんの中には、オ
レキシンという、覚醒を促し食欲を増す作用のあるホルモンをつくる神経細胞が傷んで、オ
レキシンが少ない方がいるというのは前述したとおりです。そこで、このオレキシンを眠気
覚ましの薬として使用できないだろうか、という試みが始まっています。
30〜36時間寝かせないでおいたサルを使った実験の話です。長時間寝ないでいると、脳の
働きが低下することはすでにご紹介しました。そして、寝不足では短期記憶も悪くなること
がわかっています。そこで研究者たちは、30〜36時間寝かせないでおいたサルの鼻腔内にオレキシンを投与して、短期記憶のテストを行ったのです。すると短期記憶に関するテストの
成績が改善したのだそうです。研究者たちは、寝不足で悪くなった脳の働きをオレキシンが
改善させる可能性がある、という結論を出しています。
さて、この実験結果をみなさんはどのようにお考えになりますか。「すばらしい!」「これ
で寝なくとも作業能率は下がらない」「寝ないで仕事ができるようになる」「仕事も遊びもこ
れさえあれば百人力だ」などの声が間こえてきそうです。しかし、正直にいって私は、大丈
夫かな? と不安です。たしかに脳の働きは改善したかもしれませんが、身体の働きはどうなのでしょうか。オレキシンの作用が切れた後の脳の状態はどうなのでしょうか。短期記憶
は改善したとして、理知的な判断力は大丈夫なのでしょうか。
寝ないですむクスリ、といったように、センセーショナルに捉えて飛びつくのではなく、
もう少しさまざまな実験結果を見極めたいと思います。じつはもうすでに、ナルコレプシー
に効果のあるクスリが「寝ないですむクスリ」として、交代勤務者などの間で盛んに使われ
ているという話も聞いたことがあります。たしかに短期的には寝ないですむかもしれません
が、長期的な副作用についてはどうでしょうか。起きている時の覚醒の質は本当に保証され
ているのでしょうか? 私は、どちらかというと、ずっと起きていたりしないですむ社会を
目指す方向を好ましく感じますが。
要するに、今後みなさんが欲しいものは何か。眠るためのクスリか、それとも眠くならな
いクスリか、ということなのだと思います。この二つの差は大きく、議論を始めると尽きな
いのではないかと思います。私は気持ちよく寝たい派ですが、読者のみなさんはいかがでし
ょう。眠りたいですか? それとも眠りたくないですか?
次項から、独断と偏見で、眠りを上手に人生に取り入れる方法を説きます。

人生がうまくいく睡眠術

このページでお伝えしたいことの6項目
①ヒトは寝て食べて、はじめて活動できる動物ですよ。
②ヒトという動物は朝は光を浴びて、昼間は活発に動いて、夜は暗いところで眠ると、心
身の調子がよくなるようにできているんですよ。
③睡眠時間さえ取ればいつ寝てもいいということは必ずしもみなには当てはまりませんよ。
④短時間のうたた寝はその後のパフォーマンスを高めますよ。
⑤ヒトは午前中に心身の活動のピークがあるようにプログラムされている動物ですよ。
⑥ヒトの脳に備わっている生体時計の特徴を知って暮らしたほうが心身のためにいいです
そのほか、睡眠衛生の基本として、
①朝の光を浴びる
②昼間に光を浴びる
③しっかりと手を振って歩く
④規則的な食事をする
⑤夜には光を浴びない
の5項目を挙げました。
これらの思いを、この記事の最後に8項目にまとめ直しました。おさらいですが、セロトニン
は生命活動の源を担う脳幹部から脳全体に供給され、脳活動の微妙な調節を行い、心を穏や
かにする働きがあると考えられている神経伝達物質だと申し上げました。そしてメラトニン
は、朝目が覚めてから14〜16時間して夜暗くなると、脳の奥深くにある松果体でつくられ分
泌され、酸素の毒性から細胞を守り、眠気をもたらすホルモン。これは昼間に光を浴びるこ
とで、夜の分泌量が高まることも知られています。さらに、こうした事柄の基本には生体時
計があります。
従来の生活ではごく普通に高まっていたセロトニンとメラトニンの働きも、現代社会で高
めることはとても困難で、相当に意識をしなければならなくなりました。さらには、眠りそ
のものも相当に意識しなければ確保できない時代となっています。
この章では、生体時計を常に意識しつつ、セロトニンとメラトニンの活性を高めて眠りを
確保するための心がけ、という形で次の8ヵ条にまとめました。
①ためしに一度は朝スペを!
②無理なく続く運動を
③よーく噛んで、なるべく会食
④笑ってセロトニンアップ
⑤少しのうたた寝が効果抜群
⑥メディアより身体の声を聞く
⑦ぐっすり寝る段取りを確立
⑧夜の明かりに注意を払う
内容については、前述したことも多々ありますが、もう少し詳しく付け足したいこともあ
りますので、項目ごとに説明していきましょう。

