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向精神薬の多剤併用処方

投稿日:

多剤併用処方の実例

平成27年10月某日、人和病院の門前
調剤薬局。
「先輩、これ、どう思います?」
新人薬剤師の木村美穂が薬局長の松本
裕子に処方蓬を見せた。
酷い多剤併用処方だ。
しかし、処方医の名前をみて、松本は
言葉を飲み込んだ。

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通常、向精神薬の多剤併用処方は、精
神科医の未熟さの表れだ。
こうした処方・を持ってくる患者の表
情は冴えない。
しかし、佐々木哲也。
この医師に限っては違うのだ。
魔術処方という言葉を思い出した。
向精神楽の多用併用処方は今に始まっ
たことではない。
松本が新人の頃、先輩薬剤師達は調剤
に無駄な手間のかかる多剤併用処方を、
カクテル処方とか魔術処方とか呼んで
いた。
薬剤師が医師を批判することは出来な
い。
そこで、ささやかな抗議の意味を込め
て、精神科医を揶揄していたのだ。
カクテル処方という言葉は今でも使用
される。
しかし、魔術処方という言葉は使われ
なくなった。
魔術処方とは、医学ではなく魔術に基
づいた処方という意味だ。
だが、処方医に対する侮蔑が込められ
ているし、患者にもイタズラに不安を
与える。
そして何よりも魔力を失った。
そうしたことが、魔術処方という言葉
は使われなくなった理由だろう。
薬理学的に無意味に多剤併用されてい
る向精神薬。
しかし、そんな処方でも、昔は魔術の
ように患者は良くなっていった。
それは何故か・・・・・?
昔は、精神科受診に対する偏見が強く、
外聞を気にして、かなり具合が悪くな
るまで治療を受けないことが多かった。
受診する頃には、かなり重症になって
いて、激しい錯乱状態を呈することさ
えあった。
だから拙劣な処方でも、多くの患者が
最も酷い病状からは少なからず改善し
ていった。
たぶん、そんなことではなかろう
カゝ・・・?
しかし、最近は軽症の患者が多くなり、
昔のような治療の手ごたえはなくなっ
ている。
患者のドクターショッピング等の要因
もあり、精神利・の処方は時に混乱した
ものになる。
例えば、不安を訴え来院した患者にロ
ラゼパムという抗不安薬を処方する。
次回米院すると、実は、以前からエチゾラムという抗不安薬が、降圧薬と一
緒に循環器内科で処方されていたこと
が分かる。
精神科を受診したことを知った内利・医
から、次回からは精神科で処方しても
らうように言われたのだ。
患者は、十分とはいえないが、以前よ
りは良くなっている。
エチゾラムの中止を伝えると、
「以前エチゾラムを服用しなかったら、
凄く血圧が高くなった事があるので
す。」
と患者が不安を募らせるため、エチゾ
ラムの中止は、もっと病状が改善して
からということになる。
これで2種類。
その後、やはり時々激しい不安が生じ
るが、眠くて困るというため、タンド
スピロンという眠気が生じにくい抗不
安薬を追加処方する。
これで3種類。
その後、胃腸科からもロフラゼプ酸エ
チルという抗不安薬が処方されている
ことが分かる。
患者の胃腸症状はストレスのためだと
気付いた内科医が余計な気を効かせて
処方していたのだ。
MR(エムアール)の入れ知恵もあった
はずだ。
これで4種類。
(MR= 医薬品情報担当者。製菓会社
のセールスマン。)
有能な精神科医であれば、
「あなたが精神的に不安定なのは、薬の
飲み過ぎのためです。今日からは、今
までの薬は一切止めて、私が処方する
薬だけを服用して下さい。一時的に不
調になっても、その後、必ず見違える
ように病状が改善していきます。」
と支持的精神療法を織り交ぜながら処
方が整理される。
支持的精神療法と言うとアカデミック
に聞こえるが、この場合は要するに
ハッタリだ。
病状は改善しないかもしれない。
と言うより、見違えるように改善する
ことは、まず、ないだろう。
不安症状には心理学的な要因があり、
薬剤だけで解消するはずがない。
しかし、処方の整理により薬剤の身体
的精神的副作用の軽減は期待出来る。
また、精神症状の評価も容易になる。
一方、未熟な精神科医は一度に処方を
変更せず、少し処方を変更しては、
「何だか、処方を変更されて、かえって
調子が悪くなりました。」
という患者の言葉に怯えて処方を元に
戻す。
そして、今度は違う薬剤の減量を試み
るが、前の薬とまた同じことが起こる。
そして、いつまでも処方は整理されな
い。
対応に困って精神利・の医学派や専門誌
を調べても、深い含蓄が汲み取れなけ
れば、御上品なタテマエの羅列でしか
ない。
もちろん、ハッタリをかまして、薬を
止めてしまえとは何処にも書いていな
い。
そのうちに
「知人が、この薬で良くなったので、自
分にも処方して下さい。」
と頼まれる。
そういえば、MR(エムアール)が、宣
伝していた薬だ。
この薬で、劇的に良くなった患者が何
人もいるらしい。
「この薬で、病状が改善した後に、他の
薬を中止しよう。」
と考える。
しかし、効果は鳴かず飛ばず。
いくらか良くなったような気もするが、
すっかり良い訳ではない。
不安は少なくなったが、やる気が起き
ないと訴える。
これで、抗不安薬は5種類になる。
ト、記は一例に過ぎないが、向精神薬の
多剤併用処方は、通常、こうして徐々
に形成されていく。
しかし、佐々木メンタルクリニックの
佐々木医師の場合は、違う。
未熟な精神科医が、患者に振り回され
て出来上がってしまう処方ではない。
何か、もっと、確信犯的な感じだ。
そして、患者は明らかに良くなってい
く。
「渡辺先生も多用併用処方の傾向がある
けど、何か、ちょっと違うような感じ
がするんですが、・・・。」
と新人の木村が再び尋ねる。
「色々な患者さんがいるからね。」
と松本が答えると
「先生も色々ですからね。皆、鈴木先生
みたいだと、調剤も楽なのになあ。」
と木村がポヤいた。
その時、
「あ〜、最悪〜。」
と挨拶代わりのため息をつさながら
患者が薬局を訪れた。
井上.智子である。
松本の高校時代からの友人だ。
「最悪。
山口先生が退職して、新しい先生に
なったから期待していたのに、今度の
担当医の鈴木先生ったら、薬ばかりに
頼るなだって。
そんなこと分かっているけど、医者か
ら言われたくないよ。
良い薬を処方するのが、医者の仕事だろ!
何処かに良い先生いないかな?
何処も同じかな?」
と井上はボヤいた。
我が友人ながら、ワガママな患者。
鈴木先生が気の毒と松本は思った。
「そういえば、時々、佐々木メンタルク
リニックの患者さんが、こっちで薬を
貰いに来るけど、良い先生らしいよ。」
うっかり、口を滑らしてしまった。
まあ、いいか。
鈴木先生も、厄介な患者がいなくなれ
ば、ホッとするだろう。
井上は、決して入院するような患者で
はない。
病院ではなく、クリニックの方が良い
と思う。
3バルビツレート
「眠れなくても死にはしない。」
と健康な精神の持ち主は言うだろう。
だが、
眠れなくても死ぬことは出来る。
イドの底から、病んだ精神は誘惑する。
平成28年3月某日、人和病院の会議室。
人和病院では、月に一度、病院の経営
状況や診療llの問題を事務員、各病棟
邸署のリーダーや医師といった幹部が
話し合うことになっている。
鈴木城は多忙を理由に欠席することが
殆どだった。
今回は久しぶりの出席だ。
かなり遅刻してしまったが、出席は出
席だ。
「それは、絶対に反対ですに
医局長の渡辺剛が大声で抗議していた。
人和病院の院長、山田吟が、多用併用
処方されているベンゾジアゼピン系睡眠薬を致死的な副作用のあるバルビツレート系睡眠薬へ置き換えることを提
案したからだ。
向精神薬の多剤併用処方。
以前から問題になってはいたが、
平成28年度の診療報酬改定で、多用併
用処方に対し多額の減算が行われる可
能性が高まった。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、常用
量では効果が不十分な場合、多用併用
処方となっているケースが多い。
「しかし、この処方は何だね?
私は確かに精神利・のキチンとした研修
は受けていないが・・・。」
と山田は、幾つかの渡辺の処方を提示
した。
「うっ。」
と渡辺は黙ってしまった。
そこを突かれると痛いようだ。
山田は続けた。
「常用量のバルビツレート系睡眠薬と多剤併用されたベンゾジアゼビン系睡眠
薬と、どちらの弊害が大きいか検討し
て欲しい。主治医の裁量は尊重するが、
岡目八目という諺もある。」
4不合理なルール
鈴木が医局に戻ると、渡辺は、他の医
局員を相手に、院長を批判していた。
「山田院長は、すっかり経営者だな。内
科医でも、バルビツレート系睡眠薬の
危険は知っているはずだに
鈴木は渡辺の主張は正論だと同意した。
しかし、内心、内科医の山田院長の提
案にも感心していた。
人和病院は入院患者からの収益もあり、
渡辺や鈴木は勤務医なので、純粋に医
学的な見地に立てる。
しかし、クリニックでは、ベンゾジア
ゼピン系睡眠薬の多剤併用処方の道を
閉ざされれば、山田院長のす張するよ
うに、バルビツレート系睡眠薬に置き
換えられるケースは少なくないだろう。
バルビツレート系睡眠薬の効果は絶大
だ。
だが、多量服薬すれば容易に死に至る。
それなのに、14日間までの処方制限が
あるだけだ。
経営的には月に1回より2週間に|回、
患者が来院してくれる方が有難いだろ
う。
保険診療のルールには、不合理な点が
多々ある。
多くのベンゾジアゼピン系の薬
剤は30日までしか処方できないが、何
故か、エチゾラムやニトラゼパムの長
期処方は可能。
90日処方しても良い。
(平成28年I1月よりエチゾラ
ムは30日の処方制限となる。しかし、
これまで30日超の処方が許されていた
経緯についての説明は無い。)
ブロチゾラム3錠の処方はダメだが、
ブロチゾラムI錠、ゾルビデムI錠、トリアゾラムI錠ならば良い。
キリンビール3杯はダメだが、キリン
ビールI杯、サッポロビールI杯、アサ
ヒビールI杯なら良いと言っているよ
うなものだ。
I種類で済むはずの睡眠薬が3種類にな
る。
こうした医学的なこと以外にも、問題
はある。
消費税は8%から10%の増額の是非で
侃々屑々の議論が交わされているが、
医療費がI割負担の患者が3割負担にな
れば、自己負担が300%の増額になるの
に、何の議論もない。
また、患者の生活の場所が、自宅、老
人保健施設、特別養護老人ホームで、
それぞれ請求の扱いが違い、同じ治療
が出来ない。
介護サービスが絡む在宅医療の状況は
複雑というより混乱というべきだ。
お泊りデイサービスとはナイトサービ
スではあるまいか?
ショートスティをロングで利用?
詳細が分からなくても制度に問題が生
じているのが分かるだろう。
名称も取り繕えない状況なのだ。
数日前、ケアハウス菩提樹で、高橋健
一、伊藤茂に、鈴木は意見を求めた。
最初、二人は肩をすくめるだけだった。
「不平不満は運気を下げるだけだ。」
と伊藤は話を遮り、高橋は沈黙してい
た。
シャム猫のシャーが、その時、伊藤に
飛び付いた。
5患者の不平
数日後、人和病院の外来。
「だって、先生。私は病気なのに、夫は、
ちっとも分かってくれないんです。
結局、私が家事全般をしなくてはなら
ないんです。」
「入院しないと十分な体息はとれないか
もしれませんね。」
「でも、子供の世話もあるし、・・・
診察室から、女性患者と渡辺医師のや
り取りが聞こえてくる。
何年も昔のエピソードまで引っ張り出
しているのだろうか?
次から次へと、夫に対する不平不満を
訴え続けている。
「そうはいっても、男も色々と人変なん
ですよ。」
堪らず、渡辺が、患者の夫を弁護する。
「確かに、私にも悪い所はありますけ
ど。」
と患者は応じ、止せば良いのに、渡辺
も自分の体験談を話し出す。
いつの間にか子供を預かってくれない
保育園の問題で意気投合している。
待合室では、
「具合は良いので、今日は薬だけ下さ
い。」
と、痺れを切らした患者が、一人また
一人と現れ出した。
予約時間はとっくに過ぎているため、
受付の事務員が、謝罪しながら処方箋
を渡す。
処方箋だけだと、通院精神療法を請求
出来ないので、病院としては、収入減
だが、渡辺は勤務医だ。
給料が減るわけではない。
いつまでたっても、終わる気配はない
が、薬の話題になった。
あの薬は眠くなった、この薬は効かな
かった、その薬は以前に減量したら眠
れなくなったと、いちいち患者は渡辺
の提案に反論している。
やはり、なかなか話は終わらない。
結局、現在服川中のエチゾラムという
抗不安薬を1日6錠から3錠に減量し、
アルプラゾラムという抗不安薬を新
たに1日3錠追加して様子をみることに
なったようだ。
薬理学に詳しい渡辺は、最もらしい理
由を患者に説明している。
隣の診察室で、鈴木は、どちらも似た
り寄ったりだろうと苦笑した。
しかし、渡辺がエチゾラムを減量しア
ルプラゾラムを追加したのは、条理学
的な効果を狙った訳ではなく患者の心
理的な欲求に応じただけかもしれない。
つまり、
「今までと追った薬を処方してもらえば、
精神状態も追ってくるかもしれない。
幾らかでも希望が持てないなら、わざ
わざ来院した甲斐がない。」
といった心理である。
これで向精神条の種類は1つ増えてし
まった。
意図してなのか、無意識なのか、分か
らないが、そうでもしなければ、患者
の話が終わらなかったのだろう。
だが、患者も医師も超自我の欲求を満
たすことが出来た。
楽しい時間は早く過ぎていく。
30分程度の診察と渡辺は思っていたら
しい。
1時間以上、もかかっていたと分かり、
「丁寧にやり過ぎたかな?」
と看護師にボヤいていた。
超自我の批判の矛先が患者の夫、次い
で、行政問題へと向けられたのは何よ
りだ。
患者の矛先が医師に、医師の矛先が患
者に向かえば、両者の関係は極めて険
悪なものになる。
井上.智子と退職した山ロ医師の関係は、
そのようなものだった。
患者は
「もっと話を聞いて、もっと良い薬を出
して下さい日
と医師に懇願し、医師は
「他の患者もいるから話は手短にして、
薬に頼らず自己中心的な性格を直すよ
うに日
と患者に助言していた。
懇願、助言と言えば、聞こえは良い。
だが、この状況は、患者と医師が、批
判の刃(やいば)で、お互いを斬り
合っていることに他ならない。
6暇な外来
「先週、作業所の人達と、花見に行って
きました日
「夜も良く眠れるし、食事も美味しいで
す日
40歳くらいの統合失調症の男性だが、
年齢よりも幼く見える。(若くではな
い。)
花見の賑やかな様子を、相槌を打ちな
がら、しばらく聞く。
鈴木は、血圧が正常であることを確認
し、経過は良いと告げた。
そして、服薬を忘れないように念を押
す。
4週間後の同じ時間に予約を入れたこと
を伝えると、
「ありがとうございました!」
と退室していった。
5分くらいの診察だ。
20年程前、野球のバットで車を破壊し
て措置入院歴がある。
今では、まるで別人だ。
「すみません、渡辺先生の患者さんです
けど、お願いします。」
看護師に渡辺医師の代診を頼まれた。
患者が渋滞している渡辺に対して、鈴
木の外来は暇だからだ。
中年女性、うつ病の診断。
寛解しているが、再燃の防止のため治
療を継続している。
しかし、神経症的な問題はありそうだ。
先月と病状に大きな変わりがないこと
を確認し、同じ処方を継続する。
ただし、2ケ月程前に処方されたゾル
ピデム5mgを頓用10回分、追加処方し
た。
寝つきが悪い時のみ、追加で服用する
のだ。
服用は、I週間にI回程度だが、残
りが2錠しかなくなったからだ。
この薬だと、翌日に眠気が残らず助
かっているそうだ。
だが、うつ病の診断で処方すると査定
される。