ためしに一度は朝スペを!

朝の光には、大多数の方で周期が24時間よりも長い生体時計の周期を短くして地球時間に
合わせてくれる働きと、セロトニンの働きを高める働きとがあるのでした。
2005年新年の「日経ビジネスアソシエ」1月4日号は「2005年は「朝」を極め
る!」と題した特集を組み、サブタイトルは「能率を上げ、新たなチャンスを創造する
『最後のビジネス資源」活用術」でした。朝の光が生体時計には必要で、朝型のほうが一般
的には有利に作用することが多いことは見てきたとおりですが、まずは15分早起きを試してみてはどうでしょう。そしてあなた独自の朝スペを実践してはいかがでしょうか。ストレッ
チ、外国語の学習などほんのわずか15分だけですが、スペシャルメニューを考えてみましょ
う。あなたのスキルアップ、健康増進につながるかもしれません。
ではどうやって早起きをするか、ですが、コルチコステロイドというストレスホルモンが
朝たっぷり出るホルモンだということはすでに紹介しました。このコルチコステロイドの分
泌を促すACTHというホルモンも朝たっぷり出ます。
このACTHを一晩中測ったデータがあります。明日の朝9時に起きるぞと前の晩に思っ
ておくと、ACTHは朝9時に向かって増えます。明日の朝6時に起きるぞと思っておく
と、ACTHは4時半くらいから増え出します。当然ですけれども、明日の朝9時に起きる
ぞと恩って6時にたたき起こされるとACTHは起こされてから急に増えることになりま
す。これは、決して気持ちのよい目覚めでないことがおわかりいただけると思います。つま
り朝早く気持ちよく目覚めようと恩ったら、前の晩に明日の朝は何時に起きるぞと気合を入
れて寝るということが大事、というわけです。早起きには気合が大事、というデータのご紹
介でした。
なお絶対に間違えていただきたくないのは気合の使い方です。昼間の眠気を気合と根性で
乗りきろうなどという危ないことは絶対やめてください。昼間眠くなったら、まず寝ることです。寝た後で、何時に眠くなったのかを考える。午後の2時に眠くなったら、これは居眠
りすればいいということになります。午前中に眠くなったら、寝た後でご自身の眠りの量・
質、あるいは生活リズムに思いをはせていただければと思います。
いうまでもありませんが、早起き夜ふかしでは睡眠不足になってしまいます。早起き分の
15分とできればあと少し早寝して、睡眠時間を増やしてみませんか。早起き分の15分にさら
に15分、つまりは30分早寝をすれば睡眠時間は15分増えます。当然ですが、早起き分の15分
に加え30分、つまりは15分十30分で45分早寝をすれば、それは30分睡眠時間を増やすことに
なるのです。

無理なく続く運動を

リズミカルな筋肉運動がセロトニンの働きを高めます。しっかりと手を振って歩くことが
基本です。
セロトニンはご存じなくても、運動が大切なことは多くのみなさんがご存じでしょう。し
かし、わかっていてもなかなかできないものです。
「運動はしたほうがいいらしい。じやあ仕事が終わってからジムに行こう」、このような考
え方も出てくるとは思いますが、これはおすすめできません。すでに申し上げたように、運動すると交感神経が興奮します。交感神経は、夜寝ている間には活動を休めている神経で
す。ですから夜になってから運動すると、本来休むべき交感神経が休めず、眠りづらくなっ
てしまいます。
昼間に身体を動かすことを考えてください。そんなことできるわけがない、などとおっし
やらず、身近なところを見回してみてください。オフィスが3階なら階段を使い、9階なら
7階まではエレベーターを使う。
晴れの日には、通勤で降りる駅を一つ手前にして歩いてみる。雨の日で外歩きが億劫な
ら、その日は駅構内のエスカレーターを使わない。このように、いくらでも身体を動かす機
会は周りに転がっているのではないでしょうか。

よーく噛んで、なるべく会食

噛むことはリズミカルな筋肉運動の代表で、セロトニンの働きを高める可能性がありま
す。
ガムを噛むことでセロトニンが高まる、という報告もあるようです。また、噛むことで脳
への血流が増し、あごも鍛えられるようです。鍛えられたあごは、しっかりとしたつくりと
なります。華奢で小さなあごでは気道が狭くなりがちで、睡眠時無呼吸も起こりやすくなります。
最近の食材は軟らかいものが多く、噛むことが疎かにされがちです。ぜひ硬いものも積極
的に召し上がってください。そしてなるべくなら、食事どきにはテレビを消して、会話を楽
しみたいものです。会話による脳の活性化も、脳の働きを保つために大切にしてください。
カロリー計算、塩分計算、食事内容についての吟味も必要ではありますが、それより、食
事をきちんと摂る、できるならおいしそうだと感じたものを摂る、ということが大切だと思
います。ある時間に食事をしたことを脳は約48時間覚えている、ということは前にお話しし
ました。規則正しい食事が、生活リズムを整える上で思いのほか大切なのです。
眠りをもたらす食品もあります。たしかに個別の製品開発の過程では、眠りを促す証拠が
得られているかもしれませんが、睡眠物質は何種類も見つかっており、眠りのメカニズムは
複雑です。実験ではさまざまな条件を整えて調べ、眠りを促す効果が証明されたかもしれま
せんが、実生活の中では、これが100%通用するとは限りません。昼間の活動量、精神状
態など、さまざまな要因に眠りは影響されるのです。
もちろん、ある食品を信じて使用することを否定しているのではありません。入眠儀式と
して安心して眠るための条件となっている可能性もあります。申し上げたいことは、あれこ
れ眠るためのサプリメントを考えるよりも、ほかの要素の影響のほうが大きいのではないでしょうか、ということです。