つまり、保険が適用されず病院の損失
になる。
「やれやれ、渡辺先生、また、うっかり
か?」
しかし、厚生局や審査支払機関も理不
尽ではなかろうか?
ゾルピデムが、うつ病患者にも効果が
あるのは明らかだ。
病名をうつ病から神経症性うつ状態に
変更する。
これで大丈夫。
それでも、診察時間は5分程度だ。
何故か、鈴木の外来には、パーソナリ
ティに問題のある患者が寄り付かない。
そう言えば、数ケ月前には、退職した
山口医師から引き継いだ、井上智子と
いう患者がいた。
職場や家庭でのストレスを訴え、依存
的で他罰傾向があり、自己主張が強
かった。
リストカット、多量服薬、警察介入が
必要になった派手な夫婦ゲンカ。
対応が難しい患者だった。
どうやら、他のクリニックに転院して
しまったようだ。
紹介状を書いた覚えはない。
通常、転院の場合は、紹介状を依頼さ
れるものだが・・・。
大和病院に通院していたことを知らせ
ずに治療を受けているのか?
あるいは、人和病院に紹介状をもらい
にくるのが面倒なため、医師を説き伏
せてしまったのかもしれない。
「私が、今までの経過を話しますから、
紹介状はいらないと思いますに
等と言いかねない患者だった。
彼女が機関銃のように捲くし立てれば、
聞き役に徹するしかない。
それに、どんなアドバイスをしても反
論や言い訳を倍返しされる。
早々に引き取ってもらうには、可能な
限り譲歩する方が無難と、クリニック
で判断したのかもしれない。
今頃、隣の診察室のようなやりとりを
しているのだろうか?
外来患者I人に幾ら時間をかけようと、
何人診ようと、渡辺は勤務医なので給
料は同じだ。
人和病院は入院患者からの収益もあり、
経営には大きな影響はない。
しかし、外来患者の通院精神療法が主
な収入源のクリニックでは、渡辺のよ
うな診察をしていては、経営が成り立
たないだろう。
毎回の診療報酬の引き下げで、今まで
以上.に多くの患者を診なければ、殆ど
のクリニックでは、経営が苦しくなっ
ている。
1人の患者に多くの時間をかけられな
いのである。
鈴木は、面倒な患者を引き受ける羽目
になったクリニックの院長に申し訳な
い気持ちになった。
7元脳外科医
平成28年4月21日、やすらぎ心療内科
クリニック。
院長は元脳外利一医、小林達也。
心療内科といっても内実は精神科であ
る。
しかし、心療内科を標傍する方が、患
者ウケが良い。
心療内科とは本来なら心理学的な手法
を用いて、過敏性大腸炎等の内科疾患
を治療する診療科のはずだ。
つまり、心を用いて物質(身体)を治
すことを標榜しているのだ。
しかし、皮肉なことに、物質(薬剤)
を用いて心を治しているのが実際なの
である。
名が体を表すなら物療精神科とすべき
だ。
名は体を表す。
しかし、このアベコベがまかり通って
いる実情が、正に、混乱している心療
内科の実態を適確に表している。
つまり、名がデタラメなら、体
も、・・・ということ。
もちろん、多くの心療内科医は、誠実
に仕事をしているだろう。
5年前、小林は心療内科を開架した。
県立中央病院で脳外科医として働くこ
とに体力の限界を感じるようになった
からだ。
心療内科は脳外科と比べ、遥かに少な
い資金で開架出来る。
しかし、小林が心療内科を開架したの
は、決して、経済的な理由だけではな
い。
小林は人間の精神に、若い頃から関心
があったのだ。
大学に在学中、将来の進路を脳外科に
するか、精神科するか、真剣に悩んで
いた。
そんな詩、先輩の
「精神科医なんて医者じゃない。」
という言葉。
慌てて、その先輩は、発言を取り消し
たが、むしろ、本音だと小林は感じた。
脳外科医の道を選んだが、しかし、
時々は合併症等のため、精神科の患者
も診察した。
精神利一医は、もちろん、手術はしない。
(昔は、ロボトミーがあったらしい
が。)
彼らが出来るのは、薬の処方だけ。
しかし、その処方さえ、まともではな
い。
専門外でも分かるメチャクチャな処方。
やはり、彼らは医者じゃない。
脳外科医として研鑽を積んだのは正解
だった。
脳外科医として、脳や神経について多
くを学ぶことが出来た。
そして、こうして精神科の患者も適切
に診ることが出来るではないか?
初診の患者は、予約の上でないと受け
付けない同業者が殆どだ。
だが、小林は予約なしで初診を受け付
ける。
このため、患者や患者の家族、そして、
それ以上に、精神科以外の医師からの
評判が良い。
初診患者は、時間をかけて丁寧に診察
すべきだろう。
しかし、一刻を争う場合もある。
小林にとって予約なしで患者を診察す
るのは、当たり前のことだ。
精神科ではなく、脳外科で研鑽を積ん
だおかげで、医師としての常識を失わ
ないで済んだと小林は自負していた。
「次は新患です。」
年配の看護師が小林に告げた。
「認知症の患者さんです。
県立中央病院から退院したばかりです。
精神科の処方は当院でお願いしたいと
のことです。」
県立中央病院は、まず、患者宅の近く
の内科開業医に退院後のフォローを依
頼した。
しかし、内科の処方は引き受けてもら
えたが、精神科の処方は突き返された
のだ。
処方内容を見ると、めまいがしてきた。
内科・医に拒否されて当然だ。
1)
タンドスピロン錠5mg l錠
エチゾラム錠0.5mg l錠
チアプリド錠25mg l錠
1日I回朝食後に
2)
クロチアゼパム錠5mg l錠
エチゾラム錠0.5mg l錠
1日I回昼食後に
3)
ロラゼパム錠0.5mg l錠
エチゾラム錠0.5mg l錠
ロフラゼプ酸エチル錠lmg l錠
チアプリド錠25mg l錠
スルピリド錠50mg l錠
クエチアピン錠25mg l錠
1日I回夕食後に
4)
ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)7.59
1日3回毎食前に
5)
トリアゾラム錠0.25mg l錠
ブロチゾラム錠0.25mg l錠
ゾルピデム錠10mg l錠
エスゾビクロン錠2mg l錠
ラメルテオン錠8mg l錠
スボレキサント錠15mg l錠
ミアンセリン錠10mg l錠
リスペリドン錠hng l錠
1日I回就寝前に
これらは、抑肝散以外、全て、向精神
薬である。
またか。
小林はため息をついた。
向精神薬の多剤併用処方。
ようやく、厚生局も対策に動き出して
いる。
「いったい、どういうつもりで、こんな
処方をしたのか!?」
紹介状を書いた医師に抗議の電話をす
る衝動に駆られた。
しかし、小林も心療内科を開架して、
既に5年。
短絡的な行動はしなかった。
8責任と原因
処方の責任は、もちろん医師が負わね
ばならない。
しかし、心療内科を開業してみて分
かったことがある。
多剤併用処方の原因は、患者側にもあ
るのだ。
お薬手帳をみると、思った通り、幾つ
もの医療機関を転々としている。
県立中央病院は、患者の転倒、骨折の
ため、入院加療を引き受けたに過ぎな
い。
むしろ、患者の利用していた複数の医
療機関を退院後は一つにまとめようと
試みた点は良心的だ。
(何通も紹介状を吉くのが面倒だったの
かもしれないが。)
認知症患者であり、激しい興奮状態が
あった。
向精神楽の減量を行う勇気はなかった
ようだ。
むしろ、リスペリドン、スボレキサン
トを追加処方している。
これらの向精神楽には、中止すべきも
のが、あるに違いない。
しかし、どれが、それなのだろう?
複数の向精神薬の相互作用の結果、何
とか興奮状態が抑えられている。
処方の匙加減を間違えば、激しい興奮
状態が再発する恐れがある。
そうなったら、外来では対応出来ない。
同じ処方を継続する方が無難なのかも
しれない。
しかし、この醜悪な処方を、自分の名
前で継続するのは嫌だった。
薬の減量をほのめかすと、家族の顔色
が変わった。
今の薬で、ようやく、おとなしくなっ
てくれたのだから、それだけは、やめ
て欲しいと懇願された。
それより、せっかく来たのだから、認
知症に効く薬を処方して欲しいと訴え
る。
「抗認知症薬というのは、一時的に効果
を実感する場合もありますが、基本的
には、進行を食い止めるだけです。」
と小林は説明し、これ以上、の薬剤の追
加は勧められないと伝えた。
しかし、患者の妻も娘も納得せず、尋
ねもしないのに、昔からの色々なエピ
ソードを話し始めた。
患者が自分達にとって、いかに大切な
存在であるかを分かってもらいたいの
だ。
そして少しでも可能性があるなら認知
症を治療して欲しいと繰り返した。
小林は焦った。
予想以上に時間を費やしてしまってい
る。
来院した患者が外来の待合室から溢れ
出してきた。
ようやく、人和病院への転院を条件に
抗認知症薬を処方することになった。
さすがに内服薬はこれ以上増やせない。
診療報酬の問題ではなく、医師として
の良心の問題だ。
しかし貼付薬なら・・・。
4段階に増量する抗認知症薬だ。
第1段階では、効果もないだろうが、
副作用もないだろう。
後は人和病院の担当医師に任せよう。
「また、人和病院に紹介状を暦かなくて
は。」
小林はため息をついた。
9紹介状
大和病院精神科
外来御担当先生御机下
患者氏名加藤明宏昭和10年4月
7日生 男性
当科診断F 0.01アルツハイマー型認
知症
既往歴 慢性胃炎(30才頃)、高阻
圧(50才頃)
家族歴 兄が糖尿病
いつも大変、お世話になっております。
4月22日、県立中央病院の紹介で当院
を初診されました。
かなりの多剤併用処方となっているた
め、入院しての薬剤調整を、御家族に
お勤めしました。
よろしくお願いいたします。
病歴ですが、若い頃より、神経質、心
気的であり、複数の医療機関から抗不安薬、睡眠薬等を処方されていたよう
です。
数年前より佐々木メンタルクリニック
にて向精神薬の調整を行い、安定して
いたのですが、今年2月1日に同クリ
ニックが閉院となり、不安症状が増悪、
以前通っていた複数の医療機関に再び
通院するようになりました。
2月28日、転倒し、右大腿部頚部骨折
のため県立中央病院に入院。
入院中、夜間せん妄、認知症症状が認
められ、入院前の投薬に加え、リスペリドン、スボレキサントが追加処方。
骨折の加療を終え、3月30日に退院と
なっています。
御家族より認知症の治療の要求が強い
ためリバスチグミンの貼付を開始して
います。
お忙しいところ、申し訳ありませんが、
御高診お願い申し上げます。
10医者の不満
鈴木は、操作的診断が、保険診療で要
請されるようになってから、前医の力
量、紹介状をどの程度、信頼して良い
ものか、分かりにくくなっていると感
じていた。
コード番号が診断名の前に付くと箔は
付くだろうが、正しい診断とは限らな
い。
しかし、それでも、処方をみれば、あ
る程度の見当はつけられたのだ
が‥・。
半減期、筋弛緩作用の強弱の違いはあ
るにせよ、ベンゾジアゼピン系薬剤は、
どれも人差はない。
だから、
「多剤併用処方はナンセンスだ!」
と考える医師は多い。
しかし、ならば逆に、多剤併用処方の
解消に、あまりこだわる必要もないの
ではなかろうか?
未熟な精神科医の処方は、多用併用処
方になる傾向がある。
しかし、規則で多剤併用処方を禁じた
からといって、ヤブ医者が名医になる
わけではない。
ちょっと、不平不満が多いかな?
鈴木は自嘲し、
「不平不満は運気を下げるだけだ。」
と伊藤が、言っていたことを思い出し
た。
11薬物療法と権力
鈴木がケアハウス菩提樹で訪問診療を
終えると、テラスで茶菓子が出される。
時々、オーナーの高橋と雑談の機会が
ある。
数日前は、高橋の友人の伊藤も同席し
ていた。
その時、シャム描のシャーが、伊藤に
飛び付いて伊藤の白いスーツを台無し
にした。
大抵は、シヤーの手足は綺麗に手入れ
してあるので、そんなことは、滅多に
ないのだが。
「不平不満を言うな!それは、不平です
ね?」
高橋は笑った。
「そうさ。不平不満は運気を下げる。だ
から、お陰で、俺の白いスーツに、素
敵な手形を頂いたよ。」
伊藤は答えた。
「ところで、先生は先輩として、何も言
うべきことはないのかい?」
猫の手形だらけになった伊藤のスーツ
を見て、笑いながら、高橋は話し始め
た。
「純粋な薬物療法それ自体は統計学的に
評価すべきです。
診断が正しくても効果があるとは限り
ません。
プラセボ等と比較して有意差が出れば、
薬剤として認められるのですから。
ましてや、心理学的に診断されている
精神疾患の生物学的物質的本態は未解
明です。
当然、個々の患者の治癒を約束するも
のではない。
患者の同意に基づく薬物の投与と薬効
の評価を粛々と行うのが本来のあり方
です。」
「ちょっと待った。
もうちょっと、素人でも分かるように
言ってもらいたいんだけど。」
と伊藤。
「精神安定剤は脳内の神経伝達物質の分
泌を変化させる薬です。
だから、本来、精神疾患は、その脳内
の神経伝達物質を測定して診断すべき
です。
しかし、現状は、そこまで、精神医学
は進歩していない。
つまり、物質的な精神疾患の本態は未
解明なのです。
現状は、不安、うつ状態、幻覚といっ
た心理現象に基づいて診断しています。
しかし、これは、あまり科学的とは言
い難い状況です。
そして、精神疾患に限らず特定の病気
に対して100%有効な薬剤はありませ
ん。
薬剤は多くの患者の一部に何らかの効
果が認められれば、認可されるものに
過ぎない。
だから、治癒しない場合も当然ありま
す。
しかし、治癒に至らない場合でも、今
後の薬物療法の発展に寄与出来るかも
しれない。
現在のような混乱した状況でも、多変
量解析等の手法を用いれば、何らかの
有益な情報が得られる可能性がありま
す。」
鈴木が説明した。
伊藤は肩をすくめた。
やっぱり、難しい。
高橋が続ける。
「純粋な薬理効果を見極めるには、心理
的影響は邪魔です。
しかし、臨床医学、特に精神科におけ
る実際の薬物療法では、心理的影響を
排除することは不可能。
心理的影響として、薬剤に対する期待
や不安といったものが、皮相的に考え
られています。
しかし、実は、もっと根深いのです。
『神様なんて信じられない。信じられる
のは、金だけだ。』
と言う人々にとって、お金は神様です。
同じように、病人にとって、薬は神な
のです。
病人は、言葉が病気を治すとは信じて
いません。
病人が信じているものは、言葉ではな
く薬です。
ならば、当然、精神療法は、言葉では
なく、薬を用いたものになる。
この心理的影響を上手く利用して治癒
に向かわせること。
それでこそ、精神療法です。
ところが反対に、現実には、この心理
的彩響によって、精神科薬物療法が有
害無益に歪められている。
それが、今日の向精神薬の多用併用処
方の問題の本質です。
未熟な精神科医にとっても薬は神です。
哲学的心理学的素養の貧しい精神科医
にとって、精神疾患に立ち向かうため
の武器は薬物だけです。
精神科医の多くが精神療法を軽視して
いる。
現在の保険診療ヒの通院精神療法、人
院精神療法は、精神疾患対応加算と名
前を変える方が、請求する医療機関も
明細書を見る患者も、しっくりくるは
ずです。
しかし、言葉の力、精神療法という言
葉自体が持つ心理的影響を利用するこ
とも、精神療法の一部です。
安易に名称を変えないところは、厚生
局には逸材がいるのかもしれません。
奇しくも多用併用処方を行うと精神療法の保険請求が減点されるそうです。
多剤併用処方の本質が精神療法の拙劣
さにあることを、厚生局が見抜いたの
でしょうか?
しかし、パソコンで薬物療法のレク
チャーを受ければ、多剤併用処方を認
めるのは、何故でしょう?
皮相的に薬理学的知識が豊富な医師に
よって、多剤併用処方が行なわれてい
ることも多いのですが・・・。
多剤併用処方の原因は薬物療法の無知
ではなく、哲学的心理学的素養の貧困
なのです。
哲学的心理学的な修養を軽んじている
限り日本の精神医学の頽廃は止まらな
いでしょう。
『歪んだ薬物療法の姿を元に戻すために