笑ってセロトニンアップ

2008年6月15日付の産経新聞第1面、「ひらめき進化論」という連載に、前田義子氏
(フオクシー社主)の「笑顔上手は交渉上手」が掲載されました。じつにすばらしい文章で
す。笑顔がパスポート写真として不適切とされていることに異を唱え、外務省相手に笑顔を
絶やさない交渉の末、笑顔のパスポート写真に許可を得た、というご自身の経験を中心に、
笑顔の大切さを展開しています。
「国際社会では日本が規定するパスポート写真のような生真面目な表情だと、交流や交渉
上、明らかにマイナスだと知るべきだ」「人と人、組織と組織、国と国ではつねに利害が対
立する。その調整のために会議や交渉を重ねるわけだが、そこでは精神的なゆとりを持った
方が強い」「……ゆとりの有無を、人は表情から読み取る。笑顔は心に余裕がある証しなの
である」「私のお店では、バックヤードから売り場に通じるドアには、内側に必ず鏡が張っ
てある。お客さまに笑顔で接客する心の準備ができているかを確認するためだ。オフィスで
も、会議室をはじめ、すべての部屋に鏡を置いている。笑えるゆとりがない環境では、意思
疎通は円滑に進まないという思いからだ。激論の最中に自分の顔をふと鏡で見ると、互いにギョッとして冷静に戻れるかもしれない」「重要な交渉事の前には、化粧室で鏡を見ながら
ほほえみをチェックして、肩の力を抜いてリラックスしよう」
笑う門には福来る、ということなのです。このように、笑顔は対人関係のスキルの一環で
すが、投資費用ゼロ、誰でもいつでも使用できます。自分という商品価値を高めるために、
使わない手はないと思います。今すぐ使ってみてください。なお、前田義子氏による使用上
の注意は、「口角が下がるとニッコリではなく二夕二夕になる」とのことです。
セロトニン研究の第一人者である東邦大学医学部の有田秀穂教授は、一般書(「〈うつ・キ
レる〉を治すトレーニング 脳内セロトニン神経強化法実践10ヵ条」宝島社)の中で次のよ
うに述べていらっしやいます。
「セロトニン神経の活性化という観点に立てば、笑う行為は、ガムの咀嚼運動と同じく顔筋
をリズミカルに動かしますから、やはり同じ効果を生むものと思います。
大きく口を開けて、声を出して笑えば、呼気中心の腹筋呼吸にもなりますから、セロトニ
ントレーニングとしてはダブル効果ということになるでしょう」

少しのうたた寝が効果抜群

リフレッシュタイムを積極的に取ってください。その後の能率がびっくりするほど上がるはずです。眠い目をこすって仕事をしていても能率が上がるわけがありません。
ただし、うたた寝、リフレッシュタイムは「ちょっと」がポイントです。30分以上寝た
り、しっかりお布団に入って眠ることはお勧めしません。
作業机でうたた寝、がお勧めです。
広島大学総合科学部教授の堀忠雄博士は、うたた寝の前にお茶や紅茶など、カフェインを
含むものを飲むことを勧めていらっしやいます。飲んだカフェインが吸収され、10〜15分し
て効果を表すので、目覚めがスッキリ、というわけです。
チョコレートを食べてうたた寝するのも悪くはないかもしれませんが、その場合、虫歯に
は要注意です。

メディアより身体の声を聞く

メディアではじつにさまざまな情報が行き交っています。すべてに目を通すことなど不可
能です。それでも、ついつい情報を追いかけてしまいます。
ここで「待った」です。メディア情報を誰よりも早く得、瞬時に判断することばかりでい
いのでしょうか? 次から次へと際限なく流される情報を、個人レベルで的確に取捨選択で
きるのでしょうか?興味がない場合は、ロックバンドの演奏の中でも子どもは寝ることができます。自分に関
係のない情報を、おそらく、人はシャットアウトする能力を持っているのだと思います。す
ると、情報の胆爽の中にいるあなた、本当に情報に的確な反応ができているのでしょうか。
きちんと判断できているのでしょうか。なんとなくの惰性で、無数の情報に接しているだけ
ではありませんか? 情報の波に飲み込まれるくらいなら、ぜひ、情報に耳を傾けるのでは
なく、自分の身体の声に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
今、この記事を読んでいらっしやるあなた、今、何を食べたいですか? すぐに答えられた
方はどれくらいいらっしやるでしょうか。今あなたが食べたいと思い浮かべたものは、おそ
らくはあなたの身体が欲しがっているものだと思います。それがあなたの身体の声です。で
も自分の身体の声を聞く、自分の身体の声に耳を傾ける機会は、本当に減ってしまったと思
います。何かを食べるとき、現在、多くの人が使うのは、鼻ではなく目。しかもその目の先
にあるのは食べ物ではなく、消費期限の表示欄です。みな自分の五感に自信がなくなってし
まっているのです。
私は、ストイックな意味で早起きをと勧めているつもりはありません。早起きをして朝日
を見ると、ああ気持ちいい、となるこの感覚を一人でも多くの方に感じていただけたら、と
思うのです。早起きが、みなさんの五感を多少とも磨くきっかけになるのではないかと考えています。人のいうことを鵜呑みにしないで、自分に自信を持ちたいものです。
自分の身体の声を聞く、自分の身体の声に耳を傾ける、ということは、ご自身の長年の
「慣れ」や「くせ」を大切にする、ということにもつながると思います。この記事には○○と書
いてあるけど、私は△▽で調子がいいんだ。このようなことは多々あると思います。現時点
では「慣れ」とか「くせ」とかいわれている事柄でも、その脳内メカニズムが明らかになる
日が来るかもしれません。
長年の「慣れ」とか「くせ」を大切に!

ぐっすり寝る段取りを確立

眠るまでの段取り、入眠儀式を大事にしてください。眠るという行為は、非常に無防備で
危険きわまりない行為です。ですから、眠る前に自分の身の回りの安全を確認するというの
は、おそらくは生物学的にも非常に大事だと思います。周囲に対する安心があってはじめて
睡眠中枢が働くことができる、というような脳内メカニズムがあるとさえ考えています。
本を読む、音楽を聴く、寝間着に着替える、翌日の準備をする、なんでもいいと思います。
けれども、その方にあった入眠儀式、眠るまでの段取りを決めて、大切にしていただければ
と思います。ただ、自分の入眠儀式は何だろう、などと悩みすぎないでください。うまく眠れたときのことをちょっと思い出して、気づいたものがあればそれがきっとあなたの入眠儀
式です。そんなものはない、とおっしやる方もおいでかもしれませんが、そのような場合に
はいろいろと試してみてはいかがでしょうか?
アロマやストレッチ、半身浴など、あなた好みの段取りが見つかりますように。

夜の明かりに注意を払う

生体時計もメラトニンも、夜の光を嫌がります。コンビニの明かりや、部屋に漏れ入る街
灯にも注意してください。もちろんさまざまなディスプレイ類も要注意です。それでもやむ
を得ず使用するなら、生体時計にやさしい白熱灯、あるいは電球形蛍光灯なら「電球色」を
お勤めします。
サーカディアンライティング、という言葉をここでご紹介しておきましょう。人に優しい
光環境です。「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少しあかりて、紫だちたる雲
の細くたなびきたる」これは「枕草子』の第1段です。そして第234段は、「日は入り
日。入りはてぬる山の端に、光なほとまりて赤う見ゆるに、薄黄ばみたる雲のたなびきわた
りたる、いとあはれなり」。「枕草子』に真昼の太陽の日差しに関する記述はないようです
が、この両段はサーカディアンライティングに関する見事な描写です。午前中の青は覚酸度を高め、夕方の茜色は安らぎをもたらすといわれています。明るさの
みならず色調も、日中絶えず変化しているのです。これがサーカディアンライティングで、
高齢者の保健施設などで取り入れているところもあると聞いています。
2007年12月19日、政府が白熱電球から電球形蛍光灯への切り替えを促す、と発表しま
した。白熱電球は電力消費が大きくエネルギー利用効率が悪い一方、電球形蛍光灯は消費電
力が少なく、長持ちするからだそうです。
注意していただきたいのは、この電球形蛍光灯には「昼白色」と「電球色」という選択肢
がある点です。「昼白色」は短波長光(青色光、高色温度光)で、朝や午前中の光と同じく
目を覚ます働きがある一方で、深い眠りを妨げるといわれています。そして「電球色」は夕
陽を思わせる赤っぽい光で、気持ちをリラックスさせる作用があるといわれています。つま
り、夕方から夜の光としては、普通のご家庭ならば「電球色」が望ましく、「昼白色」は夜
中にも働いている職場、たとえば夜中に眠くなっては困る職場の光としては大切な光、とい
うことになります。
地球は周期24時間で自転している、ということが事実であることと同様に、ヒトは寝て食
べてはじめて活動できるようにプログラムされている動物です。ヒトは、寝ないで食べないで活動しようにも、活動できないようにプログラムされている動物なのです。そして、ヒト
は昼行性の動物。好むと好まざるとにかかわらず、最近の脳科学の知見を総合すると、ヒト
の脳は、昼間に活動するようにプログラムされているようです。
タバコやお酒の飲みすぎが悪いことは、どなたもご存じのことでしょう。しかし、夜ふか
しが心身にどれだけ良くないことなのか、それについてはあまり多くの方はご存じないと私
は感じています。
私も夜ふかしをすることがありますが、そのことが決してよろしくないことは、みなさん
以上に知っているつもりです。どうしろこうしろとは申しませんが、夜ふかしが私たち自身
にどのように影響するか、それを知っていただければと思います。
むろん、個人差もあり、慣れやくせもあります。ご自身の身体の声と相談して、折り合い
をつけて過ごしていただければと思います。撚だが、みなさんの毎日に多少でも参考になれば幸いです。