厚生局が権力を用いている。』
と多くの人は考えています。
しかし、これは、歪んだ薬物療法が厚
生局の権力発動のはけ目になっている
のです。
つまり、決して、コントロールしてい
るわけではない。
本来、啓蒙によって解決すべき問題を
権力によって暴力的に是正することは、
長期的には、好ましくない影響がある。
一例を挙げれば、日本における精神科
医療において、何か多用併用処方の原
因だったのか?
その原因を究明するのは困難となるで
しょう。
精神科医療の頽廃の病因は、そのまま
残る。
多剤併用処方というはけ口を失った膿
は、違う何処かに、はけ口を見つける
ことでしょう。
それに、厚生絹に限らず、政治家は、
権力の行使に当たって、アセスメント
が、不十分です。
現在の問題を提示し、新たな法令に
よって、何か期待出来るのか?
法令施行後、期待の結果が得られたの
か?
また、新たな害悪や余禄が発生してい
ないか?
こうしたことを提示すべきです。
もし、権力者が、社会問題を治療する
医師ならば。
しかし、期待は出来ないでしょう。
ズサンな投薬よりズサンな法令の方が、
はるかに多いですから。
未熟な精神科医の処方以上に診療報酬
体系は混乱している。
未熟な精神科医の処方は、指導医等か
ら是正される可能性があります。
また、患者も他の医師を選ぶことが出
来る。
不完全なシステムとはいえ、医療機関
には競争原理が働いています。
だから、仮に、厚生局の指導がなくて
も、拙劣な処方が改善する可能性はあ
る。
一方で、拙劣な診療報酬体系が是正さ
れる仕組みは原理的に存在しない。
患者は、より良い医療機関を選べます。
だが、医療機関には、選択の余地が無
いのです。」
12お笑い芸人
高橋
「向精神楽の種類より診療報酬の項目の
多さの方が問題です。
既に数万項目以llの、文字通り、数え
切れない項目がある。
より良い医療のためには、診療報酬に
おける項目の断捨離が必要です。
そんな立場からの指導の滑稽さにも気
づいていない。
ゴミ屋敷の主人が子供に、
『子供部屋の中を片付けろ!』
と偉そうなことを言っている。
しかし、子供部屋の中の方がずっとマ
シ。
これは、ジョーク以外の何物でもあり
ません。
彼らは、医師よりお笑い芸人に近い。
彼らがどうしても通したい法案は、ど
うしても演じたい演目。
彼らの施行する法令は、大衆や周囲へ
のジョークです。
お笑い芸人は自分の地位をウケる
ジョークで築きます。
同じように、政治家は自分の地位を、
人乗や周囲にウケる法令に寄与するこ
とで築き維持しています。
給与を辞退したり、半減することで、
ウケを狙う政治家もいます。
医療費抑制というのは、人乗のルサン
チマンにウケる、言わば、鉄板ジョー
クです。
医師の収入は平均的な労働者より多い
からです。
しかし、増大する医療費の問題は、解
決に向かわないでしょう。
老齢と死、そして金銭についての哲学
的宗数的な啓蒙が必要なのです。
癌治療では薬剤費だけでも月額300万
円を超えます。
向精神薬も含め、他の領域でも、それ
以上の値段の薬剤が出現するかもしれ
ません。
命と金銭について、その真理を見抜か
なければならない。
命と金銭について、各人が自らの妄想
に気付かなければならない。
命と金銭は、どちらも質量も無ければ
重さも無い。
両者とも、極めて精神的な実体であり、
自殺、うつ病との開運も深い。
精神病理学の中心テーマであっても不
思議ではないのですが、現実には、そ
うではない。
そこが、これらの実体のユニークなと
ころなのです。
神は、何としても、その秘密を人間に
知られたくないようです。
つまり神秘なのです。
特に金銭は、教養が殆ど無い人間に
とっても、大きな関心事であり、しば
しば低僻な話題と見倣されがちです。
しかし、実際は、俗の衣を纏った神秘
なのです。
3千数百円程度の精神療法を減算して何
になるのでしょう?
むしろ、診療報酬体系をイタズラに複
雑にしているだけです。
これは、未熟な精神科医の多用併用処方と通じます。
いっそのこと、不適切と思われる処方
は、減算ではなく禁止にすれば、その
是非がハッキリするのに、その勇気は
ない。
抗不安薬を一度に切り替えれば良いの
に、その勇気がなくて、徐々に切り替
えて種類を増やしてしまう未熟な精神科医と同じです。
一度に切り替えた方が、どの抗不安薬
が患者に適しているかハッキリします。
上手くいかなければ、また、元に戻せ
ば良い。
しかし、厚生局も未熟な精神科医も11
手くいかないことを恐れていろ。
そして、アセスメントは曖昧になる。
そして、未熟な精神科医の処方は多剤
併用となり、厚生局の作成する診療報
酬体系は複雑になっていく。
精神科医も厚生局の役人も不平不満を
口にしながら、基本的には現状に満足
している。
安定した生活、比較的高い給料等。
失敗に対する恐怖の背景には満足があ
る。
中途半端な不平不満は不毛。
恐怖を燃やし尽くす炎のような不満だ
けが創造するのです。
確かに、何事においても、断捨離を心
がけるのは賛成です。
精神科医の処方、診療報酬体系、然り。
社会全体の断捨離が、社会全体を向上
させます。
もちろん、社会全体の断捨離とは福祉
の切り捨てではありません。」
「社会福祉は人事だと思うよ。」
伊藤が、口を挟んだ。
「ちょっと、失礼な譬えかもしれないけ
ど、トイレを綺麗にすると、その家の
運勢が向上する。同じように高齢者等
の社会的弱者を人事にすることが国の
運勢を良くするんだ。」
高橋
「社会的弱者を人事にするとは、恩着せ
がましい金銭的ばら撒きでも、制度を
複雑にすることでもありません。
鈴木先生のおっしやるように、突然、
自己負担が3倍にならないようにする。
在宅医療の制度、介護サービスとの連
携を分かりやすいものにする。
障害者年金の受給等で不公平が無いよ
うにする。
福祉制度の手続きを簡便なものにする
といったことです。」
伊藤
「未熟な人間の部屋は、物で溢れて、ゴ
チャゴチャしていく。
未熟な医者の処方は、薬剤名で溢れて、
ゴチャゴチャしていく。
未熟な役人の作る制度も、条文で溢れ
て、ゴチャゴチャしていく。
税金の制度も、断捨離してもらいたい
な。
ゴチャゴチャ訳の分からない税制は、
役人や会計事務所の失業対策になって
いるだけだと思う。」
高橋
「既に、十分に税金を払っている私達か
ら、更に、搾り取ろうと策を弄する。
そして、今度は、やり過ぎて、減免す
る。
こうしたことにも、アセスメントはな
い。
抗精神病巣で鎮静をかけ過ぎた患者に
抗うつ薬を投与しているようなもの。
これも、未熟な精神科医に通じます。
まあ、そんな酷い処方は、未熟な精神
科医もしないでしょうが。」
13認知症?
認知症の症状は、記憶力・判断力など
の知的能力の障害と、徘徊・攻撃的行
動・不潔行為・異食などの問題行動に
分けて考えられる。
しかし、「問題行動」という用語を使用
すると
「気の毒な患者様の心情を思いやってい
ない証拠だに
とストローク飢餓に陥っている超自我
の餌食となる可能性がある。
このため、BPSDという用語を推奨す
る。
BPSD
= behavioral and psychological
symptoms of dementia
=認知症に伴う行動・心理症状
28年4月26日、人和病院の外来。
「加藤明宏さん81歳。
やすらぎ心療内科からの紹介です。
診断はアルツハイマー型認知症。
BPSDは深夜の人声、更衣の際の介護抵
抗です。
薬剤調整目的で入院依頼。
御家族の病棟見学は済んでいます。
必要なら入院させて欲しいそうです。」
臨床心理上の田中愛が鈴木に報告した。
必要なら、という一言に、鈴木は好感
を持った。
激しいBPSDのため施設を追い出され、
何か何でも入院させて欲しい、という
家族が多いからだ。
だが、
「うちの親は、こんな重症ではない!」
と入院を拒否する家族もいる。
だから、病棟を見学しておいてもらっ
たのだ。
しかし