生体時計を考慮した生き方

以下は産経新聞の連載、「日本の未来を考える」での、東京大学大学院伊藤元重教授の「炭素税にも「長所』がある」と題する文章の冒頭です(東京版2008年7月5日付、大
阪版2008年7月6日付)。
「ある経済学者がどこかで書いていたが、人間はインセンティブ(動機付け)によって動か
される存在である。もう少し厳しい言い方をすれば、『人間はインセンティプの奴隷』であ
る。少し前にガソリン価格が暫定税率の一時停止によって大幅に下がった時、ガソリンスタ
ンドには給油のための列ができた。安いガソリンを求めて大挙して動く人々の姿の中には、
ガソリンをたくさん使えば地球温暖化がますます進むという考えを見ることはできなかっ
た。結局、ガソリンなどの炭素燃料の価格が高くならない限り、人々の温暖化ガス排出抑制
のインセンティプを十分に引き出すことはできないのであろう」
私は、杏林大学川村治子教授の言葉を引用して、「危険回避行動の最大の動機は適切で必要十分な不安、そして適切で必要十分な不安が生じるためには、的確な知識の裏づけが必要
不可欠」と述べ、眠りを疎かにすることの弊害について紹介してきました。
しかし、伊藤教授の指摘に従うと、理屈を伝えただけでは、行動変位を期待することは難
しいのかもしれません。哀しいことですが、職員に残業を課した企業への課税や、育児休業
取得の義務化などを法令化しないと、インセンティブは働かないのかもしれません。いつの
まにか私たちは、拝金主義(money‐oriented life style)にすっかり染まりきってしまった
ようです。でも私は政治家ではありません。さまざまな機会を捉え、「理屈」をみなさんに
紹介していくしかできることはありません。
ヒトの脳を三つの層に分けて考えることがあります。脳幹部、大脳辺縁系、大脳皮質の三
つです。脳幹部では呼吸、循環等、基本的な「いのち」の維持を担っています。脳幹部は
「生きる」脳です。脳幹部の上層である大脳辺縁系は、食欲、性欲、生体時計を含む自律神
経活動、情動と関連し、「気持ち」を担っているといえるでしょう。大脳辺縁系は「感じる」
脳です。そして、大脳辺縁系の上層には、企画や創造を担う大脳皮質があり、ヒトのこの部
分は高度に発達しています。「人智」の源といえるでしょう。大脳皮質は「考える」脳です。
世の中では、たくさんの生体時計に都合の悪いことが、そうとは気づかれぬまま行われて
います。夜スペ、サマータイム、「24時間テレピ」……。このようなことを考え付くのはもちろん人間です。このような思い付きは普通「工夫」と呼ばれて尊重されます。ですから
「工夫」は脳、先の3層構造では大脳皮質、なかでも前頭葉がっくり出したものといえるで
しょう。前頭葉は脳幹部や大脳辺縁系があって初めてあり得るわけで、当然、脳幹部や大脳
辺縁系に不都合なことはできないのが道理です。ところが、前頭葉(人智=考える)が自信
を持ちすぎ、脳幹部(いのち=生きる)や大脳辺縁系(気持ち=感じる)を無視した「工
夫」を次々に出し始めた、というのが現状なのではないでしょうか。地球システムに、必ず
しも適切ではなくなってしまった人間の存在と似ています。
この記事で、私は生体時計や脳幹部に焦点を当ててきました。前頭葉を尊重しないわけではあ
りませんが、脳幹部や大脳辺縁系なくして前頭葉は存在し得ないのだ、という当たり前の大
原則を確認する必要があるのではないかと感じているからです。いのちや気持ち、生きるこ
とや感じることを大切にしてこその人智といえるのではないでしょうか。
それが「生体時計を考慮した生き方」の提唱です。日本の指導者のみなさんが前頭葉(人
智)を駆使して提案してくださる工夫に対し、私たち一人ひとりが脳幹部(いのち)や大脳
辺縁系(気持ち)のレベルで、その工夫を検証する必要があると思うのです。
もちろん指導者のみなさんにも脳幹部(いのち)や大脳辺縁系(気持ち)のレベルに思い
をはせていただく必要はあります。もう少し五感を磨き、もう少しだけ、自分の身体の声に耳を傾ける、という習慣に立ち返ることが必要なのだと思います。
前頭葉(人智)の暴走を許しては生きていけません。前頭葉(人智)の暴走を許しては、
社会そのものの存在が脅かされてしまう危険もあるのではないでしょうか。ヒトはあくまで
周期24時間の地球で生かされている動物なのです。ぜひとも、「生体時計を考慮した生き方」
や「自分の身体の声に耳を傾けるという習慣」について、いま一度考えてみていただきたい
と思います。そのことが、結局は実現可能で人に優しい「工夫」となり、一人ひとりの充実
した「生」につながるのだと思います。そして「生」のなかには、私の大好きな「眠り」も
含まれている、というわけです。
お金も人間が考え出した「工夫」の一つに過ぎません。拝金主義から、生体時計を考慮し
た生き方へ、そして、生体時計を尊重した社会へと導いてくれるのも人間の工夫でしょう。
睡眠薬の通販サイトは、こちら→お薬館
 