必要なら

この言わずもがなの一言は、この家族
が心理的葛藤にあることを示唆してい
る。
報告を聞き終え、鈴木は紹介状に同封
された処方のコピーを見て驚いた。
かなり苦労したのだろう。
患者や家族、県立中央病院の医療ス
タッフに同情した。
なり振り構わない凄い処方だ。
抗不安薬は5種類、睡眠薬は6種類、そ
の他にも、抗うつ薬、抗精神病薬等。
短時間型の睡眠薬が積み重ねられてい
るのは、翌日の眠気、昼夜逆転のため
か?
リスパダールの追加は、夜間の不穏で、
他の患者からのクレームがあったのだ
ろう。
スボレキサントの追加?
これまでとは作用機序の異なる最新型
の睡眠薬だ。
精神科医でもないのに、良く知ってい
たな。
それとも、MR(エムアール)に勧めら
れただけか?
しかし、日中の多彩な抗不安薬の処方
は異常だ。
頭部CTではびまん性脳萎縮。
おそらく微小な脳梗塞もあるだろうが、
はっきりしない。
アルツハイマー型認知症の典型的な画
像だが、年齢相応ともいえる。
海馬の萎縮を確認するためにはMRIを
チェックしたいが、作動のため難しい
だろう。
HDS-Rは6点。
MMSEは省略。
このケースでは、HDS-Rに加えて行う
必要はないだろう。
簡便な知能検査だが、患者にとっては
難しい質問を何度も受けるのは大きな
ストレスだ。
自らの愚かさを突き付けられるのだから。
認知症は、アルツハイマー型認知症、
レビー小体型認知症、脳血管性認知症
といった疾患単位に分類し治療計画を
立てるのが一般的だ。
しかし、精神科、特に認知症病棟のあ
る大和病院では、初期、中間期、終期
といった刑期による分類の方が、臨床
Iこ、有益だと鈴木は考えていた。
初期の認知症なら、MRI等の設備の充
実した神経内科等で、年齢相応の物忘
れか、それとも初期のアルツハイマー
型認知症か、あるいは、その他の原因
による認知症かを慎重に診断すべきだ。
何故なら、多くの場合、適切な治療で
予後の改善が期待出来るからだ。
一部の認知症では完治する可能性もあ
り、抗認知症薬が奏功するのも、この
刑期である。
しかし、認知症に対する恐怖、否認と
いった神経症的な問題のため、治療の
機会を失ってしまうことが多いのが現
実だ。
中間期は、徘徊や暴力、介護抵抗と
いった多くの精神利・的な問題が出現し、
対応に苦慮する刑期である。
ある程度、疾患による特性はあるもの
の、むしろ、疾患に囚われず、個々の
病態、病像に応じた治療が必要だ。
熟練した医師の匙加減が、まだまだ幅
を利かす非科学的な領域だ。
終期は、身体的なレベルも落ちて、寝
たきり等の状態であり、精神科的な問
題は後退し、嚥下機能の低下に因る誤嚥性肺炎、獅盾の予防といった内科等
で、身体的加療を主に行う病期。
認知症であることが却って救いになっ
ていることもある。
余命数か月の癌であっても、重度の認
知症であれば、悩み苦しむこともない。
しかし、周囲の状況の理解は全く出来
ず、会話も不可能な状態でありながら、
夜間の人声や激しい体動のため、向精
神薬の調整が必要なケースも少なくな
い。
認知症の病期による分類は、鈴木が個
人的に意識していることで、一般的で
はない。
認知症の終期とは、死を意味する。
認知症の病期を意識すれば、死を意識
しなければならない。
死を忌避すれば認知症の前期からも目
を背けなければならない。
14入院

鈴木は、佐々木メンタルクリニックで
の経過に、何か引っかかるものを感じ
たが、向精神薬はリバスチグミンを含
め、全て中止した。
ただし、興奮が激しい時は、リスペリドンの液剤を1ml、服用させるように
指示しておいた。
認知症病棟は、椅子、テーブル、ベッ
ドの他は、物がない。
また、病棟内に回廊式の廊下があり、
自由に徘徊することが出来る。
認知症患者の様々なBPSDに対応が出
来る構造になっているのだ。
「少し、騒ぐかもしれないけど、よろし
くお願いします。」
鈴木が病棟の看護師に声をかける。
認知症病棟のベテラン看護師も患者の
入院前の処方をみて納得した。
4月27日、入院当日の夜間、患者の加
藤明宏は、一睡もせず、病棟内を徘徊
し、床に座ったり寝転んだりしていた
が、廊下に放尿したくらいで、特に大
きなトラブルもなく、翌朝を迎えた。
「時々、『家に帰りたい』と、訴えて来
ましたが、明日、先生と相談しましょ
うと伝えると素直に納得してくれまし
た。」
と看護師が鈴木に報告した。
加藤
「あの、家に帰りたいのだけど。」
鈴木
「病気は、どんどん良くなっているから、
直ぐに退院できますよ。」
加藤
「ありがとうございます。」
その後も、加藤は看護師や介謹上に家
に帰りたいとは言うものの、
「もう少し、治療を受けて下さい。」
という応対に、素直に従った。
加藤自身、入院後、自分の状態が良く
なっていることを実感していたからだ。
15冷たい医師
平成28年3月某日、人和病院の門前薬
局。
「あれ、智子じゃない。」
松本は驚いた。
久しぷりに見る井トは、穏やかで、ま
るで別人だった。
「うん。
佐々木先生を紹介してくれてありがと
う。
でも、先生、体調が悪いみたいで、ク
リニックを閉院したんだ。
それで、また、古巣に戻ってきたの。」
井上は微笑みながら答えた。
「へえ、それは、お気の毒。
でも、あなた、ずいぶん調子が良さそ
うじゃない。」
井ヒの処方を見ると、
クロチアゼパム錠5mg不穏時不眠時
価用5回分
のみだった。
「どんな先生だったの?」
「うん、良い先生だったよ。」
井上は佐々木医師の最初の診察を思い
出した。
佐々木メンタルクリニックは神社の隣
にある小さなクリニックだった。
井.ヒは、人和病院以外の精神科の医療
機関は初めてで、緊張していた。
渡された予診票の記入を終えて、窓口
に提出した。
雑誌か新聞でも読もうかと思ったが、
何もない。
雑然とした人和病院の待合室と違って、
心地良いような悪いような不思議な張
り詰めたような静寂があった。
数名の患者が先に来ていたが、静かに
眼目して、まるで、お告げを待ってい
るようだ。
診察室からは全く音が間こえてこな
かった。
どんな医師だろう?
嫌な医者なら、また、人和病院に戻れ
ば良いだけだ。
また、鈴木医師の診察を受けることに
なるが、・・・。
担当医が山口から鈴木に代わって、医
師との距離を感じた。
山口が担当医だった頃は、もっと親身
になってくれれば、私の病気も早く治
るのに!
と苛立ちや不平不満で一杯だった。
担当医が鈴木に代わって、もっと親身
になってくれることを期待していたが、
失望した。
山口と比べ、ずっと冷淡だった。

お気の毒です。

まるで他人事だ。
患者の病気が良くならないのは医者の
処方が悪いからではないか!

あなたの病状は、お薬だけに
頼っていても良くなりません。

要するに、私の性格が悪いってこと?
大きなお世話だ。
医者は、良い薬を出すことだけ考えて
くれれば良いのよ!
心の中で井上は鈴木に不平不満をぶつ
けていた。
やがて、自分の名前が呼ばれ、#llは
診察室のドアを開けた。
大和病院の診察室とは全く異なり、
6畳ほどの診察室には、白いガラス張り
の机があるだけで、ガランとしていた。
白い椅子に佐々木医師が座っていた。
看護師は隣室に控えているのかもしれ
ない。
パソコンもない。
カルテもない。
白衣の医師、白い机、白い椅子、それ
だけ。
患者用の椅子も医師と同じ、背もたれ
のある白い椅子だ。
井上は、微笑を浮かべる佐々木医師に、
初めての場所で緊張していたためか、
鈴木医師よりも、更に冷淡さを感じた。
冷淡さを通り越して氷のようだ。
しかし、不快ではない。
宝石に触れた時に感じる冷たい快感が
あった。
考えてみれば、医師は、私の友人でも、
家族でもない。
親身になって欲しいと思うのは見当違
いだったかもしれない。
病歴を確認し、佐々木は
「あなたは病気ではなく、色々な刺激に
対し、神経が過敏になって適切に反応
できなくなっているだけです。適度な
強さの精神安定剤によって、神経が適
切に反応できるようになれば、状況は
良くなっていくでしょう。」
と約束した。
「これから、どのお薬が、あなたに合っ
ているか、一緒に探していきましょう。
朝、昼、夕の薬は、それぞれ、作用が、
微妙に異なります。
服用後、数時間、無理のない程度で良
いので、心臓の鼓動、呼吸状態、肩や
表情筋の緊張の程度に注意して下さい。
まあ、メガネの度を合わせるようなも
のです。
どれも、同じように感じるかもしれま
せん。
それはそれで結構です。
それでは、2週間後の予約時間に来院
して下さい。」
神経症患者はイメージに囚われている。
過去にせよ、未来にせよ、ネガティヴ
なイメージに囚われて、始終、緊張し
ている。
そのため、リアリティ、つまり、現実
的な問題を前に、くたびれ果ててし
まっている。
心臓の鼓動、呼吸状態、肩や表情筋の
緊張は、イメージではなく、リアルな
現実である。
つまり、上記の指示は、患者をイメー
ジからリアリティに連れ戻すための暗
示だ。
「過去や未来」から「今、ここ」に連れ
戻すのである。
そして、自らの病状の回復にす体的に
関わらせる。
医師、即ち他者ではなく、自らの精神
状態に責任を持つのは、患者自身であ
ることを自覚、実践させ、精神的な成
熟を促す。
精神的な成熟とは、親の言いつけを
守って褒められ守らずに叱られて、一
喜一憂し、反抗したり甘えたりする子
供ではなく、親の言いつけ、即ち、超
自我からの挑戦に対して、同等に立ち
向かう人人になることだ。
つまり、超自我を克服することである。
しかし、こうしたことは、患者の自我
の検閲を上手く擦り抜けなければ、防衛機制、即ち心理的抵抗のために逆効果になる。
実践の秘訣は不立文字である。
16最初の気づき
一  心臓の鼓動、呼吸状態、肩や
表情筋の緊張の程度に注意して下さ
い。 ?
井トは、佐々木医師の指示を思い起こ
していた。
夕食後の薬を服用して、心臓の鼓動、
呼吸状態、肩や表情筋の緊張に注意し
てみたが、良く分からない。
まあ、いいか、無理しない程度で良い、
と言っていたし。
食器を洗ってリビングに戻ると、また、
夫がテレビを点けっ放しで外出してい
る。
たぶん、コンビニにタバコでも買いに
行ったのだろう。
テレビをちゃんと消してって、何度も
言ったのに!
心臓の鼓動が高まり、呼吸は荒く、肩
や表情筋が緊張してきた。
テレビを消すと、いくらか、そうした
状態は、弱くなった。
あれ?
これは、さっきの薬の効果なのだろう
か?
それとも、テレビを消したから?
それにしても、さっき、具合が悪くな
りかけたのは、夫のせいだ!
帰ってきたら、怒鳴りつけてやる!
そう心の中で罵ると、心臓の鼓動が高
まり、呼吸は荒く、肩や表情筋が緊張
してきた。

薬ばかりに頼らないように
?
何故か、佐々木医師ではなく、人和病
院の鈴木医師の声が、頭の中で響いた。
「つまらないことで、怒ることもない
か?」
そう、つぶやいたら、心臓の鼓動は静
まり、呼吸が楽に、肩や表情筋の緊張
は緩んだ。
背筋が仲びるのを感じた。
少しだけ、しかし、確かに気持ちは楽
になった。
心に刺さっていた小さな棘が抜けた。
薬ばかりに頼らないように
鈴木医師の言葉の本当の意味が理解出
来たのである。
17診療報酬改定
精神科医の処方に口出しする厚生局は
傲慢だ。
しかし、精神科医の傲慢が、そうした
状況を引き寄せたのかもしねない。
川で溺れている子供に対し、
「もっとしっかり泳げに
と叱咤することでも超自我は機能する。
それは、生活苦に喘ぐ患者達を見下ろ
す精神科医の姿に似ている。
厚生局は、その様子を更に高みの見物
だ。
「ちゃんと助けてやれよ!」
と怒るが、自分が川に飛び込む気はさ
らさらない。
もちろん、それぞれの立場の苦労はあ
るだろう。
平成28年3月末、精神神経学会の反対
にもかかわらず、厚生局は、抗うつ薬、
抗精神病巣の多剤併用処方に対する通院精神療法の減算を決定した。
精神科医は精神現象を熟知しているわ
けではない。
単に、精神疾患を患っている人々と投
薬を介した付き合い方に慣れているだ
けだ。
厚生局に、それが見抜かれたのかもし
れない。
厚生局にとって、既に、精神神経学会
は権威ではない。
厚生局が、精神神経学会の権威なのだ。
厚生局は保護する見返りに精神神経学会に服従を要求する。
つまり厚生局は精神神経学会の超自我
である。
しかし、ある意味で、厚生局は精神神経学会を恐れている。
精神神経学会は、より安楽な職務と診療報酬の値上げを理不尽に要求しかね
ないからだ。
つまり精神神経学会は厚生局にとって
イドなのだ。
権力とは何か?
今のところ、厚生局の方が精神神経学
会よりも御存知だ。
気の利いた説明は出来ないだろうが、
日々の職業生活を通じて、体で学んで
いる。
精神神経学会が、その真理を掴めば、
保険医療制度の破綻と権威の喪失を恐
れる厚生局の超自我にも成り得る。
少なくとも、超自我である厚生局を克
服し、対等の立場で発言できる成熟し
た学会になるだろう。
しかし、寝惚けまなこで製薬会社と一
緒に脳味噌を掻き混ぜていても真理は
見つかるまい。
「成熟」そして「死と再生」の前に、ま
ず、目を覚まさなければならない。
抗不安薬、睡眠薬については、これま
で通りなのは、関係者の深謀遠慮か?
山田院長のカンファレンスでの発言は
人和病院の門前調剤薬局でも話題に
なっていたので、松本はホッとした。
差し当たり副作用の強いバツビツレー
ト系睡眠薬の処方が増えることはなさ
そうだ。
しかし、いずれは、バルピツレート系
睡眠薬の処方は増えるかもしれない。
睡眠薬の効果を補完するために、多く
の抗うつ薬や抗精神病巣が処方されて
いる。
しばらくは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の増量が試みられるだろう。
しかし、効果がなければ、・・・。
佐々木メンタルクリニックの閉院につ
いて、松本は、気の毒と思っていた。
しかし、考えてみれば、閉院のタイミ
ングとしては良かったのかもしれない。
診療報酬改訂で、多剤併用処方の多い
精神科クリニックの減収は必至だ。
薬剤調整は難しいだろう。
対応が難しい患者だからこその多用併
用処方なのだ。
この薬局でも今迄通りの薬を出せとゴ
ネる患者が何人かいた。
行動しなくては、何も変わらない。
そして、行動しない者は、「行動し
ろ日と喚き立てる。
そして、「お前がやれば?」と言い返さ
れる。
すると、「それは無理だ。しかし、少な
くとも、俺は黙ってはいなかった。」と
お茶を濁す。
現行の診療報酬では、厚生局の要求す
る医療を提供する理想的な模範医療機
関の設立運営維持は困難を極める。
自分でも出来ないことを厚生局は医療
機関に要求しているのか?
しかし、逆に、もし設立運営の模範が
示せるなら、多くの医療機関が後に続
くだろう。
模範解答がある課題なら、難関な医学
部入試を突破して来た医師の得意とす
るところだからだ。
やってみせ、言って聞かせて、させて
みせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
(山本五十六)
モニターとなる医療機関を設立し、現
行の診療報酬で、優秀な医師、看護師
を呼べるだけの給与を提示し、それを
払い続け、経営を評価する。
黒字になれば、診療報酬を削減すれば
良いし、赤字になるなら、診療報酬は
引ぎ上げれば良い。
それなら、フェアだ。
しかし、厚生局は何か何でも、診療報
酬は引き下げたい。
モニター医療機関が大幅な赤字にでも
なったらヤブヘビだし、そうなる可能
性は高い。
行動するより文句を言っている方が無
難だ。
模範解答がない課題を苦手とするのは、
医師だけではない。
国家公務員I種試験を突破してきた高
級官僚にとって、海図のない航海に乗
り出すのは無謀なことだ。
手本を見せるどころか、混乱とパニッ
クに陥りかねない。
国家の中枢がパニック状態になっても、
治療してくれる精神科医はいないので
ある。
18 厚生局の憂鬱
崩壊寸前の医療保険制度の状況にあっ
て、厚生局に高みの見物が出来ようは
ずがない。
厚生局も精神的な苦悩にある。
そうした精神について熟知しているな
ら精神科医に、敬意を払い、彼らの意
見を尊重せざるを得ないだろう。
しかし、彼らの取り柄は、精神疾患の
扱いに限られている。
しかも、その取り柄も信頼に足るもの
ではない。
患者遠の訴えを鵜呑みには出来ないが、
酷い精神科医は少なからず存在してい
るに違いない。
大多数の精神科医は問題ないだろう。
しかし、精神科という領域そのものが、
曖昧で、胡散臭いのだ。
精神疾患は存在し治療成果をあげてい
ることは、確かだと思われる。
しかし、無駄な治療で医療財源を食い
潰しているケースも多いようだ。
精神疾患とは何か?
以前の従来診|折から現在の操作的診断
になり、体裁だけは整った。
しかし、精神科における診断は、依然
として曖昧で漠然としている。
そもそも、精神とは何か?
「分からないので説明して欲しい。」
とは、今更、言えない。
それに、彼らの自殺率は、我々よりも
高い。
多くの精神科医は何らかの精神疾患に
罹患しているのではないか?
そんな彼らの意見を安易に受け入れる
わけにはいかない。
精神科医は魔法の使えない哀れな魔法
使いだ。
猟奇的な精神異常者の犯罪における精神科医、引きこもり等の社会問題にお
ける精神科医。
その無力さには、しばしば苛立たされ
る。
しかし、本当の魔法使いの出現は、厚
生局だけでなく、多くの人々にとって、
恐怖であり、望むべくもない。
心の底を見透かし精神状態に干渉する、
そんな他者の存在を望む人間はいない。
歯医者が自分より自分の口の中のこと
を知っていること、そして、自分の口
の中を弄(イジ)り回すこと。
内科医や外科医が自分より自分の腹の
中を知っていること、そして、自分の
腹の中を弄り回すこと。
病気ということなら、それは良い。
100歩譲って、脳外科医が自分より自分
の頭の中を知っていること、そして、
自分の頭の中を弄り回すこと。
それも、決して愉快ではないが、病気
ということなら、それも仕方があるま
い。
しかし、自分より自分の心の中を知っ
ていること、そして、自分の心の中を
弄り回すこと。
それだけは、断じて、容認出来ない。
例えそれが、病気を治す医者であって
も。
だって、そうなったら自分は、その医
者の奴隷になってしまうではないか?
つまり、精神科医の無能さは、国民の
要請であり、現在、そのようになって