-睡眠
-

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

お薬館の睡眠薬の通販が人気!

目次1 お薬館は睡眠薬の通販で人気2 お薬館の睡眠薬通販の口コミ3 お薬館のデパスのジェネリック4 お薬館のエチラーム・エチゲンはデパスのジェネリック5 お薬館は、こちら お薬館 お薬館は睡眠薬の通販 …

睡眠薬

目次1 ヒトは何のために眠るのか?2 睡眠の段階を表す脳波3 睡眠の周期4 ノンレム睡眠とレム睡眠の違い4.1 睡眠随伴現象5 睡眠障害と不眠とその原因6 不眠の診断と治療6.1 睡眠薬を使わない治療 …

内科・精神科的障害にかかわる睡眠障害

目次1 内科・精神科的障害にかかわる睡眠障害2 精神障害に伴う睡眠障害3 神経疾患に伴う睡眠障害3.1 睡眠関連てんかん3.2 睡眠関連頭痛4 その他の内科的疾患に伴う睡眠障害 内科・精神科的障害にか …

睡眠の雑学

目次1 睡眠と死2 睡眠中の脳波の発見2.1 睡眠実験室で睡眠を測る3 K複合波と睡眠紡錘波4 デルタ波と深い睡眠 睡眠の雑学 睡眠と死 人類共通の現象 人生のおよそ3分の1の時間を人は睡眠についやす …

睡眠薬の飲み方と飲むときの注意

目次1 不眠のタイプに合う睡眠薬を選ぶ1.1 睡眠薬はやめられるかー睡眠薬を正しく理解する2 睡眠薬に関するQ&A3 睡眠薬用語解説3.1 主な睡眠薬 睡眠薬の飲み方と飲むときの注意 これまで …