いるのである。
自分の心の中を覗いたり弄り回す他者
の存在は我慢できない。
しかし、心の辛さを楽にしてくれる薬
なら、歓迎する。
それで、現在の精神科医療は薬物療法
を優遇しているのである。
しかし、この精神科薬物療法の堕落は
なんとしたことだろう?
我々は、何か、根本的なところで、
誤っているのかもしれない。
そもそも、精神とは何か?
文系の我々が理系の医者に尋ねなけれ
ばならないのか?
尋ねれば答えてくれるのか?
そして、その答えは正しいのか?
しかし、それが、分かるまで、我々は
手をこまねいているわけにはいかない。
何らかの手を打たなければならない。
答案用紙は白紙で提出すれば零点だ。
たとえ、はっきりした正答が不明でも、
なんらかの回答を記人すべきなのだ。
19パニック
時は遡り、平成28年2月某日。
佐々木メンタルクリニックの入り口に、
閉院の知らせがヒッソリと張り出され
ていた。
半年ぶりに、佐々木メンタルクリニックを訪れた加藤明宏は、パニックに
なった。
終診時に処方された頓用薬がなくなり、
久しぶりに佐々木先生に会えることを
楽しみにしていたのに完全に想定外
だった。
顔見知りの内科開業医に頼みこんで
佐々木メンタルクリニックにかかり始
めた時、つまり、一番調子の悪かった
時の処方をしてもらった。
内科医に、
「今回だけですよ、早めに精神科を受診
してください。うちは専門外だから。」
と念を押された。
ひと安心したのも束の間、貝合は悪く
なるばかりだった。
胃の具合が悪く吐き気がする。
血圧も180を越えている。
何もかも、振り出しに戻ってしまった。
些細なことで、妻や娘に八つ当たりし
て、自己嫌悪に陥った。
電話帳で調べて、何件かの精神科に電
話をしてみたが、何処も初診は予約制
で、一番早いクリニックで3週間待ち
だった。
「体調が悪いなら、まず、内科で診ても
らって下さい。」
電話先で看護師に言われた。
混乱した頭で、佐々木メンタルクリ
ニックに行く前に通っていた、消化器
内科、循環器内科を受診して、以前も
らっていた薬を出してもらった。
こんなに薬を飲んで良いものか、不安
もあったが、とにかく、早く調子を良
くしなくてはと焦っていた。
調子が良くなったら、早めに薬を減ら
せば良いと思って、もらった薬を口の
中に放り込んでいた。
その後のことは、よく覚えていない。
どこかで転んで、右足の付け根に、も
の凄い激痛。
県立中央病院で手術を受けて、いつの
間にか、人和病院の鈴木先生の治療を
受けていた。
20 権力と魔術
興奮し暴れ狂う統合失調症患者の治
療に必死で取り組む精神科医療従事者。
厚生局は
「多量の薬は使うな!隔離拘束もするな!
どうしても隔離拘束をするなら、15分
毎に記録しろ!」
と命令する。
しかし、診療報酬は引き下げる。
最低限の診療報酬では最低限の人員設
備で対応するしかない。
当然、記録等には、不備が生じてくる。
厚生局は百も承知だ。
殆ど全ての医療機関は、叩けば埃が出
るに違いない。
それに、自衛隊は軍隊ではないと公言
して憚らない国だ。
黒いものを白と解釈することも、その
逆も、彼らにとっては可能。
魔術。
「こんなものは、記録ではない。」
その一言は呪文。
さっきまで、キチンとした記録に見え
ていたのに、役人の一言で、ボロボロ
にしか見えなくなる。
その気になれば、厚生局は、報酬の返
還を指示出来る。
しかし、良識のある厚生局が、そんな
理不尽な事をするはずがない。
医療機関の窮状を知っている厚生局の
対応は適切かつ寛人だ。
ただし、・・・
その医療機関が厚生局に敬意を払い、
従順である限り。
つまり医療機関は厚生局のやり方に改
善を要求出来ない。
権力者は、全ての人間にとって守るこ
とが出来ない規則を作ることに成功す
れば、全ての人間を支配出来る。
気に入った人間は見て見ぬ振りをする。
そして気に入らない人間は罰すること
が出来るからだ。
権力者。
これは、政治家を指す場合が多いが、
その源流は、子供に対する親である。
権力を振るう者、権力に屈する者、逆
らう者、奪う者、失う者。
ちっぽけな権力は、様々な人間関係に
満ち溢れている。
神も悪魔も信じない。
目に見えるものしか信じない。
と言う人間に対しても、目に見えない
権力は、容赦しない。
権力とは人間の罪悪感と恐怖を力の源
泉とする魔術。
それを使いこなすには、精神科医以上
の哲学的心理学的素養が不可欠。
人々の依存心から権力者という幻覚が
湧き起こる。
私は依存していない。
常に批判している。
という人々も権力者を批判した瞬間、
その幻覚を更に強固にする。
幻覚を投影された権力者は楽器を持っ
た猿。
権力闘争とは楽器の奪い合いだ。
そして楽器を手にした猿は、不協和音
をかき鳴らす。
しかし、太鼓くらいなら上手く叩ける。
そして、時々は、良い音を出して大喜
び。
だが、猿が猿であることを自覚し九時、
猿は人間になる。
魔法が解けたのだ。
21魔法
加藤の病状は見違えるように良くなっ
た。
5月2日、面会に来ていた加藤の妻に鈴
木は告げた。
「もう、人分良くなっているようなので、
外泊をしたらどうですか?もし、良け
れば、今度の連休に外泊をして、5月
9日の11時に病状説明、御家族さえ良
ければ、その日に退院してはどうで
しよう?」
妻は待ちきれず、早速、その日の夕方
には患者である夫を連れて、家に外泊
させた。
外泊から帰ってきたのは5月
9日の10時頃だった。
その日、臨床心理上が検査したHDS-R
は21点。
HDS-Rでは20点以下が認知症の目安
とされており、かろうじて合格点てあ
る。
妻と娘は劇的な病状の回復が信じられ
なかった。
単に病気が洽ったのではない。
半ば死んでいた人間の魂が蘇ったのだ。
「先生は、いったい、どんな魔法を使っ
たのですか?」
そして、妻も娘も感極まって涙を流し
た。
自分のしたことは、単に、薬を止めた
だけなので、鈴木は面はゆかった。
しかし、薬を使わずに病気を治せば、
患者や家族にとって、それは一種の魔
法なのだ。
加藤の病状は劇的に改善したが、高齢
に加え不安症状を認め、周囲のサポー
トが必要だった。
加藤の不安症状は超自我からの
「心配ない、大丈夫!」
といった保証を必要としていたが、老
齢の妻にとって、その役割を果たすの
は、荷が重かった。
更に、加藤の妻は、鈴木の見たところ、
アルツハイマー病の初期ではないかと
疑われた。
加藤の娘に、指摘したところ、娘も同
意見であり、析をみて母親に認知症の
精査を受けさせることになった。
そして、娘は他県に嫁いでおり、週に
一回程度、様子を見に行くのが精いっ
ぱいだった。
しかし、幸い、加藤家は、経済的には
余裕があったため、鈴木が訪問診療し
ているケアハウス菩提樹に入所するこ
とになった。
最初、加藤は、施設入所に拒否的だっ
たが、ケアハウスの庭園や居室、ホー
ルの奢侈な調度品、そして、何より、
明るく清々しく働いているスタッフ達
を見て、気が変わったようだ。
不安に怯える子供に安心感を与える母
親と父親のように、不安におびえる加
藤に、ケアハウスのスタッフと定期的
に訪れる鈴木医師が、しっかりと安心
感を与えてくれることだろう。
終わり。
この物語はフィクションです。
 

アルコールによる不眠症対策

アルコールによって対症療法的な不眠症対策をしていても、回数を重ねると、少しずつ慣れてきます。
そして、なんだ効かないのかと考えてアルコールによる不眠症対策を急にストップさせれば、不眠が顕著に確認されるという悪循環です。
アルコールに頼ってばかりいると、不眠をどんどん悪化させてしまうので、早い段階での専門医への、ご相談をおすすめします。
 

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